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ブルーライトニング 改訂版 第1章

 ロボット技術が発達した未来、ロボット兵器の暴走によって壊滅的な被害を受けた世界はシティと呼ばれる都市国家とそれをまとめる連邦政府が設立された。連邦歴116年、プレストシティに住む少女「玲子」は眠れぬ夜を過ごしていた。

登場人物

 敷島玲子しきしまれいこ プレストシティに住む16歳の少女。両親と妹をテロにより亡くしている。

 ロビー ダグラス社が作った高性能ロボット。軍事用で高い戦闘能力を有するが、今は玲子の家で家事を担っている。

「大丈夫ですか?」

 薄暗い寝室の中で、玲子れいこは影のような声の主を見た。家事手伝いの人型ロボット「ロビー」である。玲子が体を起こそうとすると、ロビーは玲子の背を支えて起こしてくれた。

「ありがとう、ロビー」と、玲子は答えると、息を深く吸った。まだ胸がドキドキする。気がつくと、ひんやりとしたロビーの手が、玲子の手に添えられていた。

「少し部屋を明るくしましょうか?」

「ええ、お願い」と玲子はロビーに頼んだ。いまは暗がりが怖い。ロビーは遠隔操作で照明を明るくする。玲子の目に、はっきりとロビーの顔が見えるようになった。ロビーの顔は硬質プラスチックで覆われ、人の眼に当たる場所にはセンサーを納めたレンズが埋め込まれている。鼻と口も人の顔の形がおおまかに再現されているが、声は顔に埋め込まれたスピーカーから発せられるので、口が動くことはない。それでも頭を微妙に動かすため、人間らしさを感じさせた。

「うなされていましたが・・・・・」

「いえ、大丈夫。平気よ・・・」と玲子が答えた。

「私でよければ、朝まで、おそばにいましょう。それとも上原博士を呼びますか?」

 玲子は4年前に家族を失ってから、母方の伯父である敷島一郎に引き取られ、敷島の仕事の同僚である上原真奈美まなみが母親代わりになってくれている。玲子は遠慮がちに言った。

「おばさんは呼ばないでね、仕事があるもの・・・」

 伯父の一郎は出張で、不在だった。

「では、私がおそばにいます」とロビーが言った。引き取られた頃は、ロビーに付き添われて眠ることが多かったが、今では付き添われことが恥ずかしい。ロボットなので性別は無いのだが、声が男性なので、ロビーを男としてみてしまうからだ。

「私は、もう16歳なのよ、ロビーに付き添われて寝るなんて、ちょっと・・・」

 だが、頑としてロビーは動かない。

「いえ、ここにいます。私は眠る必要はありません。それに・・・ お嬢様の声に極度の緊張が感じられますし、脈拍の乱れも確認できます」

 ロビーの鋭敏なセンサーは、玲子の変調を見逃さなかった。玲子は初めて、ロビーが自分の手首に触れていることに気がついた。

「こういうときは、年齢は関係有りません。さあ、横になってください」

 玲子はロビーの言うことを聞いてベッドの上に横になった。ロビーは玲子をいたわるように、そっと布団をかける。そして、枕元にいすを引き寄せると、玲子のベッドの傍らに座った。目を閉じた玲子に聞こえるのは、自分の息づかいと、窓の外の音だけ。身じろぎもしないロビーは、音も出さない。だが、玲子にはロビーの存在が感じられた。

 4年前からロビーは玲子のそばにいてくれている。玲子が手を差し出すと、ロビーは黙って玲子の手を握ってくれる。ぬくもりのないひんやりとした手だったが、玲子にはうれしかった。昔とちっともかわらない・・・・

 だが、玲子の頭の中から、妹の弱々しい泣き声がずっと離れない。

「さっき、由美子がひとりぼっちで泣いてたの。私、そばに行こうとしたんだけど、体が動かなくて・・・・」

 由美子は玲子の妹で、すでにこの世にいない。

「夢を見ていたのですね。ですが、由美子お嬢様がひとりぼっちのはずがありません。ご両親と一緒におられるはずです」

 それを聞いて、玲子はロビーのほうが心配になった。死んだ人間のことを情緒的に考えるのは、理論的なロボットらしくない。今の玲子にはロビーを気遣うことができた。

「ロビー、無理してない?」

「今のは上原博士が言われていることです。私も、博士と同じ意見です」

 よどむことのないロビーの答えに、玲子はとりあえず安心した。ロビーに不安や迷いがないことがわかったからである。同時にロビーの気遣いをうれしく思った。

「ありがとう、ロビー」

 玲子はロビーを相手にずっと話し続ける。まるで、眠ることを拒むように・・・ ロビーはそっと玲子の髪を撫でる。それは、昔、上原が玲子の髪を撫でているのをみて覚えたものだ。なぜか、こうすると玲子が落ち着くことを、経験で学んでいたのだ。しかし、その動きはかなりぎこちない。玲子は少し可笑しく思った。

「私の頭を撫でるなんて、ロビーは私を子供扱いしてるの?」

「上原博士から、なでることが愛おしいという気持ちを表すのだと聞きました。お嬢様がおいやなら、やめますが・・・」と、ロビーはまじめに答える。

 ロビーには女性の体に触れることは好ましくないとプログラムされていたので、その迷いが動きをぎこちなくさせていたのだ。玲子はロビーを笑ったことを反省した。

「笑ってごめんなさい。いやじゃないわ。だって、私はロビーのことが好きだもの。でも、同じことを、他の女の人にはしないでね」

「お嬢様以外にというと?」

「おばさんとか」

「上原博士に、こんなことはできません」

 冗談なのかどうなのかはわからないが、きまじめなロビーの答え方に玲子の頬がゆるむ。少しからかいすぎたかも・・・・ 

 気が紛れたのか、まもなく玲子は眠りに落ちた。ロビーは玲子の睡眠が安定したのを確認すると、手をそっと離し、寝室を出た。既にあたりは明るくなり始め、鳥のさえずりが聞こえ始めている。

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