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ブルーライトニング 改訂版 第100章

 リヨン大統領官邸を襲ったクーデターは、大きなニュースとなった。三十体を超えるロボットが官邸に突入したことも衝撃だったが、それを迎撃したダグラス社のロボットが、ほとんど一方的にテロロボットを制圧したことも大きく報じられた。


「ダグラスのロボットってすごいな」――そんな話題がネットを駆け巡る。一方で、ダグラス側にも大きな被害が出たというネットニュースが流れ、情報は混乱していた。だが大統領府の公式発表は「護衛ロボットに被害はなく、テロロボットを制圧した」と強調している。


 リヨンは腹心のボイドを呼び、問いただした。

「ニュースで“ダグラス社のロボットに大きな被害”と報道されているのはなぜだ。大統領府は“被害なし”と発表しているのに」

「報道している各社に問い合わせましたが、“独自の情報筋”から入手したとのことです」

「独自の情報筋? 誰がでたらめな情報を流している」

「これはあくまでプレスト海軍情報局の推測ですが……ガバメント社がマスコミに情報を流させている可能性があります」


 リヨンは、鼻で笑った。

「自ら嘘の情報を流して、その嘘をトップに信じさせているのか」

「……は?」

「アルトシティを攻撃したときも、“被害が出ている”とニュースが流れていた。だが実態はほぼ無傷だった。その後のフォルテシティ、プレストシティ侵攻の時も同じだ。身内のお偉いさんを納得させるための嘘――そういう構造なのだろう」


 ボイドはうなずいた。

「なるほど……そうだとすると、失敗続きなのにテロの手を緩めないのも説明がつきます。トップは失敗していると知らない」

「裸の王様というやつだ。ラルゴシティは典型的な独裁体制のシティだからな」

「確かに、これほど完璧に負け続けていたら、普通は責任者が粛正されます」


 リヨンは話題を切り替えた。

「旧体制派はどうしている」

「憲兵が逮捕しましたが、動揺しているようです」

「証拠は山ほどある。きっちり立件してくれ」

「もちろんです」




「なぜ、私を逮捕するんだ? 新体制派の嫌がらせか?」

 取調室で容疑者の大将に問われ、軍警察のマーレイ大佐は冷静に答えた。

「逮捕の際に罪状は告げたはずです。リヨン大統領襲撃の主犯――つまり、テロ実行の罪です」

「濡れ衣だ! 私は何も知らない。黙秘する」


 マーレイはわずかに皮肉な笑みを浮かべた。

「黙秘も結構。結果は変わりません。あなた方がガバメントと共謀し、テロ用ロボットを“ソプラノシティ向け軍事物資”と偽って密輸したことも、大統領襲撃を企図・実行したことも、証拠は揃っている。通信と行動の記録はすべて押さえている」

 マーレイは淡々と言葉を重ねる。

「ロボットは道具にすぎない。その道具を使ってテロを起こしたのはあなた方だ。軍事法廷では有罪、そしてテロ実行犯は死刑。――結果は変わらない」


 大将の顔が恐怖にゆがんだ。

「私は何も知らない!」

「軍事法廷で、あなた自身の声を聞くといい。“新体制派を一掃する完璧なシナリオ”と評した、あなたの声をね」

「盗聴していたのか」

「テロリストの行動は監視する必要がある。黙秘するならそれでいい。――おい、容疑者を営倉に戻せ」

「待ってくれ! 捜査に協力する! 取引させてくれ!」


 リヨンとボイドは会議室でマーレイの報告を聞いた。

「旧体制派はすべて落ちました。捜査に全面協力すると言っています」

 リヨンは皮肉な笑みを浮かべる。ボイドは冷徹に言った。

「今さら協力と言われても益は少ない。取引にはなり得ませんな」

「とはいえ協力的なのは助かります。取れるだけ取ります」

「よろしく頼む」とリヨンが言った。


 しかし、報告していたマーレイは、二人の煮え切らない態度が気になった。

「気になることでも?」

 リヨンはため息をついた。

「こうも思い通りに運ぶと、逆に怖い」

「プレスト海軍のシナリオ通りに進むのが……ですか」

 リヨンはうなずき、ボイドも「正直、怖い」とだけ言った。

 主語はなかったが、マーレイはその恐怖の対象を理解していた。

「西郷司令は野心家ではありません。テロリストにもなり得ない。ただ、テロリストと首謀者を排除しようとしているだけだ。あの男にとっては……ゲームをプレイしているようなものです。怖い男ではありますが、害はありません」


 親しげな口ぶりに、ボイドが眉をひそめる。

「あれに害がない? 君は西郷中将を知っているのか?」

「同じ士官学校で学んだ仲です。突出した成績というわけではありませんでしたが、一度だけ戦術シミュレーションでエドワーズに勝って、周囲を驚かせたことがありました」

「エドワーズ……副司令の?」とリヨンが聞き返す。

「そうです。思えば、あの時から意気投合していました。教官の一人だった川崎中将も見抜いていたのでしょう。だからプレスト海軍設立のとき、西郷とエドワーズを招聘した」

「偶然ではない……」とリヨンはつぶやく。

「スコット大将と川崎中将には人を見る目があります。政権交代が偶然だとしても、その後の流れは必然だった――私はそう考えます」


 リヨンは嘆息した。

「プレストシティの政権交代は五年前……たったそれだけのことが、世界にこれほどの影響を与えたのか」

「そういうことになります」




 プレストシティに戻ったマルスは、リョーカとゼムとともに訓練スペースで模擬戦を行っていた。マルスはすでにゼムを圧倒する実力を持つが、リョーカはまだゼムと互角――それでも、成長は目に見えていた。

