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ブルーライトニング 改訂版 第99章

 玲子が学校から帰ると、シチューのいい香りが玲子の鼻をくすぐる。

「ただいま」

 台所をのぞくと、マルスが踏み台の上に立って、鍋をかき回していた。隣でトリオがマルスのすぐ横に立っている。たぶん、トリオがマルスにつきっきりでシチューの作り方を教えているのだろう。

 二人は振り返って、

「お帰りなさい」と返事をした。

「今夜はシチューなの?」

「そうだよ、トリオに教わって作ったの」

「そうなの、楽しみだわ」

 ロビーはリビングでマルスとトリオの支度を眺めているだけだった。自分の出る幕ではないと思っているのか、全く動かない。

「ロビー、ただいま」

「お帰りなさい、お嬢様」

「伯父さんとおばさんはもう少しかかるの?」

「もうまもなくお帰りです。先ほど、ダグラスを車で離れたところです」

「そう、じゃあ、みんなそろって過ごせるね」

「はい」


 玲子は手を洗って、室内着に着替える。マルスは明日から遠征でしばらく帰ってこないことは聞かされていた。ファントム最強と言われるマルスが投入されるということは、かなり難易度の高い作戦なのだろうと玲子は予測している。玲子は、マルスを送り出す前に、少しでもマルスの気持ちを和らげておきたかった。

「今夜はいっぱい抱っこしておこう」




 一緒に風呂に入ったあと、マルスはドライヤーの風をあて、玲子の髪をすいている。自分でやればすむことながら、玲子に尽くすことに喜びを感じているマルスの気持ちを、大事にしてやりたいと玲子は思っていた。トリオの手並みは完璧だが、マルスの場合はそうでもない。髪をすく力がやや荒いとかの多少の不具合は、この際、目をつぶることにしていた。

 相変わらず、マルスは玲子のTシャツを寝間着代わりに着込んでいる。最近は軍の任務も多いからか、パジャマを着てくれない。それも仕方がないと玲子は思っている。もっとも、最近ではこの姿も可愛いと玲子は思うようになっていた。

「お姉ちゃん、髪かわいたかな?」

 玲子は手で髪をすくと、

「うん、完璧!」と言った。

 ドライヤーをしまい、マルスは玲子の膝に座って、玲子にもたれかかる。玲子はそんなマルスの頭や背中を撫でる。マルスにとって、心地よい時間であったが、玲子にとっても心地よいものだった。妹の由美子もたまにわがままで玲子を煩わせたが、ケロッとして甘えることが多かった。玲子の膝の上に座ったり、寒いとか、風の音が怖いとか言って、玲子のベッドに潜り込むことも少なくはなかった。マルスはわがままを言うことはないが、由美子以上に甘えんぼである。


「明日から、マーサを手伝いに行くの」

「マーサ? ああ、リヨン大統領を護衛している子ね」

「うん、なんか、マーサを見ると変な感じがする・・・」

「マルスも可愛かったわよ。女の子の姿・・・ 」

 リヨン大統領の護衛のとき、一時的にマルスは女の子の姿になった。マーサはそのときのマルスの姿とそっくりに作られていた。マルスとはちがって、リヨン大統領の護衛として働くマーサは、姿と名前が公となっていた。だから、プレストシティでリヨン大統領を暗殺から守った少女も、マーサであるとメディアでは誤って報道されていることも少なくない。もっとも、リヨン大統領もプレスト海軍も積極的にその誤りを正したりはしない。真相を伏せていても、抑止力としてはマーサの実力と見せるのは好都合であるし、マルスのこともごまかせるからである。マーサも多数のロボットとともにリヨン大統領の護衛として働いていることを知っている玲子にとって、そこにマルスまで投入されることにふと疑問を感じた。

「マーサだけでは危ないの? マルスが助けに行かなきゃならないほど」

「攻撃の規模が大きいと予測されているの」

「そっか、プレスト海軍もたいへんだね」

「ゼムとプロメテウスは居残りだよ。お姉ちゃんとプレストシティは、この二人が守ってくれるよ」

「それなら、安心ね。でもね、マルスもリヨン大統領を守ってね。あの人も大切な人よ」

「うん、わかってる」

 さりげなく、マルスにリヨン大統領の護衛が大事であると強調することを玲子は忘れなかった。

「お姉ちゃん、ぼくね、がんばる」

「うん、でも、無理はしないでね」


 玲子は「もう寝よう」といって、マルスを膝の上から下ろす。

「おいで、マルス」といって、マルスと一緒にベッドに横になった。マルスはぴったりと玲子の体にくっついてくる。最初の頃は遠慮がちだったマルスも、最近では遠慮なく体をくっつけてくる。最初から懐いていたとは思うが、懐き方が深化したのだろう。玲子にとって至福の時だった。玲子はマルスを抱きしめて言った。

