表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/102

ブルーライトニング 改訂版 第91章

 ラルゴシティが所管する連邦軍第二艦隊がテロに加担した――その事実は、連邦政府と連邦軍司令部に深刻な衝撃を与えた。


 プレスト海軍司令のスコットは連邦軍司令部と連邦政府への報告に忙殺される。ラルゴシティからは「第二艦隊の全艦艇を撃沈したこと」への抗議が寄せられたが、テロリストに荷担した事実をもって、スコットはその抗議を一蹴した。連邦政府もまた、ラルゴシティの抗議を無効と認め、第二艦隊の殲滅を是と判断した。


 複雑な立場に追い込まれたのは、連邦軍司令部である。第二艦隊がテロリストに荷担した以上、司令部も何ひとつ反論できない。混乱だけが連鎖し、将校たちはうろたえるばかりだった。


 そもそも連邦軍は、武装テロリストに対抗するための戦闘艦隊整備構想を掲げ、世界の各シティに艦隊の結成と維持を打診してきた。その構想を提出し、第一艦隊と第二艦隊を所管してきたのが、ほかならぬラルゴシティである。だからこそ、第二艦隊の不祥事は、司令部に重くのしかかった。


 連邦政府のリヨン大統領は、第二艦隊と同じくラルゴシティが所管する第一艦隊に、無期限の行動停止を命じた。第一艦隊はロンドシティの軍港に係留され、乗組員は監視下に置かれた。ラルゴシティの反発は強かったが、第二艦隊が明確にテロに加担した以上、命令を覆すことはできなかった。


 さらにリヨンは、連邦軍司令部の人事を大幅に刷新する方針を示した。旧来の体制が「テロへの加担」という不祥事を生んだ。ならば改革が必要だ。その理屈は、現状に疲弊した者たちには説得力を持った。結果として、連邦軍の改革派、現体制派からは皮肉を込めて「マフィア」と呼ばれる派閥にとっては追い風となる。


 その「マフィア」派の中核であるボイド大佐が、リヨンのもとを訪れた。ボイドは手にしたタブレットから、リヨンのデスクのディスプレイへ情報を転送する。表示された内容に、リヨンは驚きを隠せなかった。


「プレスト海軍から提供されたのか」

「そうです」

「第一艦隊と第二艦隊は、本当にセレクターズの作戦行動を支援していたのか……。それにしても、なぜ今になってこんな資料を私に見せる? いままで隠していたのはなぜだ」

「我々も、ついさっき提供されたところです。第二艦隊のテロへの加担が世界に示され、閣下が第一艦隊の行動停止を命じられました。そこで、機が熟したと判断したのでしょう」


 リヨンは状況を理解した。


「時期的に、大西洋での第一艦隊との接触はアルトシティ攻撃が失敗したあと。太平洋での第二艦隊との接触は、今回のプレストシティ攻撃の前……といったところか」

「ご指摘の通りだと我々も思います。加えて、こちらの資料です」


 ボイドがもう一つの映像を表示する。リヨンは眉をひそめた。


「なんだ、これは?」

「先のフォルテシティ攻撃部隊が、ラルゴシティのガバメント社の工場から出撃したことを示す記録です。第七艦隊の高高度ステルス偵察機が押さえたものです。これも、先ほどプレスト海軍から提出された資料です。連邦軍司令部は大騒ぎです。でっち上げだと言う将校もいますが、第二艦隊の件の直後では、そう言い切れない」


「なるほど。第二艦隊の事例を踏み台にして、このタイミングで証拠を出してきたか。これは第一艦隊だけではない。ラルゴシティ自体がセレクターズを支援していたことになるな。黒幕はガバメント社か」

「そうなります」


 リヨンはディスプレイを見つめたまま、低く息を吐く。


「こうなると、ガバメント社の装備導入に熱心だった軍人は、皆、疑わしい。現に、テロに加担したプレスト防衛軍はガバメント派だった。……さて、どうしたものか」

「閣下、まずは身の回りの守りを固めてください」


 ボイドの声がわずかに硬くなる。


「このタイミングで、プレスト海軍から護衛の一部隊が追加で送り込まれています。これはプレスト海軍が閣下の護衛体制の強化が必要と考えたからでしょう。彼らの読みは鋭い。次は閣下の暗殺、強襲です」

「そうか……。これも作戦の一環なのか」


 リヨンは思慮深げに言葉を継いだ。


「今年四月のアルトシティのドラグーン撃破に始まり、プレスト沖海戦、フォルテシティの攻防、そして今回のプレストシティ攻防戦……。すべてにプレスト海軍が関与している。敵の出方を予測しているのか」

