ブルーライトニング 改訂版 第89章
時を少し遡る。
ドラグーンと結ぶデータリンクから、モルガンは五体のタイタンが出撃していることを知った。彼は勝利を確信し、ダグラスインダストリーの攻略作戦を実行に移すことにした。フローティングブイアンテナを収容し、潜水艦を浮上させ、攻撃用のドラグーン三機と攻撃型ライドアーマー一機を出撃させる。いずれも無人型で、ダグラスインダストリーに突入後、自爆するようにセットしてあった。
「よし、潜行して、クロトワたちの回収ポイントに向かう」とモルガンは指示を下す。しかし、ブライトから悲痛な報告がなされる。
「待ってください。クワトロ隊のドラグーン全機との通信が途絶。断末魔の悲鳴が相次いで聞こえたので、全機やられたものと・・・」
「やられたのか? 攻撃型ライドアーマーはどうした」
「通信途絶です。三機ともやられたようです」
オペレーターが報告した。
やはり、ダグラスのロボットといえども、テロリストには情けはかけないのかとモルガンは思った。だが、五体のタイタンをおびき出したのなら、陽動は成功のはずだ。それにしても、一方的にやられすぎることに、一抹の不安があった。
「ジュノーの艦載機から攻撃を受けていた、輸送船からの脱出者がいるか?」
「乗員のすべての反応が消えています。こちらも全滅したようです」
モルガンは決断する。
「やむをえん。このまま海域を脱出」
そのとき、僚艦から対空ミサイルが発射された。
「誰だ! 誰が対空ミサイルを撃てと命令した」
僚艦の艦長からすぐさま報告があった。
「カタリナ様からのご命令で、プレスト防衛軍の政府専用機を撃墜せよとのことでしたので・・・」
セレクターズの指導者カタリナを信奉するものは多い。モルガンは怒りに震えた。こんなことで艦隊を危険にさらすなど・・・
「貴様・・・ ばかものが! ほおって置けばいいものを!」
「おうおう、でっかい花火を上げちゃって」と、西郷が軽い調子で言う。プレスト防衛軍の伊藤司令等をのせた政府専用機は空中で爆砕した。脱出を図った伊藤司令とその家族はこれでは助からない。ここまでは西郷の想定の範囲だ。
伊藤司令は、防衛軍の司令官でありながら、セレクターズと内通していたことが判明している。プレストシティにおけるテロを手引きし、テロの脅威をあおりつつ、防衛軍の予算を獲得していたことが、最近のプレスト海軍情報局の調査で浮かび上がっていた。
「もう、ラルゴシティにとっては用済みということなのでしょうね」と村山が言った。おそらくラルゴシティへの亡命を図っていたのだろう。西郷はにやりと笑う。
「なんにせよ、チャンスだ。手順どおり対潜ミサイル発射」
ジュノーに従う護衛艦アポロンとダイアナから対潜ミサイルが発射された。
「第一撃はかわしてほしいなあ」
西郷は追い詰めた獲物をいたぶるように言う。村山は怖い人だと一瞬思った。だが、作戦の一環である以上、第二艦隊の動きに注視する。すべての総仕上げはそこにかかっていたからだ。
モルガンは対潜ミサイルが発射されたことを知り、潜行しても逃げ切れないと判断した。「対空防御、撃て! 第七艦隊に向け音響魚雷発射! 相手のソナーを撹乱しろ」
副官のブライトが叫ぶ!
「モルガン提督! ダグラスインダストリーに突撃したドラグーンが!」
海上を突進するドラグーンからの映像を見たモルガンから血のけが引いた。二体の黒いタイタンが捉えられていた。黒いタイタンは世界で二体しかない。一体がプレストシティ、もう一体がフォルテシティに配備されているはずだった。
「フォルテシティから援軍がきていたのか!」
呆然とするモルガンを見ながら、ブライトが叫ぶ!
