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ブルーライトニング 改訂版 第90章

 前例のない7機のドラグーンの来襲。そこにプレスト防衛軍が加担し、シティに銃口を向けた現実。さらに防衛軍の伊藤司令が家族とともに政府専用機でプレストシティを脱出した事実がニュースで伝えられたとき、市民の反応は混乱より怒りだった。

「自分と家族だけで逃げたのか!」

 テロに加担した防衛軍がファントムにより制圧され、政府専用機が味方であったはずのセレクターズに撃墜されたことで、市民の怒りが幾分静まったものの、生き残った防衛軍職員に対する敵意が強くなることは避けられなかった。


 ネットには怒りの声があふれた。

 一方で、それだけの攻撃を受けながら、シティを守り切ったファントムへの感謝の声。そして、セレクターズの潜水艦を撃破し、テロに加担した防衛軍と第二艦隊を倒した第七艦隊を賞賛する声にあふれた。




 ファントムと第七艦隊に対する礼賛の中、玲子はサムと上原にマルスが大破したことを聞かされた。戦闘用ロボットである以上、覚悟していたとはいえ、やはり玲子のショックは隠せない。

「すまなかった。マルスは俺が乗るドルフィンを守ろうとしたんだ。それで・・・」

「謝らないで! サムに何かあっても私はいやよ!」と玲子はやっとの思いで返す。上原は何とか玲子を安心させたかった。

「でもね、マルスは直るから。人工頭脳は無傷よ。それは確かめたわ。でも、元の体に戻すのはすごく時間がかかるのだけど」

「どのくらい?」

「ダグラス社には部品のスペアが足りないから、新しく作るとして2ヶ月くらいかな」

「そんなに長く? 今のマルスと話せないの?」

「人工頭脳だけの状態で覚醒させることは危険なの。体なしで目覚めさせると、人格に悪影響を与える可能性が高い。人工頭脳の無事を確認したこともギリギリの行為なの。だから、我慢して」

 我慢という言葉に玲子の緊張の糸が切れた。玲子は疲れたと言って部屋に入ってしまった。上原がトリオに玲子のそばにいるように言い含める。


 帰り際、サムが玄関まで送ってくれた上原に聞いた。

「玲子、大丈夫ですかね」

「トリオがいるだけでも、大丈夫だとは思うけど・・・ とにかく玲子のことは私に任せておいて。サムにはしなければならないことがあるでしょ。今にして思うと、トリオがいてくれて良かったかもしれない」

 サムは黙って一礼すると、帰って行った。サムには今すぐ軍人としてやらねばならないことがある。




 トリオが玲子の部屋に入ると、玲子がベッドに突っ伏して、声も出さず泣いていた。トリオはどうしたらいいかわからず、ただ、玲子のそばに寄って、玲子の体に身を寄せる。玲子の震えがトリオの体に伝わる。自分ではどうしようもないという思いがトリオの心に浮かぶ。だが、玲子が急に体を起こしてトリオを抱きしめた。

「ごめん、トリオ、私のそばにいて。私、一人でいるのが耐えられない・・・」

 それはトリオが見たこともない玲子の取り乱した姿だった。

 自分にできることは一つとトリオは心に決めた。

「大丈夫、ぼくはお姉ちゃんのそばにいるよ。だから、安心して」

 トリオの頬に、ぽたりと玲子の涙が落ちた。




 サムは基地に帰ると戦闘に伴う損害の報告を作成した。マルスが搭乗していたドルフィン1機、そして、3機のホーネット。いずれもサムが乗るドルフィンが、集中攻撃を受けたときに撃墜されたものだ。マルスがサムを守るために行動したことは想像に難くない。報告をまとめているサムのもとへ、ルイスとリョーカがやってきた。

「玲子の様子、どうだった?」とルイスが問う。

「ショックを受けてたよ。マルスがこんなことになるなんて、覚悟はしていたかもしれないが、実際は受け入れられないだろうな」

「わたしが行けば良かったのかな?」とリョーカが言うが、

「配置を決めたのは俺だ。リョーカが気にすることじゃない。それにリョーカはドルフィンの扱いになれてない。マルスとリョーカの役割はあれしかなかったと思うよ。問題だったのは俺があそこにいたことだよ」

「でも、防衛軍を相手にするには、自分がいないといけないと、あなたが言っていたじゃない」と、ルイスが反論する。

「人間を殺す命令は、その場にいるものが出すべきだと思っていた。だが、それは、ノーマやマルスの手を縛っただけかもしれない」

「そんなこと・・・」

 とはいえ、ルイスにも返す言葉がなかった。

「それにしても、2ヶ月・・・ マルスなしでしのげるか・・・ リョーカ1人じゃ、負担が大きすぎるよな。新しいマルス型アンドロイドの納入は1ヶ月先、すぐにマルスのように戦えるとは期待できないし」

「わたし、学校辞めて、がんばるわ」

「そうしないと、いけないかもな。リョーカにはもう少し学校に通ってほしかったが・・・」




 その頃、敷島はマルスの状態を長官の高野と副司令の川崎に報告していた。司令のスコットは連邦軍への報告のため、この場にはいない。

「で、どうなんですか、敷島博士」と高野が聞くと

「人工頭脳以外、すべて、だめです。一から新造しないといけません。パーツの生産が完了するまで、2ヶ月はかかります」

「そうか・・・ それは痛いな」と高野の声も沈む。一同がどうしようもない状況に打ちひしがれているときに、スミスはぽつりと言った。

「ここは海軍に決断をお願いしなければいけませんが、現在、ローウェル社で製作中の、マルス型アンドロイドやJー9型メタロイドの部品を融通してもらえば、何とかなるかもしれません。あっちには量産ラインがありますから、部品は我が社よりもそろっているはずです」

 部屋に明るい光が差す。そもそも、マルス型アンドロイドも、その同じフレームを共用するJー9タイプのメタロイドもローウェルに量産ラインが有る。

「我々の決断とはなんですか」と川崎が聞く。

「プレスト海軍への納入契約です。多少の遅れと部品の発注については調整が必要でしょう」

 高野が川崎に視線を向けると、

「調達部門に話を付けさせます。この際、1ヶ月後のマルス型アンドロイドの納入を先延ばしにするのもやむを得ないでしょう。このパーツを流用できれば、マルスの修復期間を1ヶ月に短縮できます」と川崎が即答した。

「そうだ、そうしてください、川崎さん」

 それを聞いたスミスは、

「ローウェルには私の知己がいます。時差の関係で、これからローウェル社が動き出します。私が調整しましょう。敷島君は足りない部品のリストを頼む」

「わかりました」

 一刻も早くマルスを修復するため、スミスと敷島はその場を離れ、おのおのの仕事場に戻っていった。

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