「マルス、無事に帰ってきてね」

「うん」




 プレスト海軍のロボット機「ミネルバ」は、ライトニングファントムのロボットを乗せた輸送機を引き連れ、一路、ソプラノシティを目指していた。ライトニングファントムは、リヨン連邦大統領からの招聘を受けたスコット司令の護衛が任務であった。しかし、真の目的は、ソプラノシティで行われるリヨン大統領と、新しく編成された連邦軍司令部との会談の時を狙うクーデターに対抗するためである。むろん、この真の目的を知るものは、リヨン大統領と連邦軍司令部のメンバー、そしてプレスト海軍司令部要員のみであった。


 ミネルバの機内ではスコットがサムとお茶を飲みながらくつろいでいる。

「テロを誘う餌としては上等と思わんか?」といたずらっぽい笑みを浮かべてスコットは言った。対するサムは苦笑いだ。

「たしかにそうですが・・・ 」

「当日、君には別のミッションがある。ノーマと一緒に頼む」

 サムは頷きながら、答えた。

「わかっています」

「私のことは心配ない。そばにはミラがいるし、マルスもいる」

 ミラはスコット付の少女アンドロイドであり、ノーマと同じ情報分析型アンドロイドである。

「ライトニングファントムの中でも精鋭をそろえましたので、これ以上のことは望めません」

「いや、十分だよ。どのみち、リヨン大統領の新しい連邦軍司令部は狙われているのだ。ここで、できることといえば、ライトニングファントムを投入するしかない。むしろ、同時多発的にテロを起こされるより、目標を集めて防護した方がやりやすいという西郷の意見には賛成だ」

 内心、サムは西郷の立てる作戦が荒っぽいと思うが、実際は敵の動きを利用しているのに過ぎないことも理解していた。

「情報部の情報だと、ほんとにテロ用ロボットを潜入させているのが驚きです。手引きしている旧体制派の軍人もモニターできてますし、迎撃できれば、いい結果になりそうです」

「そのあたりは期待している」

 スコットはふと言葉を切り、そして感慨深く言った。

「それにしても、ここまで来たかという感じだな」

「そうですね」

「体制を整え始めて五年、亡霊作戦を始めたのはつい半年前だというのに、もう最終局面まで来た。君が軍に復帰してくれて、ファントムの基盤を整えてくれたことには、感謝している」

「私より、西郷中将の功績が大でしょう」

 スコットはわずかに笑みを浮かべる。

「川崎さんから、第七艦隊の司令候補にエドワーズではなく西郷を推挙されたときは、耳を疑ったが、なかなかすごい人材を紹介してもらったものだ。エドワーズも西郷に信服していたことにも驚かされたが、実際、手際の良さときたら、神がかっている・・・ 私も意義のある仕事ができることに満足しているよ。とにかく、ガバメントを潰す。もう一息だ」




 夕食の後、玲子は上原や敷島と食後のお茶を飲みながらおしゃべりをしていた。

「マルス、今頃、何してるかしら」

 誰かに問いかけたというわけではないが、上原が答える。

「リヨン大統領とスコット司令の会談の警備の準備をしていると思うわ。正念場だからね」

 玲子は上原を見ていった。

「やっぱり、何かあるのね?」

「何もないのに、マルスが出撃するわけないでしょ。マーサもいるのに・・・」

「そこまで、わかるのね。だから、テロを防ぐことができるのね」

「でも、そこまでできるようになったのは、つい半年前、アルトシティでの迎撃作戦の時からなの。それでも、守れない命はある。最近のピースキーパーのテロに被害なく対処できたのはフォルテシティとロンドシティ、アルトシティにプレストシティだけよ。その四つのシティはプレスト海軍の情報局の情報を受け入れたからね。そのシティの当局が動かなければ、テロを防げないから」

 玲子はぎゅっと口を結んだ。

「玲子、アルトシティはほんとにすごかったのよ。プレスト海軍の情報局からテロの標的になっていると聞いて、アルトシティ防衛軍はプライドを捨てて、プレスト海軍の援軍を受け入れたんだからね。メンツにこだわってたらできないわよ。トマセッティ司令はすごかったの。ただ、そんなことができるのは、ごくまれなの。残念だけどね」


