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ブルーライトニング 改訂版 第85章

 学校から帰ったリョーカが、夜間シフトで基地に詰めていたマルスに会いに来た。

「あれ、どうしたの、リョーカ」

 控えめなマルスの問いに、リョーカがはじけた様子で答える。

「マルスに会いに来ちゃった」

「そう」と、マルスは冷静だ。

 リョーカが態度を改めて、

「あの、接近戦闘の訓練、付き合ってくれない?」

「接近戦闘?」

「うん、アトスがね、マルスとできるだけ早く、接近戦闘を訓練した方がいいというの」

 アトスはフォルテシティに出向中のファントムのリーダーである。リョーカはアトスの接近戦闘を受け継いでいた。

「別にいいけど・・・ ルイスの許可は取ってある?」

「うん、ルイスも是非やりなさいって」

 マルスは傍らにいるルーナを見上げる。

「付き合ってやりなさい。リョーカがそう言っているんだから」とルーナはマルスの背中を押す。ルーナはマルスの上位に位置するアンドロイドなので、ルーナの指示は絶対である。

「うん、わかった。じゃあ、訓練ルームへ行こう」


 訓練ルームの使用許可はすぐに下りた。新しく配備されたJ-9型を訓練していたゼムが時間を空けたからである。

「面白いものが見られそうだ」とゼムもずいぶん乗り気である。


 帰宅しようとしていたルイスまでもが、訓練ルームにやってくる。

「マルス、リョーカの訓練、頼むわね」とルイスにまで頼まれると、マルスも後に引けない。

「それじゃあ、いこうか」と、マルスはライトセイバーを訓練モードで作動させる。リョーカも呼応するようにライトセイバーを作動させた。その刹那、二人の姿がふっと消え失せた。

「うーん、肉眼じゃ、何をしているか、わからないわね」

 観測室の窓から様子をうかがうルイスには、マルスとリョーカの動きはほとんど見えなかった。観測を手伝っているルーナは、モニターを見ながら、ダグラス社のメインコンピュータの「ニック」とデータリンクを結び、なんとか状況を把握しようと努めていた。

「一部の映像ならスローで再生できますよ」とルーナが言うが、

「今はいいわ。それよりどんな具合かわかる? やっぱりマルスがリョーカを押しているの」

 ルイスとしては気になるのだろう。ルーナはニックからの情報で、

「ニックの解析だとマルスが手加減してます。マルスは少しずつレベルを上げてリョーカのレベルを引き上げようとしているみたいですね」

 それを聞いたゼムが、

「ふーん、教え方がうまいな。私は全力でマルスを吹っ飛ばしていたが」と言った。確かに、マルスは最初のうちはゼムに吹っ飛ばされていた。マルスはそこまで荒っぽくないらしい。

 突然、二人の動きが止まった。何が起きたかルイスにはわからなかったが、ゼムが一言。「リョーカが負けた。実戦なら腕を斬られたな」と言ったので、ルイスはふう、とため息をついた。やはりマルスには及ばないかと思った。

 

「少し、スピードが乗っていないね、リョーカ。踏み込みが甘いよ」とマルスが言った。

 ルイスとゼムが観測室から出てきた。ゼムが、

「アトスの型を受け継いでいるのはわかるが、もう少し、動きのスピードをあげた方がいいだろう。リョーカにはそれができるはずだ」

 だが、リョーカは絶望感を漂わせて首を振った。

「どうしたらいいか、ほんとにわからないわ」

 アトスと模擬戦をやったことがあるゼムは、アトスの戦い方も熟知していた。

「たしかに、極限まで速度を上げるソレイユの戦い方に対し、アトスの戦い方は力を重視している。そのままでは応用は難しいか・・・ しかし、リョーカならできると思う。焦らないことだ」とゼムはリョーカを励ました。

 話を聞いていたルイスもマルスに頼み込んだ。

「マルス、できるだけ、リョーカの練習相手になってやって。私からもお願いするわ」

「うん。でも、戦い方が根本的に違うから、ぼくの戦い方を教えるわけにはいかないと思うよ」とマルスが言うと、

「心配するな。リョーカはきっと学ぶだろう。私も協力するよ」とゼムが言った。ゼムの荒っぽい教え方を聞いていたルイスは、

「ゼム、ちょっとは手加減してよ」と頼んではみるが、

「いや、無理だな。以前、試したときに比べて、動きが格段によくなっている。手加減できるレベルじゃない」とゼムが答えた。

「ああー じゃあ、なるべくマルスが相手してやって! お願い!」とルイスがマルスに頼み込む。さすがにリョーカが不憫に思えるらしい。

「はい」とマルスが答えてくれたので、ルイスはほっと胸をなで下ろした。


 マルスとリョーカが模擬戦を繰り広げている頃、基地の別棟では川崎はオルソンのオフィスを訪ねていた。

「どんな感じですか」と川崎が聞く。

「グリフォンのキャンセルが多発してます。生産中だった機体も納入先を失いました」

 オルソンは川崎に椅子をすすめた。川崎は椅子に座るとテーブル越しに、

「ということは、それらを流用してプレストシティの攻撃に使うこともあり得ますか?」と聞く。オルソンは壁面のディスプレイに図表を表示させ、最近のドラグーンのキャンセル事例と、タイタンの受注件数を示した。

