ブルーライトニング 改訂版 第77章
上原がオフィスで人工頭脳のシミュレーションをしていると、来客があった。
「いま、いいかしら」
やってきたのはアリス・ダグラスだった。
「どうぞ」と上原は丁寧に招き入れる。
「コーヒーでいい?」と上原は気楽にアリスに問うと、
「ええ、お願いできる?」
備え付けの紙コップにコーヒーを注ぎ、小さな会議机を挟んで、アリスと自分の前に置く。お茶好きの上原ではあるが、仕事の時はあえてコーヒーを飲んでいた。
「用向きは何?」と上原は切り出した。あえて仕事中に来るのなら、世間話ではないはずだ。そのあたりはアリスはけじめをつけている。アリスはコーヒーを一口飲み、そして言った。
「今日、申請された試作アンドロイドの件だけど、あれ、玲子のためのアンドロイドなの?」
上原はコップを口元で止めた。
「ええ、もう一人、玲子のために弟を作ってやろうと思って。新しいコンセプトも試したいし、私が直接観察もできるし、ちょうどいいと思うの」
上原は苦笑しながら言った。
「公私混同はだめかしら」
「いえ、新しいコンセプトを試すのも大事よ。真奈美がそれを直にテストするというのも意味がある」
「そう思う?」
アリスは大きくうなずいた。そして言った。
「ええ、それでね、試作モデルは2体作れないかしら」
上原はアリスの思惑を図りかねた。
「何に使うの?」
「メアリの妹にしたいの」
上原はアリスの意図を理解した。
「そうね、いいかもしれない。2体作ることは可能よ。年相応の可愛い性格になると思うから、メアリも喜ぶんじゃないかしら。でも、まだ、製作許可が下りてないし、いいのかしら、試作機をあなたの娘に与えても」
「許可は任せて、責任を持って私が企画を通すわ。それに夫もラルフも興味を持っているから、妨げる要因は無い」
一息おいて、アリスが続けた。
「それにね、メアリには新しいコンセプトのアンドロイドがいいと思うの。私も、そのコンセプトを試してみたい」
上原は会心の笑みを浮かべる。
「わかったわ。企画書を直しておくね」
「ええ、おねがい」
上原はコーヒーを一口のみ、言った。
「珍しいわね、そんな私的なことを、こんな時間に話しに来るなんて」
「企画書を直さないといけないから、早いほうがいいと思ってね。それに、真奈美の企画書を読んだら、他の仕事なんか目に入らなかったの。これは新しい需要に応えるものになると思う」
上原の意気は大いに上がった。
「がんばるわ」
そう言うと、コーヒーを飲み干した。
「期待してる」とアリスは静かに言って、残りのコーヒーを飲み干した。オフィスに残るコーヒーの香りが、二人の高揚感を高めていた。




