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うみねこの鳴く運河の街から 8

「……了解です」


 返事をしながら、表紙をめくってすぐのところに載っているあいさつ文を確認する。


『出来る人であるための秘訣は何もありません。ただただ、誠心誠意の四字ばかりです──これを見て、アレッ、何かどこかで聞いたことがあるナァ…と思った人。ツウですね。実はこれ、勝海舟の受け売りです。勝はこれを「政治の秘訣」として語りましたが、──』


「……これは違うよね。除外して、次は──」


 あいさつ文の本文は、内容こそ違えど、ほとんどが同じ構成だった。この感じだと、最初の一文だけを見て行けば良さそうだ。


『人の心に残る仕事をする一つの方法を、皆さんに伝授します。それは、真剣に取り組むことです。言葉だけで見ると、いかにも簡単ダナァと。皆さんそう思いますよね。しかし──』


 違う。


『実践で得られる学びには、想像で得られない価値があります──』


 違う。


 そうして探しているうち、一九七一年の四月号に、私はその一文を見つけた。


『知らないことは恥ずかしいことではありません。しかし、その状態から脱しようと務めず、そのままで良いと満足する。それこそが恥ずかしいことなのです』


「佐倉、これ!」


 向こうを向いていた佐倉の背中を叩いて、紙面を二人で覗き込む。

 佐倉はそれを真剣な顔でじっと目を凝らして確認し、頷いた。


「見つかったな。一九七一年の四月号──この号を含め、前後にあいさつ文を作っていた人物が、ほぼ間違いなく本の持ちぬしだろう」


 一緒にうんうん頷く。


「というか、最初に見て違うと思ったあいさつ文も、もしかして同じ人の代筆なのかな。似てる気がする」

「文頭に偉人の名言のオマージュを置いて、その解説。よくある構成な気がするが、それが癖だったのかもしれないな」


 そう言ってから、佐倉は私を見下ろし、右の手の平を挙げた。

 私はそこに遠慮なく、自分の手のひらを叩き合わせる。勝利のハイタッチだ。

 次にやることは決まっている。

 私と佐倉は世田谷を撤収すべく、二人で片付けを開始した。


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