「マルス、大丈夫かな」

「大丈夫よ。伯父さんと私の分析では、今度の敵はマルスより低レベルの敵だから」

 玲子はいぶかしげに聞く。

「そんなこともわかるの?」

「もちろん。マルスは想定される敵ロボットに対抗するために作られたファントム最強のロボットなの」

 沈黙を保っていた敷島が初めて口を開く。

「それは、私も保証する。マルスは敵のロボットに負けることはない。圧倒的な性能の差があるからな。だから、心配するな。それに、マルスのほかにライトニングファントムの精鋭J-9タイプも行っている」

 敷島はそこでにやりと笑った。

「もっとも、素人は精鋭とは思わないだろうがな」

「J-9タイプのロボットをみて、精鋭とは普通、思えないでしょう」と玲子も返した。マルスの設計ベースとなっているJ-9のことは玲子も知っているが、子供の体格でしかないロボットが強いとはとても思えない。フォルテシティやロンドシティが相次いで最新型としてJ-9タイプのロボットを採用しているが、世界では少なからず疑問視されている。ただ、玲子は学校を襲った武装テロリストから、無傷で守り切ったロボットの半数がJ-9タイプのロボットと知っているので、偏見は持っていなかった。

「いずれにせよ、ライトニングファントムの中でも最強レベルのロボットが派遣されているんだ。あまり心配しなくていい」

 普段、聞くことが少ない、自信に満ちた敷島の言葉は、玲子の心を落ち着かせた。




 大統領官邸の会議室にはリヨン大統領と連邦軍の新体制の司令部要員とスコット司令が顔を合わせていた。司令部要員たちは少々、落ち着かない。大統領を護衛している少女型アンドロイドマーサと、マーサにそっくりの女の子が警備体制について説明しているからだ。あまりに外見のギャップが激しいから、戸惑うのは無理もないとリヨンは思った。

 マルスは今回もマーサと同じ姿に変装している。

「不明のトラック三台、官邸に向けて走っているのが確認されています。サイズからすれば人型戦闘ロボットが三十体ほどと思われます」とマルスは状況を説明する。

 リヨンはマルスの本来の姿を知っているが、今、目の前のマルスは、以前、自分たち家族を守った女の子の姿をしている。正体を知られないための配慮であるとリヨンは察した。

「官邸を守るロボットは五十体をこえます。上空も戦闘機が警戒してますのでご安心ください」

 女の子たちはお辞儀をして、退出した。

「スコット司令、あんな子供のようなロボットで大丈夫なのですか?」

 プレスト海軍が送り込んできた三十体のロボットはすべてJ-9タイプのロボットで、小さな子供のようなロボットである。不安がるのは無理もないとスコットは思っていた。

「大丈夫ですよ。あれでもファントム最強レベルのロボットたちです。信頼は裏切りません」

 同席していたボイド大佐は場の雰囲気を和らげるように言った。

「あのタイプのロボットは、フォルテシティ、ロンドシティ、アルトシティが優先的に配備してますな。彼らはJ-9タイプの性能を理解していると言うことですね」

「そうです」

「では、我々もお手並みを拝見ということにしましょう」

 ボイドは一息おいてから続けた。

「プレストシティはここ数年、テロをほとんど完璧に制圧してきました。だが、人間のテロリストと戦うには、ファントムのロボットはあまりにも高性能過ぎると我々は感じていた。あなた方はテロがロボットに移行することを予想していたのですか?」

 スコットは頷いた。

「プレスト海軍が結成されたときから、いずれはロボットがテロの主体となるだろうという予想はありました。しかし、我々より前に、ダグラスも同じ予想をしていました。だからJシリーズやソレイユたちのようなスーパーアンドロイドを開発していたのです。殺人ロボットに対する最後の盾となるロボットを開発する。それがダグラスの方針だったのです。我々、プレスト海軍はそれを活用したにすぎません」

 ボイドはなるほどと答えた。どこか人ごとのようにリヨンが口を挟んだ。

「例のトラックが到着したようだ」

 官邸の監視カメラが官邸前の道路にトラックが急停車し、バラバラとロボットが降りてくるところをとらえた。整然としたその動きは、よく訓練された兵士の動きだったが官邸の敷地に侵入したところで、次々と破壊されていった。しかしロボットを攻撃するものはカメラには写らなかった。あまりにも移動速度が速いため、ディスプレイに表示仕切れないのだ。何人かのロボットがグレネードランチャーを構えるが、あえなく見えない何者かに破壊される。周辺の道路を歩いていた歩行者や一般車両を何人かの官邸警備のロボットが整然と止め、待避を促していた。

