ブルーライトニング 改訂版 第87章
モルガンの潜水艦隊は、プレストシティ沿岸に進出したところで、フローティングブイアンテナを浮上させた。波間に浮かぶアンテナを通じ、連邦軍の第二艦隊から情報の提供を受けるためである。ラルゴシティに所属する第二艦隊は第一艦隊とともに武装テロリスト「セレクターズ」への補給と情報提供を行って、セレクターズの作戦を支えていたのだ。
第二艦隊は連邦軍のフォースネットを通じて得た、第七艦隊の状況を伝えてきた。フォースネットは連邦軍や配下にある防衛軍が情報をやりとりするための基幹情報ネットワークである。
「第七艦隊の大部分は、太平洋のパトロールで不在なのですね」
モルガンの副官ブライトは、ホッとした様子で言った。
「確かに艦隊の主力は不在だが、空母ジュノーと護衛艦二隻がプレスト沖に配置されている」
(あのときと同じだ)という言葉はモルガンは口にしなかったが、モルガンはテックスが率いる潜水艦隊が空母ジュノーの航空攻撃で壊滅させられたことを忘れてはいなかった。
「第七艦隊の西郷中将の動きが気になる」とモルガンが率直な想いを口にした。
「ホワイト中将の話だと、たいした男ではないとのことですが・・・」
ブライトは第二艦隊司令のホワイトの意見を引用したが、モルガンが即座に否定した。
「あの男の人物評などあてにはならない。だいたい、士官学校時代に戦術シミュレーションで西郷に負けたことがないなどと、信じられるものか」
「負けたことがないのは事実なのでは」
「ふん、あの男にまぐれで勝つこともできないと言うことが信じられないのだよ。理由はわからんが、西郷はわざと負けていたと私は思っている。それに・・・」
モルガンは続ける。
「あのスコット大将や川崎中将がつまらん男を第七艦隊の司令官に任命するものか」
「そうですか・・・」
「テックスを撃破した手際からして、相当の指揮官であることは間違いないだろう。とはいえ、第七艦隊の主力が遠方に位置していることは朗報だ。航空戦力が半減しているということだ」
モルガンにとって不幸なのは、プレスト海軍が連邦軍の基幹情報ネットワークであるフォースネットを欺瞞していることを知らなかったことだろう。エドワーズ副司令が率いる主力は、すでに第二艦隊の哨戒圏ぎりぎりまで迫っていたのが実情である。
モルガンは戦術ディスプレイ上の配置を確認した。すべて、作戦通りに配置されている。
「よし、予定どおり作戦の実行を指示してくれ」
「西郷司令、マークしていた輸送艦が想定していた海岸に接近」
情報分析アンドロイドのエレクトラが報告する。ステルス性能が高い無人偵察機からの情報だった。プレスト海軍は連邦軍の標準的なフォースネットから切り離された独自の情報ネットワークで作戦を遂行する。フォースネットには欺瞞情報しか上げていない。しかし、第二艦隊もモルガンもその事実を知らない。
「こんな日中に仕掛けるとはね。防衛軍の動きは?」と西郷はのんびりとした口調でエレクトラに聞く。
「ほぼ同時にフォースネットから切り離された状態で、地上戦力が出撃してます。光学センサーでモニターしてます」
「戦力の内訳は?」
「無人対空戦闘車両十両と対地ミサイルを装備した無人攻撃車両が三十両。そして指揮車両五両です」
傍らで聞いていた村山参謀長が
「これはドラグーンと呼応してシティを攻撃する作戦ですね」
「その五両の指揮車に乗っている人間は、テロリストとして処分しろ。サムとライトニングファントムに伝達するんだ。シティに実弾を撃たれてはやっかいだからな。エレクトラ、防衛軍戦力の位置と戦力の内訳を逐次サムに伝えてくれ」
のんびりとした口調で殺伐としたことを西郷は指示する。
「わかりました」
「ノーマとマルスがついているから大丈夫だとは思うが、おとりとなるサムのことが少し心配だ」
「大丈夫だと思いますよ。あの二人がついていれば、どんなことがあってもサムを守りますから」とエレクトラが答えた。
「輸送艦が接岸、ドラグーン七機と攻撃型ライドアーマー三機が上陸、プレストシティへ向け進撃開始」
プレスト海軍司令部にはプレスト防衛軍から、対処要請が届いていた。
「スコット司令、防衛軍からプレストシティへ上陸した不明の機体への対処要請が来てます」
スタッフからの報告に、スコットは無表情で、
「全く、上位組織のつもりでいるな。まあいい、対処すると返答しろ。通信文でいいぞ」
傍らの川崎が、
「来ましたね」と言うと、
「ああ、来ましたね。ダグラス大佐に出撃命令をだせ」と指示をだした。
司令部スタッフが、
「ダグラス大佐がライトニングファントムを率いて出撃します」と報告した。
チラリと、防衛軍が出した戦力を眺めた川崎は、
「予算を絞られてろくな整備ができなかったはずですが、意外に多くの戦力を出してきましたね」
スコットは憮然として言った。
「ラルゴシティに部品を横流しされたかもしれません。防衛軍の装備はガバメント社製ですからね。モルガンも用意周到だ。対地攻撃車両が出ているということは、迎撃に失敗するとシティに被害が出る」
