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逢魔時パーキングエリア  作者: 鷹鷺狸夜
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病み憑き自販機

 いつものように起床し、いつものように会社へ向かう途中。

 家から歩いて少しの場所に、新しく自動販売機が設置されていることに気が付いた。

 普段なら景色が変わったのか程度の認識をして通り過ぎるが、私はまるで見たことがない飲料ばかりの自販機に目を奪われた。

 左から右まで全ての商品に目を通したが、それらのパッケージは本当に一切見覚えがない。

 これだけインターネットやSNSが普及し、マーケティング方法も多岐に渡る世の中でこんなことが有り得るのだろうか?

 サイダーやフルーツミックスといったシンプル過ぎる名称、これだと商品名から辿ることは難しいだろう。個人や直営の可能性を考え企業ロゴを探してみたが、自販機は赤と青のボーダー柄に装飾されているのみで、企業ロゴはおろか商品紹介や広告等も見当たらない。

 全く宣伝をせず、誰のレビューも受けたことがない商品ばかりが並ぶ自販機。

 なるほど、面白いじゃないか。

 興味を惹かれた私は、試しに青色の缶に泡の模様が描かれたサイダーを購入しようと試みる。

 ここでもう1つ、驚くべきことに気が付いた。

 値段だ。

 近頃の自販機はほとんど近しい値段のため見落としていたが、1本あたり50円という破格の値段設定。

 さすがに、これは少し怪しいか?

 いやしかし、設置されたばかりで賞味期限が切れているとも思えないし、妙な味がするようならすぐに吐き出せばいい。

 小銭を投入しサイダーを購入した私はプルトップに手をかけ、爽快な音と共に口元へ運ぶ。


 ……うん、美味い。


 いや。美味すぎる!

 値段やパッケージから味についての及第点は大幅に下がっていたのだが、そんな予想を遥かに超越している。

 のどごしを与えるのに絶妙な炭酸含有量、キレのある匂い、甘過ぎない後味。

 人生で1番美味い飲み物は酒だと信じて疑ったことがなかったが、今この瞬間にそれが書き換わった。

 これは嬉し過ぎる発見だ、憂鬱な通勤経路にこんな至高が生まれるとは。

 こうなるともちろんサイダーだけでなく、色々と試してみたくなる。次にオレンジジュースを試したが、これもまた最高だ。

 次いでスポーツドリンク、乳酸菌飲料。

 美味い。あまり得意でなかったスポーツドリンクまでもが絶品だ。

 7本目のエナジードリンクを飲み干したあたりで、周囲に人だかりが出来ていることに気付く。

 ……なんだ? まさか皆この自販機目当てで集まってきたのか?


「近寄るな! 近寄るんじゃない!」


 私は周囲の盗人共を睨み付け、大声で威嚇する。

 当然だろう。この自販機は私が最初に見つけたんだ。


「げぼっ! ゲェェ!」


 大声を出したと同時に、胃の中身をアスファルトへ吐き出してしまった。

 くそ、なんてことを! 勿体ない!

 舌で掬うようにぴちゃぴちゃと地面に拡がるジュースを舐め、新しく購入した缶ジュースに手をかける。


「ちょ、ちょっとあんた! そんなもの飲んだら死んじまうぞ!」


 盗人の1人が指さした手元に目をやると、そこには赤黒く腐食した缶があり、飲み口のあたりに複数の黒いなにかが蠢いているのが確認出来た。

 さて、これは一体どんな味がするのだろうか。

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