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神を拾った竜殺し~星の少年と炎の少女~・改訂版  作者: みつまめ つぼみ
星の少年と炎の少女

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第33話 邪教

 テスティアがフッと笑みを浮かべて答える。


「需要が多い、普遍的な構造の工房であれば、短期間で構築できるようになっているのです。

 さすがに特注の工房は同じように数か月を要しますが、今回の要件なら特注品は不要です」


 アイリーンが(うなず)いてニアに告げる。


「要するに、完成済みの部品として工房を作り貯めておくのよ。

 在庫があれば、あとは組み合わせるだけで済むの。私の時代にもあった手法ね」


 ニアが納得するように(うなず)いた。


「なるほど、構造物そのものを部品とする手法……そんな考え方もあるのね。

 でも、その構造物を運搬するだけの力が求められるわ。馬車では力不足よ」


 テスティアが(うなず)いて答える。


「ええ、なのでそこは転移魔法を使います。

 転移魔法で構築現場に部品を運び込み、浮遊魔法で位置を調整して組み合わせます。

 現地の座標を知っている術者が必要ですが、今回は私が居ます。問題ありません」


 リストリットが感心して告げる。


「へぇ、転移魔法か。便利そうだな。

 ――なぁノヴァ、竜峰山(ドラゴンズ・ピーク)から帰る時、その魔法を使うわけにはいかなかったのか?」


 ノヴァがため息交じりで答える。


「テスティアが言ったでしょう?

 あれは術者が転移元と転移先の座標を知っている必要があります。

 僕はあの時、ピークスも王都も座標を知りませんでしたからね。

 今ならば、転移魔法で竜峰山(ドラゴンズ・ピーク)と王都を往復することもできますよ」


 リストリットが考え込みながら(たず)ねる。


「じゃあ、テスティア女皇がお前たちを連れて、アルトゲイルに戻ることも可能なんだな?」


 ノヴァが(うなず)いて答える。


「そういうことです――どうしました?

 いざとなったら僕らをアルトゲイルに強制送還でもさせたいのですか?

 僕はアイリーンがここに居たいという限り、アルトゲイルに行く気はありませんよ?」


 リストリットが苦笑を浮かべながら答える。


「お前ら、自分の命がかかってるんだからわがまま言うな。

 それが可能だと分かっただけで一安心だ。

 戦争が始まっちまったら、お前らはアルトゲイルに逃げ込め」


 アイリーンが悲し()に告げる。


「えも、それじゃあリストリットさんとニアさんが死んでしまうわ。

 まだ婚姻も済んでいないのに。私、そんな未来は嫌よ?」


 ノヴァが優しくアイリーンの頭を()でた。


「心配いりません。そうならないように動きます。

 ――リストリット、テスティアと共に国王を説得してください。

 『今すぐ軍は派遣しますが、技術は渡せない』とね。

 テスティアは軍の編成を急がせてください」


 リストリットとテスティアが(うなず)いた。





****


 テスティアはすぐに遠隔通話魔法で本国との連絡を取り始めた。


 群の編成と派遣を指示した(あと)、リストリットと共にビディコンス国王の説得に向かった。


 ビディコンスは一向に納得しなかったが、見かねた王妃が説得に加わった。


 その場はなんとか私生子であることを黙ることに(うなず)かせることに成功した。


 だが『引き続き技術供与の要請は続ける』と譲らなかった。



 王の説得から戻ったリストリットは、疲れ果てて執務室のソファに座り込んだ。


「――はぁ。父上はいつの()にああなってしまわれたんだ」


 ニアが紅茶をリストリットの前に置き、隣に腰掛けた。


「殿下、同化お気を確かに。今この国で頼りになるのは、殿下だけです」


 向かいに座っているノヴァも、冷笑を浮かべながらリストリットに告げる。


「僕は『貴方(あなた)(そば)にならアイリーンを置いておける』と思えたのです。

 その貴方(あなた)がしっかりしなければ、僕も安心できないというものですよ」


 リストリットが紅茶を一口飲んで小さく息をついた。


「だけどなぁ。問題が多すぎるんだよ。

 隣国の脅威(きょうい)に陛下の錯乱(さくらん)、お前らの面倒に俺の婚姻、とどめとばかりに異教ときた」


 ノヴァがピクリ、と眉を持ち上げた。


「なんです? その異教というのは。話してください」


「あー? 興味あるのか?

