表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/102

ブルーライトニング 改訂版 第79章

 海軍の連絡機に乗って、フォルテシティからルイスとリョーカが帰ってきた。リョーカにとっては初めてのプレストシティだが、マスターであるルイスが一緒なので、不安そうなそぶりはまったくなかった。サムはそんな二人を出迎えた。


「ルイス、つかれてないかい?」

「正直に言うと、疲れてるわ。時差ぼけもちょっとつらいわね」

 サムにも、ルイスが疲れているのはわかった。しかし、どうしても調整しておかなければならないこともあった。

「疲れているところ悪いが、これからのこと、少し打ち合わせしたい」

「ええ、空戦訓練じゃなかったら付き合うわ」

「うん、リョーカと一緒に来てくれ」


 会議室に入った三人は、思い思いの席に腰を下ろした。ほどなくノーマがコーヒーを二つ運んできて、サムとルイスの前に置く。自分もサムの隣に腰を下ろした。


「リョーカのことは、なんとかなりそうか?」とサムが切り出した。

「うーん、リョーカを預かることは通信で母さんには話したのだけど、まだ母さんは納得してないの。なんで軍のロボットを家で預からなきゃいけないの、って……」

 サムは頭をかいた。

「そうか……」

「あなたの家みたいにはいかないわ」

 パートナーのロボットを自腹でリースして家に連れ帰ったのは、サムが初めてだった。それ以来、ロボットを引き取った軍人は、非番のときは自宅に連れて帰る──というのが、プレスト海軍の半ば当然の習わしになっている。もちろん例外もあるが、ルイスも本当はリョーカを自宅に連れ帰りたいと考えていた。1号機のマルスがあれだけかわいがられているのに、リョーカを粗末にはできないという思いからだ。

「俺の場合は、母さんが連れて帰ってこいって言ったからなあ」

 サムは傍らのノーマの肩を抱いた。

(サムはほんとにノーマを大事にしている)とルイスは思う。そんなサムを冷やかす者や、悪く言う者もいるが、サムのノーマに対する思いは半端じゃない。それはサムだけでなく、サムの家族もそうなのだ。

「さすがダグラス家ね」

「で、どうするんだ。なんなら、俺の家で預かるぞ」

 サムは話題を戻した。

「もちろん、連れ帰るわよ。実際、リョーカを見たら母さんも考えを変えると思うの。結構、子煩悩だからね」

 そのあたり、ルイスは楽観的だった。

「学校の方は?」

「軍の方針なら行かせるわ。もちろん、費用は私が出す」

「いいのか? 学校へ行かせるのは軍の方針だぞ?」

「リョーカの保護者は私! リョーカのためのお金は私が出すと決めたの」

「そうか。まあ、建前上、家に連れ帰るのは装備の個人利用だからな。個人の責任で出してくれるのがありがたいのだが」

「ルイス、ほんとにいいの?」とリョーカが不安そうに聞くと、

「リョーカはそんなこと心配しなくてもいい。リョーカの面倒は私が見るのだから……」

 ルイスはサムに向き直って、

「でも、よく学校に行かせる気になったよね。司令部もリョーカの戦力化を急ぎたいんじゃないの?」

「ルーナやマルスの事例で、学校に行かせる効果が絶大だとわかったからね」

 ルイスは疑いの目でサムを見た。

「そんなに違うの?」

「違うね。ノーマとマルスを比べても、全然違う。ノーマは人間に冷淡なところがあるが、マルスはそうじゃない」

「ノーマって、そんなに冷淡なの? そうは見えないけど」

「俺を助けるためなら、平気で襲撃者を殺せる。何のためらいもなく、憐れみもなくだ。しかしマルスは、多少はためらいを感じるところがある。マルスやリョーカのような強大な戦力を扱うロボットは、人間に対して憐れみがあったほうがいい。司令部もその考えだ」