「提督! ホワイト中将から緊急連絡です」
リョーカの乗るブラックタイタンは、ドラグーンを射程に入れる。ブラックタイタンだけが装備する両肩の大出力ビームを打つが、防御フィールドに阻まれた。
「ここで食い止めないとね、リョーカ」と併走するブラックタイタンのリームが言う。
「もちろんよ!」
リョーカとリームのブラックタイタンが複雑な機動でドラグーンに襲いかかる。リョーカたちの後ろからは、レナとニーナが乗るブルータイタン二体が援護射撃を加えてきた。数の劣勢はない。しかし、連係攻撃は圧倒的にリョーカたちが優勢だった。ブラックタイタンの瞳が不気味に光る。
リョーカとリームはブラックの両肩のビームを至近で発射する。ドラグーンの防御フィールドが揺らいだ隙に、ライトセイバーが防御フィールドを破り、ドラグーンを突き刺す。残りの一体のドラグーンが援護射撃するが、そんな射撃に捕まるブラックタイタンではなかった。リョーカとリームにやられた二機のドラグーンは、後衛の二機のブルータイタンの狙撃をうけ、完全に破壊され、海に没して、爆発する。
「はい、おしまい!」とリョーカとリームの連携は舞のような優雅な動きで、残りの一体のドラグーンと攻撃型ライドアーマーを破壊する。自爆にセットされていた無人ドラグーンは大爆発を起こした。
モルガンはあっけなく四体のロボットを倒されたことで、作戦がすべて失敗したことを悟った。
「読まれていたのか、攻撃の手段も時期も」
長い付き合いのあったスコットや川崎がそれほどの知恵者だとは思えなかった。
「あの・・・ 西郷中将か・・・」
「提督、第二艦隊が第七艦隊を攻撃中です。このすきに脱出を!」
ブライトが進言する。
「これも、あいつの手の内か・・・ 」と、顔すらろくに知らぬ、西郷に完全に敗北したことを悟った。だが、わずかな可能性にモルガンは賭ける。
「急速潜行。海域から脱出する」
だが、その動きに呼応するように、ファントムのロボットの群れが襲いかかった。
「第二艦隊が我が艦隊をロックオン。ミサイルが接近中」とオペレーターが報告する。
「フォースネットのログはとってあるな」と西郷は余裕だ。
「はい、バッチリです」
「ミサイルは当たらない。どうせ、フォースネットでつかんだ位置に、打ち込んでいるよ」
エレクトラが無情にも
「フォースネット上の欺瞞位置にミサイルが着弾します」と報告した。
「第二艦隊へ通信をつなげ、音声のみでいい」
「つなぎます」とオペレーターが回線を開く。
「この攻撃行動をもって、連邦軍第二艦隊をテロリストと認める。第七艦隊はテロリストに与する第二艦隊を攻撃する」と宣言した。この宣言はフォースネットの戦闘ログに記録された。
「返答ありません」
「通信を切れ、返答などせんだろう」
「ミサイルの波状攻撃が来ます」とエレクトラが報告する。
「ちったあ、偵察機を出して敵の位置を確認しろよ」
ミサイルは相変わらず欺瞞情報の位置に着弾していた。
「エレクトラ、第二艦隊を攻撃。エドワーズに攻撃指令をだせ」
「了解」
西郷は表情を消した顔で、独りごちる。
「テロリストとして死ね、ホワイト」
敬愛するモルガンを救うべく、ホワイトは闇雲に第七艦隊への攻撃を指示していた。
「艦載機を発進させろ、空母ジュノーに攻撃を加えるんだ」
ホワイトの部下はあまり乗り気ではなかったが、さっきの通信でテロリストとして認定された以上、自分たちも攻撃される。空母一隻と護衛艦二隻なら、圧倒的にこちらの戦力が上であるし、相手を殲滅でき、可能ならプレスト海軍施設を破壊して、証拠を隠滅すれば活路が開けると思うことにした。
「司令! 六時の方向からミサイルの一群が接近! 第七艦隊の艦載機の攻撃です」
「なに!」
ジュピターの司令室でエドワーズが軽い口調でマイアに指示する。
「生きて言い訳できないように、第二艦隊の連中は皆殺しにしろよ。テロリストを捕虜にする義務はない」