 マーサの姿をしたマルスは一体のロボットにあえて甘い攻撃を加えた。その攻撃はあっさりよけられ、相手のロボットがマルスを認識し、言葉を発する。

「なぜ、我々のじゃまをする」

「言葉を操るのか?」

「じゃまをするな!」

「それがわかれば用はない!」

 マルスのライトセイバーは敵を両断した。マルスが本気になれば敵ではない。互いに連携するファントムのロボットにとって、孤立した行動しかとれない敵ロボットを倒すことなど、造作もなかった。


「なにが起きているのだ」

 会議室のモニターではロボットが次々と破壊されている様子が映し出されていたが、破壊されるロボットはとらえられても、破壊しているロボットをとらえることができなかった。

「これがファントムの実力か」と初めて目にするファントムの実力にボイドは驚愕した。騒ぎが収まるのに一分もかからなかった。会議に臨席していたミラは一言、

「制圧完了です」とスコットに報告した。

「敵のロボットの性能は確認できたか」とスコットが問うと、

「敵のロボットと会話ができました。やはり、自立思考型のロボットです。目標を破壊殺戮するためにだけに行動していることがわかりました」

「そうか・・・」

「スコット司令、今の話はどういうことなのか」とリヨンが聞く。

「敵のロボットが遠隔操作ではなく、自立した思考で動くロボットであると言うことです。命令された攻撃目標をひたすら自発的に攻撃するロボット兵器ということですな」

「つまり、百年前のロボットの暴走が再び起きる可能性があるということですか」と、リヨンが言うと、ひんやりとした空気が会議室を満たす。

「そうです。しかも、百年前とはロボットの性能が桁違いです。人間がどうこうできるレベルではありません」とスコットが答えた。

 その危険性を理解できない者は、その会議室にはいなかった。




 戦いが終わって、後始末を部下のロボットに頼み、マルスとマーサは官邸に入った。歩きながら、

「やっぱり、マルスはすごいわ」とマーサは言った。

「マーサの市民誘導は完璧だったよ。戦いながらよくやったよ」

「マルスが敵への対応を引き受けてくれたからできたのよ。わたしにはマルスのように完璧にはできないわ」

「だから、ぼくが来たんだよ。ぼくだって、市民の誘導をしながら戦ったりはできないよ」

「相手のロボット、わたしたちと同じように、意思を持つのね」

「うん、生まれて起動した瞬間に敵を認識して攻撃するだけのために存在するなんて、かわいそうだけど、同情は禁物だ」

「マルスが戦った大型ロボットもそうだったの?」

「うん、これで確信が持てた。サムとノーマもミネルバの中でモニターしているはずだから、もっといろいろなことがわかったと思うよ」




「さすがだ」とリヨンは賞賛した。会議室の大型モニターには、襲撃してきたロボットとマルスたちの戦闘が解析されて映し出されていた。スローで表示させると、映像としてJ-9が襲いかかって破壊しているのが見える。襲撃者のロボットの動きはゆっくりで、その差は歴然としていた

「被害はなかったのか」と司令部の幕僚が聞くと、ミラは、

「特に計上すべき被害はありません。付近の市民にもありませんでした」

「こんな、一方的な戦闘があるのか」と幹部が問うと、

「ロボットの性能が違いすぎるのです。敵はこちらより数が少なかったので、戦力も圧倒的にこちらが有利でした」とミラが説明する。

 大型モニターに表示される映像は、一方的な戦いで、むごいの一言である。ロボットを送り込んだものは、この戦闘をどのように捉えているのだろう。

「ラルゴシティ、いや、ガバメントはこのあと、どのような手段に出るだろうか。スコット司令はいかに考えておられるのか?」とリヨンは改めて聞いた。

「大規模都市殲滅攻撃にてソプラノシティの首都機能を破壊し、その軍事力を示すことによって、連邦の実質的な支配権を確立しようとすると予測しています」

「ロボットの性能にこれほどの差があることを示されて、なお、そんなことを考えるのか?」

「その事実を受け入れていれば、どこかの時点で攻撃を諦めています。アルトシティ、フォルテシティ、プレストシティへの攻撃はすべて失敗しています。その戦闘を分析すれば、ロボットの性能があまりに違うことはわかるはずですが、理解していないのですな」