「西郷司令も?」

「ああ。この意見は、西郷司令の意見だよ」

「へえー、あの冷酷非情な西郷司令が、そんなこと考えるんだ」

 相手がサムだと、ルイスも遠慮がない。

「そう言うなよ。あの人、けっこう細やかだよ。ロボットのことをよく考えている」

「それなら、私も西郷司令を失望させないようにするわ。まあ、母さんはなんとかなるから」


 いろいろとサムと打ち合わせをして、ルイスがリョーカを家に連れ帰ったのは、八時を過ぎていた。

「ただいま、母さん」

 ルイスの母親は食事の支度をして、ルイスの帰りを待っていた。

「お帰り、ルイス」

「夕ご飯は?」

「まだよ。せっかくだから、ルイスと一緒に食べようと思って」

「そう、待たせちゃってごめんなさい」

「その子なの?」

 少し意外そうな顔をしていた。

「そうよ。名前はリョーカ。これでも軍の最新鋭のアンドロイドよ」

「そうなの。ずいぶんとかわいらしいわね」

 ルイスはリョーカに向かって、

「リョーカ、私の母さんよ」

 リョーカはきちんとお辞儀をして、

「はじめまして、フォッカーさん」

「母さん、リョーカにも母さんって呼ばせていいでしょ?」

「ルイスがそうしたいなら、いいわよ」

「じゃあ、リョーカも“母さん”って呼んでね」

「はい、ルイス」

「それじゃあ、ご飯にしましょう」

 ルイスはリョーカを自分の隣の椅子に座らせた。

「リョーカは食べないのよね」と母親が聞くと、

「ええ、リョーカには食べる機能はないの」

 母親は肉を切り分けながら聞いた。

「それで、リョーカはどんなことができるの?」

「パイロットよ。けっこうすごくって、私でも勝てないくらい」

 そう言いながら、ルイスはつけ合わせのポテトを口に放り込む。

「まあ、そうなの?」

 肉を頬張りながら、母親はリョーカを見つめる。こんな小さな女の子が、それほどすごいパイロットとは想像ができなかった。

「実際、戦ったの?」

「うん。内緒にしておいて欲しいけど、フォルテシティへのテロ攻撃があったでしょ?」

「あのドラグーンとかいうロボットが襲ってきた事件のこと?」

「あれ、倒したの、リョーカが操縦するロボットよ」

「あら、そう……」

 母親の手が、ナイフを握ったままぴたりと止まった。

「私も戦闘機で出撃していたんだけど……ほとんどやることもなくて終わっちゃったの。もう、人間が前線に出ることもないわ」

「そう。それはいいことだわ」

 娘が前線に出ないと聞くと、母親はほっとしたように食事を続けた。ただ、こんな女の子が戦場に出るなんて、と少し違和感も覚えていた。

「それにしても、どうしてこんなに可愛い姿に作ってあるの? 何か意味があるのかしら」

 母親から発せられた当然の疑問に対して、ルイスは答えた。

「意味があるんですって。実際、アンドロイドの方が人を守ろうとする気持ちが強いみたいよ。リョーカの同型のアンドロイドは、部下のロボットを的確に動かして、テロリストを制圧したって話だもの。ほら、あのピースメーカーとかいうテロリスト集団が学校やダグラス社を襲ったけど、被害はなかったでしょう?」

「あのときも? ニュースじゃメタロイドが守ったって言ってたけど……」

「あのメタロイドを指揮していたのがアンドロイドなの。実際、そのアンドロイドがいなかったら、あそこまで統制がとれた行動はとれないみたいよ」

「そう……驚いたわ」

 そう言うと、それからは一言もしゃべらず、黙々と食べ続けた。


 同じ日の夜。場所は変わって、敷島家のアパート。


「お姉ちゃん」

 マルスは、玲子に向かって両手を広げる。パジャマに着替えた玲子がベッドに腰を下ろして、

「おいで」とマルスに向かって手を差し出す。最近ではますます甘えん坊になってきたので、マルスはほとんど自分のパジャマを着ずに、玲子のTシャツを着ている。

 玲子はマルスを膝の上に抱き上げると、マルスは玲子の首にぎゅっと抱きついてきた。

「ぼく、あさってで学校をやめるの」

「そうなの? 急な話ね」

 それは、マルスと一緒に学校に行く日々が終わるということだ。

「守くんや恵ちゃんと別れるの、ちょっと寂しい」

「そうね。守くんも恵ちゃんも、寂しいと思うよ」

 マルスはふっくらとした頬を、玲子の頬に押しつける。玲子も、そんなマルスが愛おしい。

「でもね、忘れないで。マルスの家はここだからね。私はマルスのお姉ちゃんだからね」

「うん、お姉ちゃん」

 もう寝ようかと声をかけようとしたが、マルスの手にぎゅっと力がこもったので、玲子は今しばらくマルスを抱いたままでいた。

「お姉ちゃん、ぼくね、前はお姉ちゃんさえ守ればいいと思っていたの」

「そうなの? 今は?」

「今は、守くんや恵ちゃんたちを守りたいと思ってる。ぼく、がんばるから」

 それを聞くと、玲子はマルスをぎゅっと抱きしめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