 ライトセイバーを訓練モードで打ち合わせる。マルスの動きはソレイユ譲りの流麗さ、リョーカの動きは三銃士のアトス譲りの重さと堅さ。それぞれの特徴が、はっきり出ている。


 時間がきて二人が動きを止めると、ゼムが言った。

「リョーカ、今度は私とやろう」

「はい」


 マルスは内心ひやひやしていた。ゼムは手加減をしない。今のリョーカではゼムを抑えられない――そう思ったが、二人の打ち合いは意外にも拮抗した。ゼムの重い一撃を、リョーカは身軽に受け流す。だが、ゼムが本気で間合いを詰めると、次の一撃がリョーカを薙いだ。


 訓練モードのセイバーは切断こそしないが、実体を持つ棒と同じ衝撃を与える。リョーカは衝撃緩衝材を張り巡らせた壁に激突した。

(うわ、ゼムも容赦ない)とマルスは肩をすくめる。


 ゼムはセイバーを止めた。リョーカもセイバーを止め、がっくり肩を落とす。

「やっぱり、この型ではだめなのかな……」

 ゼムは率直に言った。

「アトスの型は悪くない。ただ、私と戦うときは不利になる。あれは力主体の戦い方だ。人間相手ならともかく、力で私に敵うはずがないだろう。ただし、ブラックタイタンでの戦いでは使えたはずだ」

「それは、そうだけど……マルスのプロメテウスの制御はもっとすごかったし……」

 ゼムは首を振った。

「それはプロメテウスだからだ。プロメテウスはブラックタイタンとは違う。力よりスピードがものを言う。リョーカは力より、少しスピードにリソースを振ればいい。アトスの型でも、かなり有効になる」


 リョーカはセイバーを構え直した。

「なんとなく理解できたから、ゼム、もう一回、お願いできる?」

「焦る必要はないぞ」

「早くマルスを手伝いたいの」

 ゼムはうなずいた。

「わかった、つきあう」


 訓練が終わり、リョーカはマルスと話があると休憩室に誘う。マルスとリョーカは休憩室のソファーに座った。

「わたし、マルスのこと、手伝えるかな」

「いまでも十分、手伝えるよ」

「でも、プロメテウスが私の制御を受け付けてくれないの。わたしのために作られているアトラスが、わたしを受け入れてくれるかしら」


プロメテウス二号機「アトラス」は最終組立段階に入り、プレスト海軍への納入が迫っていた。アトラスはプロメテウスと同様に、マルスとリョーカと同等の人工頭脳を内蔵している。

「前のリョーカは拒否されたかもしれない。でも今のリョーカならわからない。くよくよせず、試してみようよ」

 マルスはリョーカを連れ、格納庫へ向かった。


 プロメテウスは格納庫で待機状態にあった。

「プロメテウス。リョーカの訓練に付き合ってくれない?」

 プロメテウスはわずかに頭を動かし、二人を見下ろした。

「ゼムから聞きました。腕を上げたようですね」

 リョーカが頼み込む。

「シミュレーションでもいいから、試してくれない?」

「ケチなことは言わないで。実動訓練で試しましょう。許可はすぐ下りるはずです」


 果たして川崎副司令直々の許可が下り、プロメテウスはロックボルトを解除して動き出した。胸のハッチが開き、リョーカをコックピットへ収容する。出撃する機体を見送りながら、マルスは小さく声をかけた。

「頑張ってね、リョーカ」


 訓練空域に到達すると、プロメテウスは仮想敵として同行させた三機のホーネットを、自らの制御下に置いた。

「さあ、私を動かしてみなさい、リョーカ」

「じゃあ、やってみるね」


 リョーカは複雑な機動をするホーネットを確実に射線へ捉えていく。

「なかなかやりますね」


 プロメテウスは続けた。

「では、先日マルスが戦ったロボットの動きを、ホーネットにシミュレーションさせます。ライトセイバーで撃墜してみなさい」

「はい」


 リョーカはライトセイバーを抜く。もちろん訓練なので作動はさせない。複雑な回避機動で模擬攻撃をかわし、肉薄して振り下ろす。三機すべてに撃墜判定が出た。


「なるほど。素晴らしい制御です。合格です、リョーカ。これなら二号機“アトラス”を任せられます」

 遠く格納庫でモニターを見つめていたマルスが、小さく拳を握った。

「やった!」とだけ、つぶやく。


 訓練の様子を司令室で見守っていた川崎に笑みが浮かんだ。

「リョーカもマルスの水準に達しましたか」

「そのようですね」と傍らのニーナが答える。

「この吉報を、すぐにスコット司令と西郷君に伝えなさい」

 川崎は、リョーカのマスターであるルイスに向き直った。

「良かったですね、ルイス。仕上がりは上々です」

 ルイスも、ほっとしたように答えた。

「良かったです。これでマルスの負担も減らせるでしょう」

「ええ。あなたの努力にも感謝します」

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