「わかりました。お任せください。エレクトラと連携して殲滅します」
「うん、よろしく」
こうなると、人間の出る幕はなかった。ミサイルの複雑なコントロールも、無人艦載機のコントロールも第七艦隊ではすべてロボットが担う。人間はただ、命令をするだけだ。第七艦隊の本隊からもミサイルが発射される。
「ホワイトのやつ、西郷にしてやられたと思う暇があるかな。ねえだろうな」
エドワーズは士官学校時代の尊大な態度で人を見下す嫌な奴=ホワイトを思い出しながら、冷たく笑った。
第二艦隊の空母にミサイルが直撃し、司令部を吹き飛ばす。たてつづけに突入するミサイルに大爆発を起こして空母は轟沈した。そして偉容を誇る第二艦隊の艦艇はすでに全艦が大破炎上していた。
そして、すでに海中のモルガン艦隊もなすすべがなかった。フローティングブイアンテナから情報で、第二艦隊が第七艦隊の攻撃を受けたことを知り、モルガンは敗北を悟った。
「第七艦隊の本隊もいたのか・・・ 完全に罠にはまった・・・」
モルガンの膝まで海水がつかりつつある。部下には脱出を指示しているが、何人脱出できるだろうか。
「気がついていたのか、第二艦隊と我々の関係も・・・ 何もかも! 素知らぬふりして、我々の作戦を、潰していたのか! これでは、第一艦隊も無事では済まぬな」
潜水艦のメインタンクが破られ、もはや浮上もできず、浸水も激しい。攻撃していたのはブラックファントムのJ-4「ゼム」タイプのロボットと、ライトニングファントムに所属するJ-5「クラブマン」タイプのロボットだ。ブラックファントムのロボットたちは、水中でも威力の衰えないライトアックス(斧)で潜水艦の外壁を破っている。エビのような胴体を持ち、一対のカニのようなはさみの腕、二対の小さな手を持つ4本足のクラブマンも、はさみにフォースフィールドをまとわせ、潜水艦の外壁に大穴を開けている。もはやモルガンの艦隊は虫の息である。
やがて、勢いよく沈んでいく潜水艦をロボットたちは見守った。深い海の底で、激しい音とともに、四隻の潜水艦は押しつぶされ圧壊した。
一方、西郷のオペレーターは第二艦隊の降伏の申し入れを受信していた。
「どうします。受理しますか」と村山が問うが、西郷はきっぱりと言った。
「テロリストは正規の軍人ではない。降伏など無効だ」
「しかし・・・」と村山は若干気が引けるようだったが、西郷は、
「テロリストの言い分は聞く必要はない。生かしておくとやっかいだ」と切り捨てつつ、改めて言った。
「村山さん、第二艦隊と第一艦隊はセレクターズの艦隊を補給で支えていた。つまり間接的に、シティをいくつか壊滅させているんだ。それでも同情しますか」
そう言われると、村山にはなにも返せなかった。西郷は表情を押し殺し、エレクトラに命じる。
「エレクトラ、マイアと協力して、第二艦隊の残存艦を撃沈処分。生存者を残すな。徹底的にやれ」
「了解」とエレクトラが指示を実行する。マイアとの連携で、対艦ミサイルと対地攻撃用空中炸裂弾を発射した。艦船と海上に脱出した生存者を処理するためである。航空偵察で確認しつつ、エレクトラとマイアは徹底的な掃討を行った。
「ブラックファントムから通信、セレクターズの潜水艦隊は4隻とも沈没。脱出できた乗組員は皆無とのことです」とのエレクトラからの報告に、
「よし」と西郷は短く答えた。村山は、
「最初からブラックファントムを使って撃沈しないで、対潜ミサイルを撃ったのは、第二艦隊の攻撃を誘うためですか」
「まあね、モルガンを攻撃すれば、あのホワイトが動かぬはずがない。ホワイトはモルガンを敬愛していたからね。モルガンの艦隊が対空ミサイルを撃たなくても、はじめから対潜ミサイルを打ち込むつもりだった」
「あなたは敵にしたくはありませんな」
「私も村山さんやエドワーズを敵にはしたくないよ」
西郷が村山に笑顔を向けたので、村山はほっとした気分になった。