「その可能性は高いです。情報分析力がかなりのものなのでしょう。ここまで的確にカウンターを成功させるとなると」


「私の暗殺計画も予測していた。後になって主犯は殺されたが、きっちり立件はしていた……」


 リヨンはしばらく黙り、ふとボイドに視線を向けた。


「なあ、君は私の行動が拙速だと思うか」

「いいえ。拙速が必要な局面もあります。おそらくプレスト海軍も、いまを好機と見たのでしょう。でなければ、こんな重要な証拠を送ってくるとは思えません」


 翌朝、玲子は一晩眠って、表向きは元気を取り戻したように見えた。トリオが一緒にいたから気が紛れたのかもしれない。しかし上原は、安堵と同じだけの不安を胸の奥に残したままだった。

 玲子はいつものとおりトリオと朝食の支度をし、上原も一緒に食卓についた。敷島は昨夜、帰ってきていない。

「今日は学校を休む? 休んでいいよ。私が一緒にいてもいいし」

「ううん、大丈夫」

 玲子は首を振った。上原はそれ以上言えない。玲子を見送り、迎えの車に乗ってダグラス社へ向かった。


 出社した上原は、すぐに敷島に呼ばれた。

「朗報だよ。ローウェル社が製造ラインから、マルス型アンドロイド用の部品を融通してくれることになった。昨夜、スミス博士が調整してくれたんだ。それにフォルテシティ防衛軍も、部品を送り届けてくれると言ってきた。昼過ぎにはここに届く」

「まあ……それなら」

「三日もあれば、マルスを修復できる」

「良かった……!」

 上原は思わず声を漏らした。

「私も頑張るよ」と敷島も言った。彼自身、玲子のことが気がかりだったのだ。

「それはいいですが、できれば、このこと敷島さんから直接、玲子に言ってもらえますか。それに、敷島さんにも休養が必要です」

「そうか? 玲子に対して私にできることは、これくらいだと思うのだが」

「そんなことはないですよ。おじさんらしい、かっこいいところを見せてくださいな」

「うん、わかった。だが、玲子のハンディに知らせだけは入れておこう」

「そうですね。私が送っておきます」

「ああ、頼む・・・ ちょっと、徹夜で眠い。昼まで寝させてもらうよ」

「どうぞ、休んでください」

 敷島は応接セットのソファーに横になる。上原は、そっと部屋から出て行った。




 同じ頃、高野長官の執務室で、フォルテシティ防衛軍大佐マトソンから朗報が伝えられた。それは、ローウェル社からマルス修復に必要な部品を直ちに送るという知らせである。しかも、フォルテシティ防衛軍が高速偵察攻撃機を使って、部品を輸送してくれるというのだ。

「不幸中の幸いです。フォルテシティ防衛軍の協力に感謝します」

 高野長官は、ロボット部隊を引き連れてきたマトソン大佐に礼を言った。

「いえ。先のフォルテシティ攻撃の情報を、いち早く提供していただいた。我々にも、プレストシティに恩返しをしたい気持ちがあります」


 その場にいた川崎が、実務方針を報告する。

「実務的には、プレスト海軍へ納入する予定のマルス型アンドロイド一機の納入を遅らせ、補修部品一体分を納入する契約変更を行います」

「それでいい。マルスの修復が最優先です。マルスが戦線から離脱するのは、あまりに痛い。川崎さん、よく調整してくれました」

「感謝はスミス博士と敷島博士に。昨夜、徹夜でローウェルの技術者と調整した結果です」

「そうか……。なんであれ、短期間で復旧できるなら言うことはない」


 マトソンは続けた。

「マルスの大破でかすんでいましたが、今回の戦い、著しい戦果だと思います。ドラグーン十機の撃破、セレクターズ潜水艦隊の殲滅。そして防衛軍に巣くうテロ分子の存在を知らしめたこと。これは快挙です。第二艦隊をテロリストとして殲滅したことは、今後の情勢を大きく変えるでしょう」

 西郷が立案した亡霊作戦の筋書き通りに進んでいる。それが、高野等、プレスト海軍の司令部の共通認識だった。しかし、マトソンの前では亡霊作戦の名を出さない。マトソンは続ける。

「おそらく、セレクターズ……いや、ラルゴシティともう一度戦わなければならないでしょうが、我々はプレスト海軍と共闘するつもりです。もしフォルテシティに何らかの危険が感知されたときは、よろしくお願いします」

 マトソンは軽く頭を下げた。

「フォルテシティとプレストシティは友邦です。もちろん信頼に応えます」と、高野は答えた。西郷が提示している亡霊作戦はまだ続いている。そして亡霊作戦が示す次の戦いは、完全に“新型のテロロボット”との戦いになるはずだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