「ライトニングファントムの第一撃が重要ですな」
「今のライトニングファントムなら信頼できる。レッドファントムの配置はどうか」
傍らの情報分析アンドロイド「ミラ」に聞く。
「配置完了です」
「ブルーファントムと三銃士達は」
「会敵位置に向け進行中」
「ブラックファントムは」
「セレクターズの潜水艦隊を監視中」
ミラの的確な回答に、
「よろしい」と言った。
すべて想定どおりに進んでいることを確認したスコットだが、危険な任務を帯びているサムのことを案じ、キリキリと胃が痛む。
侵攻するドラグーンの部隊に向け、ドルフィンで急行するサムは、防衛軍の部隊の位置をモニターしていた。サムとノーマのドルフィンの後をマルスのドルフィンと僚機のホーネット。そして、ライトニングファントムを収容した輸送機が続く。やがて、プレスト防衛軍の部隊の上空にさしかかる。
(そろそろか・・・)とサムが思ったとき、
「サム、射撃レーダーが照査されました」
「全機ブレイク!」
フレアとチャフをばらまきながら、ドルフィンと輸送機が機体を翻す。対空レーザーが空を切った。防衛軍の車両を確認したサムは軍用無線で警告する。
「今の攻撃をテロに加担したものと見なす」
「ノーマ、マルス、五両の指揮車両を優先的に攻撃! 乗員の生死は問わない!」
生死は問わない。その命令をマルスは実行する。マルスのドルフィンが機体を翻し、無人戦闘機ホーネットを引き連れて対地攻撃にかかる。輸送機からは人型のメタロイドが吐き出され、戦闘車両に向けて降下する。降下といっても飛行能力をもつライトニングファントムは、パラシュート降下などとは比較にならないスピードで地上に降り立ち、戦闘車両に襲いかかった。戦闘車両が持つ防御シールドもライトニングファントムの連携攻撃であえなく崩されていく。
「ごめんね、シティを攻撃させるわけにはいかないんだ」とマルスはつぶやきつつ、二両の指揮車を乗員ごと撃破した。
二両の味方を撃破された防衛軍の菊池大佐は(話が違う)と焦った。こんなに早く相手が攻勢に転じるなど想定してなかった。本来味方である防衛軍が発砲すれば、少なからず混乱するという想定だったのだ。
事態を打開しようと菊池は指示を出した。
「上空のドルフィンに狙いを集中しろ! あれが指揮官だ。あれを撃破すれば攻勢が止まる!」
ロボット各自の意思で攻撃しているライトニングファントムには、その考えは当てはまらない。しかし、菊池の思い込みが、サムには不利に働いた。
ノーマは射撃レーダーが照査されたことを感知し、再び機体を翻す。激しい対空レーザーの光が空を切る。濃密な攻撃にノーマは焦った。その刹那、
「マルスのドルフィンが被弾」とノーマが叫んだ。
「なに!」
サムの目に、火を噴きながら墜落するドルフィンがうつった。
「ノーマ、マルスの救助を!」
「すでにライトニングファントムが動いています」
サムのドルフィンへの集中攻撃は大きな隙を作り、結果として、防衛軍の戦闘車両は次々とライトニングファントムのメタロイドに撃破された。
「大佐、対空車両と攻撃車両がすべて撃破されました。作戦続行は不可能です」
「ばかな!」
入念に打ち合わせた作戦が足下から崩れ落ちていく。ガンという衝撃と思いがけない光が差したことで反射的に菊池は上をむいた。ハッチがあった場所が開け放たれ、ロボットが銃口を向けるのが見えた。ライトニングのサブリーダー「ゼム」だった。
「ひっ」と菊池の声が恐怖に引きつった。
ゼムは腕に装着した対物ビームライフルで菊池を撃ち抜く。過大なエネルギーに菊池の体はバラバラになった。拡散したエネルギーは車内を暴れまくり、ほかの乗員の命を奪った。脱出を図った車両の乗員はすべて、ほかのロボットが射殺した。すでにドラグーンが迫っている以上、ぐずぐず対処している暇はなかった。
「サム、防衛軍は制圧完了。人員はすべて無力化しました」とノーマが報告する。
「マルスはどうだ」
「ライトニングのロボットがマルスの残骸を回収、2機の護衛のもと待避してます」
「残骸か・・・ マルスは無事なのか?」
「人工頭脳のケースは無傷ですから大丈夫だと思います」
「よし、そのまま待避させろ、すぐにドラグーンがくる」
「すいません」
ノーマの唐突な謝罪にサムは、「なにが?」と聞き返す。
「マルスは私たちの盾になったんです。私が対空射撃から逃げられないと判断して」
「そうか・・・ だが、今はマルスの無事を信じて。そのことは忘れろ」
とは言え、マルスを失ったことは痛い。何より、玲子になんと言ったらいいか・・・ そんな思いがサムの心の中によぎる。しかし、今は・・・
「プロメテウスや三銃士は予定どおりか」
「はい。まもなく攻撃位置につきます」
「おとり役はしんどいな」と、自分で志願したこととはいえ、サムはふうとため息をついた。
「ノーマ、ドラグーンの攻撃範囲から離脱! これからはライトニングファントムの足手まといになる」
「はい」




