ブルーライトニング 改訂版 第102章
玲子にはいつもの客間を用意され、マルスとトリオと一緒に寝ることになった。客間のベッドは子ども三人で並んでも余るほど大きく、三人一緒で寝られるので、少し新鮮な気分である。マルスとトリオはおそろいのパジャマを着ていた。今回ばかりは玲子がしっかり荷物をチェックしたので、マルスは玲子のTシャツを潜り込ませることはできなかった。
「メアリがね、寝る前にお話がしたいって言っていたから。もうすぐ来るとおもうから、寝るのはもう少し待ってね」
メアリとは一緒に遊んだり、勉強を教えたり、ずいぶんと一緒に過ごしたが、寝る前にお話したいと言われていた。明るく振る舞ってはいたものの、少し陰を感じていたので、玲子はメアリの頼みを快く受けた。
「玲子、入っていい?」とメアリの声がドアの外から聞こえた。
「いいわよ、入ってらっしゃい」
ドアが開いて、メアリとエイミーが入ってきた。二人ともおそろいのパジャマを着ている。
「二人とも、似合うね」と玲子がいうと
「ありがとう。ママに買ってもらったの」
玲子はベッドの縁に座り、隣はメアリが座れるようにマルスもトリオもベッドの上でごろんと横になっていた。
「ここに座って」と玲子はメアリを促す。
「うん」と言ってメアリが玲子の横に座ると、エイミーは床の絨毯の上に座った。
「玲子、今日はありがとう」
「うん、私もメアリと遊べて楽しかったよ」
「わたし・・・」
玲子は無理に話の先を促そうとはしなかった。
「わたし、エスターが死んで、悲しくって・・・ でも、みんなが優しくしてくれて・・・ ひょっとして、エスターが死ぬことがわかっていて、パパとママはエイミーを連れてきてくれたのかな?」
「それもあるかもしれないけど、多分、それだけじゃない。パパとママはね、メアリに妹か弟がいた方が寂しくないだろうと思ったのよ。マイクはちょっと歳が離れているし、それに照れ屋だからね。メアリには、ちょっと甘えにくいでしょ」
「玲子がお姉ちゃんだったらよかったのに」
マルスがピクリと顔を上げる。
「私はたまにはこうして遊びに来るよ。そうしたら遊んだり、お話しできるでしょ」
「うん・・・ でも、わたしのところにエイミーが来て、エスターは寂しい思いをしなかったかな。死ぬ前に悲しい思いをさせちゃったのかな?」
玲子はメアリのほっぺをちょんと突っついた。
「それは考えちゃだめ。そっちの方がエスターが悲しむよ。ロボットはね、嫉妬はしないの。エスターはね、メアリとエイミーの幸せを願っていたと思うの。メアリとエイミーが仲良くしていて、幸せそうだったら、エスターはきっと幸せだったと思うよ」
メアリが目を瞬かせる。
「そうなの?」
「ロボットはみなそうよ。私とマルスが仲良くしていれば、ロビーもトリオも喜んでくれるし、私がトリオをかわいがっていれば、ロビーもマルスも喜んでくれている。お互いにみんなの幸せを喜んでいるの」
玲子はメアリの頬を両手で包む。
「メアリ、エイミーと仲良くしなさい。そうすればみんなしあわせになれる。私もメアリがエイミーと元気に過ごしていればうれしい」
玲子は床に座っているエイミーに手を差し出す。
「いらっしゃい、エイミー」
「はい」といって、エイミーは立ち上がると、玲子の近くまで寄ってきた。玲子はメアリとエイミーを両手で抱きしめた。
「二人とも仲良くね。エスターもそれを願っているから。私も、パパやママもマイクも・・・」
メアリが少し涙ぐむ。
「ありがとう、玲子」
目をゴシゴシとぬぐってメアリは言った。
「やっぱり、玲子が私のお姉ちゃんだったらよかったのに・・・」
メアリは小さく唇をかみしめながら、ぽつりとつぶやいた。
「私はお姉ちゃんのつもりでいるよ。一緒の家には住んではいないけどね」
「ありがとう、玲子」
「私もメアリといっぱい話ができて、楽しかったわ」
メアリが顔を寄せてきたので、玲子は身をかがめると、メアリは玲子の頬にキスをした。玲子もお返しにキスをする。メアリはマルスとトリオにもキスをして、「おやすみなさい」といって、メアリはエイミーの手を引いて部屋を出て行った。
玲子はマルスとトリオを両手で抱きしめると、
「今度はマルスとトリオの番だよ」と言った。マルスとトリオはしばらく玲子のぬくもりを確かめるように、玲子の腕の中でじっとしていた。マルスがぽつっと、
「メアリ、元気になるかな?」と言うと、
「なると思うよ。メアリには優しい家族がいるもの。それはメアリもわかってるから」
玲子はマルスとトリオを離すと、
「私にもね、マルスやトリオ、伯父さんやおばさんやロビーがいるから、元気になれるの。だから、感謝してる。今日も私に付き合ってくれて、ありがとう」
「ぼくはお姉ちゃんが大好きだよ。そばにいられるだけ、ぼくはうれしいの」とマルスが言うと、トリオも、「ぼくもだよ」と言った。
「じゃあ、寝ようか」と玲子が言うと、マルスとトリオはベッドの上に上がった。ただ、寝る位置が決まらず、しばらくの間、わちゃわちゃとやり合うことになった。結局、マルスを中心に、玲子とトリオが端に寝ることになった。トリオはどちらかというとお兄ちゃん子なので、こういうことになったのだ。
「3人一緒に寝るって、新鮮な気分ね」と玲子が言った。
「家のベッドも大きいといいのにね」とマルスが言うと、
「部屋が小さいもの。大きいベッドは入らないから」
玲子はマルスとトリオの頬に順番にキスをした。マルスとトリオも順番に玲子にキスをすると、お互いキスをする。トリオはキャッといって、マルスに抱きつき、そのまま押し倒して横になった。
「お休み」と玲子は言うとリモコンで照明を暗くし、自分も横になった。マルスが玲子のそばに寄ってきて「おやすみなさい」といって、動かなくなった。
「幸せなんだろうな・・・ 私」
そう思った瞬間、胸の奥に小さな痛みが走る。それでも、今はただ、マルス達を抱きしめていたかった。トリオが来てからというもの、マルスがいない夜にロビーがそばにいてくれることもなくなった。ロビーはそれでいいのだと言う。トリオは上原をマスターとしているとはいえ、玲子にずいぶんとなついているのも、ありがたかった。
玲子はマルスを撫で、手を伸ばしてトリオも撫でた。トリオはマルスがいないときは玲子になついているが、マルスがいるときはマルスになついていた。お兄ちゃん子なのだといえばそれまでだが、おそらく上原がトリオに命じて、マルスが存分に玲子に甘えられるようにしているのだろう。玲子にとって、二人とも大切な弟である。玲子は小さなあくびをすると、目を閉じた。




