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ブルーライトニング 改訂版 第11章

マルス ダグラス社が開発した最新鋭戦闘用アンドロイド

サム プレスト海軍パイロットであり、ロボット部隊ファントムの責任者

ノーマ サムのパートナーの少女型アンドロイド

ソレイユ ファントムの総司令を務める少女型アンドロイド

スコット大将 プレスト海軍総司令

川崎中将 プレスト海軍副司令

スミス博士 ソレイユを開発したダグラスの技師。マルスを排除しようとしている。

「あれ、動きが変わったよ」とマルスがソレイユに言った。激しい機動をしていたが、ロボットたちはまったく苦にしていなかった。

「サムが操縦してるようね。ノーマはどうしてもサムの体の負担を考えるから無理な機動はしないけど……注意して。あのサムの強さは半端じゃないわよ」と、ソレイユが注意を促した。

「はい」


 マルスが答えたその瞬間、射撃レーダーに捕捉された。


「早速やられたわね」

「うん、まいったな!」


 マルスは本来、自分の手足に内蔵されたフォースモーターを使うようにプログラムされているため、空中戦では速度よりも複雑な機動を重視する傾向があった。だが、機動性に優れたドルフィンといえども、マルスが思い描くとおりの機動を実現することはできない。


「すごいね、あの二人!」


 再び射撃レーダーに捉えられ、マルスは驚嘆の声を漏らした。思い通りの機動ができないマルスにとって、サムは手強い相手だった。


「あのペアは最強よ。私じゃ絶対に勝てない相手だわ」

 ソレイユは率直に言葉を漏らした。彼女は自分の身体を使った格闘戦は得意だが、戦闘機の操縦はそれほどでもない。一方、戦闘機の操縦に特化したノーマは、格闘戦ではソレイユに及ばない。

 だが、戦闘用に開発されたマルスは、格闘戦を含むあらゆる状況に対応できるように設計されている。マルスは、プレスト海軍が望んだ「次世代のアンドロイド」なのである。――しかし同じ時、そんなマルスの存在を脅かす事件が起ころうとしていた。


* * *


 サムがマルスの訓練を行っていた頃、プレスト海軍の司令官スコット大将のオフィスには、ダグラスインダストリーのロボット部門最高技術責任者であるスミス博士が姿を見せていた。スミスはマルスを開発した敷島と上原の上司にあたり、ソレイユを開発した中心人物でもある。

 そのスミス博士が開口一番、AS52型アンドロイド――すなわちマルスの開発契約を破棄したいと申し入れてきた。


「ではスミス博士。あなたは、海軍と交わしたAS52開発プロジェクトの契約を破棄し、代わりにAS51型を納入すると言うのですな。理由はAS52型の欠陥……」


 スコット司令は憮然とした表情を隠そうともせず、会議机を挟んで向かいに座るスミスをにらみつけた。傍らには川崎中将が控えている。


「そうです。ダグラスインダストリーのアンドロイドは、人間との共存を最優先とします。しかし、マルスには共存のための家事機能がありません。一方、AS51型は基本機能として家事機能を備えています。同じ出力のフォースモーターを内蔵し、同等の飛行能力を持ち、単体での戦闘能力もかなりのレベルです。AS51型の1号機であるルーナを、あなた方も高く評価していたではありませんか」


 スコットは、その点については頷かざるを得なかった。確かに、マルスに先行して完成した少女型アンドロイド「ルーナ」の能力は、高く評価している。だが、ルーナに求められている役割と、マルスに求められている役割は異なる。スコットは、都合のいい事実だけを引き合いに出して自分の意見を押し通そうとするスミスのやり方が気に入らなかった。反論しようと口を開きかけたところで、川崎の無言の制止を受ける。スコットは年長の川崎を師として尊敬しており、その静かな合図に従った。


 川崎は穏やかな口調で話し始めた。


「ダグラスインダストリーの規定では、アンドロイドは人間との共存を最優先すること――そう定められていますね。そのために、三つの原則が設けられている」


「そうです」

 スミスは、やや用心深い声音で答えた。川崎は話を続ける。


「すなわち、人命を尊重すること。法律を守ること。そして、マスターと定められた人間の命令に従うことの三点ですね」


「そうです。それに、家事用機能が必須です」と、スミスが付け加えた。


「家事用機能の搭載は、あなたの見解であって規定にはありません。実際、中央病院に導入された看護用アンドロイドは、高度な医療プログラムを持つ代わりに、料理を作るといった家事用機能は搭載していない。しかし、病院食を作るのは看護用アンドロイドではありませんから、実用上はまったく問題なかったのではありませんか?」


 挑発めいた川崎の問いかけに、スミスは返答に詰まった。ロボット工学の素人であるはずの川崎が、アンドロイドの機能をこれほど正確に把握しているとは思っていなかったのだ。川崎は畳みかけるように言葉を重ねた。


「AS52型マルスには、今お話しした三つの規定がきちんと組み込まれています。それは、完成時検査でも確認済みのはずです。マルスは軍事用に限らず、あらゆる人災・災害から市民を守るために開発されました。しかし、家事用機能の実装は、人工頭脳の記憶容量の制約から不可能です。だから我々は、そこまでは要求していないのです」


 スミスはここぞとばかりに主張した。


「ですが、あえて欠陥品であるAS52型を選ぶ必然がありますか?」


 だが、川崎はひるまなかった。


「マルスは欠陥品ではありません。残念ながら、あなたが提案するAS51型では、最新鋭のメタロイドを管制できません。これは演習によっても実証されています。ルーナでは、我々が要求する任務をこなせないのです」


 すでにスミスの敗色は明らかだったが、最後の抗弁を試みた。


「それは、あなた方の要求する性能が高すぎるのだ!!」


 スミスが食ってかかるように声を荒らげたが、川崎は、あくまで穏やかな口調を崩さなかった。


「ルーナとマルスでは、求められている能力が違うのです。とにかく、近々予想されるテロに対応するために、マルスの力が必要です。あなたの戯れ言につきあっている暇はありません。――お引き取り願えますか」


 穏やかながらも一歩も引かぬ川崎の物言いに、スミスはついにあきらめたように席を立ち、その場を後にした。

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