 なんでも『人間を生贄(いけにえ)にする儀式を行う宗教』らしい。

 詳しいことはそれ以上分かってないが、最近貧しい民衆を中心に信徒を増やしている。

 諜報員を送り込むと漏れなく失踪する、厄介な相手だ。

 今は国外の異教の様子を探らせてる――『デルグ・エスト教』というらしい」


 テスティアが苦々し()に告げる。


「我が国では締め出していますが、各国で地道に勢力を伸ばしている邪教ですね。

 どの国も、同じように対応に苦慮しているようです。

 対応策は『信徒を根絶やしにすること』のみです」


 リストリットが苦々しい顔で答える。


「アルトゲイルですら、そこまでしないとならん勢力か。どうしようもないな」


 ノヴァが目を伏せ、眉根を寄せて黙り込んでいた。


 アイリーンがノヴァに(たず)ねる。


「ノヴァには心当たりがあるの?」


「わかりません。ですが、どこか聞き覚えのある名前だと思いまして。

 かつての僕が知る神だったのかもしれません」


 テスティアが眉をひそめて答える。


「私には心当たりのない名前です。

 となると、『古き神々の名前』ということになります。

 ですが彼らはノヴァ様によって天界に封印されているはず。

 ノヴァ様の封印を破る力など、彼らにあるとは思えません」


「あれから長い年月が経っていますからね。

 それに、今の僕は不完全です。

 それが封印に影響を及ぼしていてもおかしくない。

 神の一柱や二柱、抜け出ているかのうせいを考えておかねばなりませんね」


 テスティアが小さく息をついた。


「こんな時にブルームスベイルゲイルが居れば頼りになるのですが。

 彼はどこに居るのか、皆目見当がついておりません」


 ノヴァが顔を上げてテスティアに(たず)ねる。


「ブルームスベイルゲイル――彼は『人間世界で害ある存在を滅ぼして回っている』と、そう言いましたね?」


 テスティアが(うなず)いて答える。


「はい、確かにそう口にして私と(たもと)を分かちました」


「ならばなぜ、そのような邪教がのさばっていると思いますか?

 彼が活動していれば、必ず攻撃対象とするはずです」


 テスティアも考え込み始めた。


「……分かりません。確かに、なぜ邪教を見逃しているのでしょう」


 リストリットが告げる。


「――可能性は二つ。

 一つは『もうそいつが滅ぼされている』。

 もう一つは『そいつが邪教側に居る』。

 どちらかだろう」


 テスティアが渋面を作った。


「一つ目はあり得ません。私に匹敵するブルームスベイルゲイルを滅ぼせる者など、ノヴァ様以外にいません。

 そして二つ目はもっと有り得ません。

 人間の生贄(いけにえ)を求める神になるなど、そのような機能を私たちは持っていません」


 リストリットが首を横に振った。


「いや、二つ目は解釈が違う。

 『そいつが邪教で崇められてる』んじゃない。

 『邪教で崇められている神の側に居る』と、そう言ったんだ」


「ブルームスベイルゲイルがノヴァ様を裏切り、古き神に降ったと、そういうのですか?

 それこそ、そんな機能を持ち合わせていません」


「何か目的があって邪教の側に居るのかもしれん。

 だが見逃してるとするなら、そういうことになる」


 ノヴァが難しい顔で告げる。


「彼が敵に回るとなると厄介ですね。

 今の僕には彼を抑えきれません。

 彼が僕を殺すことはできませんが、僕に害ある行動を取る可能性はあります」


 リストリットがノヴァに(たず)ねる。


「なんでお前を殺せないんだ? 今は相手の方が力が強いんだろう?」


「新しき神々は僕の力を分けた存在です。

 分霊に近い存在、と言って分かりますか?

 僕は自分で死ぬことができません。それは新しき神々の間で殺し合うことができないことを意味します。

 新しき神を殺したければ、古き神の力を借りるしかない。

 唯一の例外が僕です。僕は新しき神を、元の力に戻して同化することができます。

 つまり、古き神々が居ない現状で、新しき神を唯一滅ぼせる存在が僕です」


 リストリットが手を打ち鳴らして告げる。


「『新しき神を殺したければ、古き神の力を借りる』――それはつまり、今の状況じゃないか?

 そのブルームスなんちゃらが、古き神を信仰する異教を起こすか利用するかした。

 古き神の力を借り、新しき神を殺して回ってる。

 これなら、各国で勢力を増している状況に符合する」


 ノヴァがテスティアに(たず)ねる。


「テスティア、新しき神々と連絡は取れますか?」


「いえ、直接取ることはできません。

 ですが何柱かは所在を知っています。

 彼らの安否を直ちに確認します」


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