「なりふり構わないなら、あり得ますね。やっぱり、2回の会戦でドラグーンがタイタンに敗北したのが大きいのでしょう。逆にタイタンの発注がローウェルに集まってます。これ、うちの納入スケジュールに影響を与えないといいのですけど」

 オルソンの懸念に、川崎は笑顔で答えた。

「その辺は大丈夫ですよ。ローウェルは約束を守って、調達は予定通りです」

「ならいいんですが、今のスケジュールでも攻撃予測日にギリギリ間に合うかです。着々と輸送船を準備していますから」

 プレスト海軍の無人偵察機は機体を交代しつつ、絶え間なくラルゴシティを偵察していた。

「やはり、戦力は増強してきますか」

「ええ、残された潜水母艦だけでなく、既存の輸送船を改造してドラグーンを運ぶ計画ですね」

「その数はわかりますか」

「輸送船は4隻、これだけでもドラグーンが12機運べます」

「現状でそれだけのドラグーンが用意できますか?」

「有人型ドラグーンを温存していたとして4機、ガバメントの生産ラインのグリフォンを改造するとなると、情報局が予測する攻撃日に間に合うのは4機から6機といったところでしょうか。多く見積もって投入戦力は10機といったところです」

 川崎はさほど動揺はしていないようだ。

「なるほど、となると、どういうふうに使うかが次の問題ですね」

「西郷中将はどのように考えているのでしょう」

「プレスト防衛軍の内通と裏切りがあるのは間違いないと考えているようです。そこで考えられるのは陽動作戦でしょう。私がモルガンなら、別働隊を揚陸し、これと防衛軍を連携させた上で、こちらの主力を引きつけ、プレスト海軍基地、すなわち、ここの工業施設を徹底的に破壊しますね。これならガバメントの利益となります」

 オルソンは正直、恐怖を感じた。それだけの攻撃をしのげるか心配だったからだ。

「防げますか?」

「防ぎますよ。西郷ならね」と、川崎は即答した。

「信頼しているのですね」

「まあ、あの男なら、私やモルガンを手のひらの上で遊ばせることができますよ。多少の犠牲は出るでしょうが、最終的にはセレクターズの主力は壊滅させるでしょう。もしかすると第2艦隊もね」

 軽い驚きがオルソンを支配する。

「第2艦隊もですか?」

「テロリストの汚名を着せて、各個撃破の餌食でしょうな。西郷ならやりかねない」

「第2艦隊にテロリストの汚名を着せたとなると、運用責任のあるラルゴシティの影響力をそぐことになりますね」

「それが狙いです。きっと第2艦隊はテロ行為に出ます。第2艦隊司令のホワイトは乗せやすい男ですからね」

 川崎は笑顔を添えて、こう言った。

「もっとも、他言無用ですよ、このことは」

 オルソンはぶんぶんと大きくうなずいた。




 その夜、玲子の部屋では、

「お姉ちゃん、入っていい?」とトリオの可愛い声がドアの向こうから聞こえる。

「いいわよ。入っておいで、トリオ」

 トリオはパジャマ姿で玲子の部屋に入ってきた。トリオはマルスのように玲子のシャツを着たがったりはしない。玲子がベッドに腰を下ろすと、トリオはスリッパを脱いで、ベッドに上がった。トリオは細かいところがマルスより人間らしい。足に指もあり、手足の指には爪が作り込まれている。

「お姉ちゃん」とトリオが両手を伸ばしてきた。それが抱っこをせがんでいるのだと理解するのに、少々時間がかかった。玲子はトリオを膝の上に抱く。初めてのことなので、トリオが抱っこをせがんできたのが意外だった。トリオは玲子に体を寄せて言う。

「お兄ちゃんを見ていて、わかったような気がする。お姉ちゃんの側なら安心だって」

 玲子はトリオを抱きながら、ふっと笑顔を浮かべる。

「私の側だと安心できるの?」

「だって、お姉ちゃんが守ってくれるでしょ。ロボットは誰かが守ってくれないと安心できないの」

「そっか」と玲子にはトリオが言わんとすることが理解できた。ロボットは器物でしかなく、破壊されたら終わりである。ロボットには保護者たる人間の存在が不可欠なのだ。無論、保護者たる人物が危険に陥れば、そこで初めてロボットの能力が生きることになる。

(おばさんに何か言われたのかな)と玲子は思った。トリオの心を知り尽くしている上原なら、トリオに何らかの命令を与えて、玲子に甘えることを仕向けることができるだろう。むしろ、何をやったのか興味がある。

「でもね、お兄ちゃんがいるときは、お兄ちゃんを優先してね。ぼくにはおばさんもいるから」

「大丈夫、トリオもマルスも私にとっては大切なの」

 そう言って玲子はトリオをぎゅっと抱きしめた。

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