ブルーライトニング 改訂版 第86章
プレスト海軍副司令である川崎中将は、多用途機アーチャーの副操縦席に座り、第七艦隊旗艦である空母ジュノーに向かっていた。機長席にはニーナが座り、機体を操縦していた。
「副司令がわざわざ出向く必要があるのですか?」
「第七艦隊の二人の司令官を同時に呼びつけることもできないですし、西郷とエドワーズに直接会って、話しておきたいことがあるのですよ」
「そうですか」
さして、気にとめたふうもなく、ニーナは機体を操る。
「ねえ、ニーナ、この機会に話しておきたいのだが」
「何でしょう」
「セレクターズの大攻勢を無事にしのいだら、私は退官するつもりなんだが、ニーナも一緒に退官して、私の家に来ませんか」
いきなりの誘いにニーナは即答できなかった。
「私が退官?」
「もう、君も十分働いたでしょう。もちろん君は予備役扱いになるでしょうが、残りの人生はのんびりすごしてもいいのではないですか。私の妻も、娘がいるのもいいと言ってくれてますのでね」
「私、退官するなんて考えたこともありません」
「まあ、そうでしょうね。でも、ルーナやレナがいることですし、私は君と余生を過ごしたいと思っているのですよ」
「私とですか?」
「そう、君と。私のわがままにつきあうと思って、考えてくれないかな。所管替えとかの手続きは心配しなくていい。ちゃんと考えてあるから」
「わかりました。考えておきます」
眼下に空母ジュノーを視認し、ニーナはアプローチに入る。アーチャーは垂直離着陸機なので空母ジュノーにゆっくりと降下し着艦した。
川崎はアーチャーから降り、出迎えのロボットの案内で艦隊司令が待つ会議室へと向かった。会議室ではすでに西郷とエドワーズ、そしてエレクトラが待っていた。
「わざわざ、お越しいただいて恐縮です」と西郷が川崎に挨拶する。
「君らをそろえて司令部に呼ぶ訳には行かないのでね。今後のことで、君らと話しておきたいことがあります。詳細はニーナが来てからでよいですか」
「はい」
しばらくして、ニーナが入室し、川崎等は打ち合わせに入った。ニーナは部屋のディスプレイとデータリンクを確立し、必要なデータを表示する。エレクトラも必要な情報をつきあわせる。
「すでに、情報部からの報告に目を通していると思いますが、状況はかなり切迫してきました。セレクターズだけでなくラルゴシティにも攻撃支援の動きが見えることから、次の攻撃はかなり規模が大きいものと予測されます」
「はい、我々もそう考えています」
ニーナは予想される敵の戦力を表示する。潜水母艦二隻に攻撃潜水艦2隻。そして、先日、出航が確認された輸送船四隻。特に輸送船四隻の予想航路と第二艦隊の行動予測は注目点だった。
「西郷、第二艦隊は輸送船四隻とほぼ同時期にプレストシティ沖に来ると予想されます。これは君の予測の範囲ですね」
「そうです。エレクトラ、攻撃予測パターンを頼む」
エレクトラはディスプレイに地図と攻撃パターンを表示する。
「輸送船にのせたドラグーンと攻撃型バトルアーマーをこのポイントに上陸させ、シティめがけて侵攻させます。これは陽動ですがシティを壊滅させる規模と見せかける必要があり、おそらくはドラグーン七機と攻撃用バトルアーマー五機と言ったところでしょう」
「それだけでも相当な規模ですね」
「はい。しかし、本命は潜水母艦から発進するドラグーン三機と攻撃型バトルアーマー一機で、これらは海上から直接、ダグラスインダストリーめがけて侵攻、攻撃してくると考えられます」
ディスプレイにプレストシティに向けて延びる二つの攻撃の矢が表示される。
「プレスト防衛軍はどう動きますか」
ディスプレイにプレスト防衛軍の第三の矢が表示され、西郷は続けた。
「おそらく陽動部隊と呼応し、陽動部隊を迎撃にでたプレスト海軍を奇襲・殲滅しようとするでしょう。プレスト防衛軍の基地の位置から考えて、陽動部隊の侵攻コースはこのコースをたどることで、プレスト海軍の迎撃部隊を効率的に攻撃することができます」
「なるほど、確かにそれが一番よいパターンですね」
「川崎副司令も、そう思われますか。私には少し迷いがあります」
その西郷の発言を川崎は制する。
「西郷、司令官が悩むのはいけないよ。勝てる戦いも勝てなくなる」
「ですが・・・」
「私は君と違ってモルガン提督とは面識がある。彼は君の手のひらからは逃れられない。そして君の想像どおり、彼は兵を無駄にしない。侵攻した兵の帰還を第一に考えるのだよ。それは間違いない。水上の輸送船の乗員をふくめ、脱出を確実なものにするはずだ。おそらく輸送船の近くに潜水母艦を潜め、乗員を回収し、離脱を図る計画だろう。裏切ったプレスト防衛軍の兵を含めてね」
「モルガン提督はそうしますか?」
「間違いなく、そうします。彼はそういう男です」
「ならば、我々はエドワーズに艦隊本体を指揮させ、あらかじめプレストシティ沖から待避させておきます。そして、モルガンの艦隊を餌に第二艦隊の攻撃を誘い、殲滅します」
「いいでしょう。やりなさい」
川崎はエドワーズに向かって、
「エドワーズ、君に第二艦隊とその司令官、ホワイトを撃つ覚悟はありますか?」
「むろんです。かつての級友とはいえ、テロリストに情けは無用、西郷の命に従います」
「いいでしょう」
川崎は再び西郷に視線を移す。
「西郷、スコット司令からの伝言です。すべての作戦指揮を君に預けます」
「ありがとうございます」
西郷は礼を言った後、
「あの、先生、もしかしてそれを言うためにわざわざここへ来たのですか」
「まあ、そんなところです。こんなことは通信では、話せませんのでね。君にとって、モルガンは大した敵ではない。過剰に恐れる必要はないということは伝えたかった」