「都市殲滅攻撃の規模は?」

「プレストシティへの攻撃の規模を超えることは予測できます。ガバメントに対する偵察映像では多数の航空機の改造作業が確認できています」

 ボイドは率直な質問をぶつける。

「ソプラノシティの戦力で防げるか?」

 だが、スコットの回答は素っ気なかった。

「ソプラノシティの戦力の大半はガバメント製ですから無理でしょう。では、どうするか。ラルゴシティ沖に第七艦隊がいることがその答えです」

「第七艦隊は策を持っているのか?」

「今の段階では概要を申せませんが、その通りです。ソプラノシティへの攻撃はさせません」

「我々は何をすればいい」

「何もありません。第七艦隊を信頼して、ことの推移を待っていただければいいです」

 ボイドは質問を変えた。

「アルトシティの防衛戦、プレストシティへの防衛戦を立案したのは第七艦隊司令の西郷中将ですか」

「そうです」

「今回の作戦も?」

「そうです」

 ボイドは大きく深呼吸をして言った。

「わかりました。第七艦隊を信頼して、我々は待ちます」




 同じ頃、ガバメント社の重役会議は重苦しい雰囲気だった。

「クーデターが失敗するとは・・・ これでは、ソプラノシティの政権を奪取できんではないか」

 ガバメントの長は不機嫌だった。報告者は対策を述べた。

「現在準備中の戦力をもって、ソプラノシティを殲滅すれば、結果は同じです」

「それしかないか・・・ しかし、クーデターが成功していれば、ソプラノシティを殲滅する必要は無かった。ソプラノシティの住民は運がないな」

「さようで」と追従した。

「目障りな第三艦隊と第七艦隊はどうするのだ」

「ソプラノシティへの攻撃と同時に殲滅攻撃をかけます。我々は十分な戦力を準備しています」

「プレストシティのロボットにあっさりやられたが、大丈夫なのか」

「あれは以前報告したとおり、ロボットに不具合があったためです。我らが開発した戦略攻撃ロボット「テラー」の性能は絶大です」

「そうか、次は不具合など起こさぬように気をつけろ」

「はっ、今度は大丈夫です。第三艦隊と第七艦隊を殲滅し、ロンドシティ、フォルテシティ、プレストシティ、アルトシティを灰燼に帰すれば、世界の趨勢は自ずと決まるでしょう」

「なるほど。期待しておるぞ」

「お任せください」




「お姉ちゃん、お姉ちゃん、起きて!」

 玲子はトリオに起こされて目を開いた。

「何時?」

「六時だよ」

「起きなくっちゃね」と玲子は上体を起こす。ふわっとあくびが出る。なんか、寝不足だ。

「お兄ちゃん、うまく任務を果たしたみたいだよ」

「そう、良かった」

「心配で眠れなかったの?」

「マルスのことだから大丈夫だとは思ったけどね」

「朝のトップニュースになってるよ」

 玲子とトリオは着替えを済ませると、キッチンに行った。そこにはロビーが控えている。

「おはようございます、お嬢様。吉報です、マルスは無事、任務を果たしました」

「トリオから聞いたわ」

「圧倒的な勝利だそうです。敵のレベルはライトニングファントムには到底及ばなかったみたいですね」

「そうなんだ・・・ 詳しいのね、ロビー」

「ゼムから聞きました。あれは軍事ネットに直接つながっているので、情報が早いです。お嬢様に早く吉報をお知らせしたいと私に伝えてきました」

「いいのかなあ、そんな軍事情報を私に漏らして」

「スコット司令が伝えても良いと許可を与えたそうです」

「そう・・・」 

 会ったことがないスコットの名を聞いて、玲子はどんな人なんだろうと思う。アルトシティへの戦力投入についても、玲子に話して良いと許可を与えたことを思い出した。

「スコット司令って、どんな人なんだろう」

「お嬢様に感謝していると聞いてます。ソレイユのこと、マルスのこと、いろいろ軍に協力してもらっていると」

「私、たいしたことはしていないんだけどな」

「それが、たいしたことなんですよ」

 玲子はエプロンを着けて、動き出す。

「まあ、話はそれくらいにして、朝食の支度をしましょう。トリオ、手伝って」

 同じく、エプロンを着けたトリオが「はい」と元気に返事をした。


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