第三話
おっさんと女子高生のラブコメになる予定です。
ラブコメが何なのか、よくわかってないまま書いていってます。
よろしくお願いします。
夏休み中盤。
予定されていた補講期間も終わり、俺はたった一人の補講該当者との補講を終え、冷房の効いた職員室でダラダラしながら書類作成をしている。
はずだったのだが補講は終わっていなかった。
ていうか、まだ一度も補講できてない。
ヤバいって。
こんなんバレたら学年主任に怒られちゃうって。
ここ最近、学年主任に挨拶しても何か反応悪いけど、すでにバレてたりする?
いよいよ学年主任に嫌われてしまったかもしれない俺は、朝九時から汗だくになりながら校舎裏の花壇にあるベンチに座り女子生徒を待っていた。
別に告白イベントとかそういうのではない。
頑なに補講を受けようとしない女子生徒が、補講を受ける条件をなぜか提示してきたのだが、それがこの場所に関係しているのだ。
そんな生徒、留年させちゃえば?って思われるかもしれないが、そんなわけにもいかない。
自分の担任クラスから留年生を出せば間違いなく俺の評価は下がるだろう。
学年主任どころか教頭や校長、モンスターペアレンツから責められたりしたら泣くぞ俺は。
「先生。おはようございまーす」
「やっと来たか‥‥、大遅刻だぞ」
「まぁまぁ。今日も学校の七不思議探し、がんばりましょうね」
アイス片手に一〇時三〇分に登校して来やがった女子生徒が、隣に座りながら小さくガッツポーズを作る。
彼女が提示した補講を受ける条件とは、学校の七不思議探し。
補講が必要になるまで授業をサボり続けていたのも、それを一人で行っていたせいらしい。
「二足歩行するおっさんみたいな猫、だっけ?どんな七不思議だよ」
「そのままですよ」
「夏休み半分使って探してるけど手がかりとか何もないしなぁ。ていうか炎天下の中、花壇を眺めてるだけだし」
「でも私がおじさんを見かけたのもココなんですもん」
春に二足歩行するおっさんみたいな猫と出会った彼女は、どうしてももう一度会いたいらしい。
どうやら「学校の七不思議に関する自由研究」といったところらしい。
「一人でやってくんねーかなぁ」
「声に出てますよ」
「声に出したからね」
「あーあ、パパとママに言いつけちゃおうかな」
「モンスターペアレンツを盾にするなや」
「生徒の両親をモンペ呼ばわりは教師としてどうかと。問題発言ですよ」
「どうせモンッ、やめておこう。いい加減、諦めて補講やろうや!留年になっちゃうよマジで!」
どうせモンペだろ!と言いそうになったが耐えた。
こちらが補講の話をすると耳が遠くなるらしい彼女は、花壇を見つめながらアイスの残りを食べ始めた。
一時間半、この花壇で待たせた詫びに担任にアイスを買ってくる、なんて気遣いもないらしい。
学生時代「そんなんじゃ社会に出てから通用しないぞ!」と怒っていた教師に対し、うるせーなぁ、と思っていたが、あの教師もこんな気持ちだったんだろうか。
‥‥ここまで酷くなかったろ。
俺がやった悪いことなんて、せいぜいが授業中の居眠りや、隠れて漫画読んでたとかだぞ。
来る日も来る日も汗だくになって花壇を眺めることに付き合わされている。
最近になって「これ、教師いじめか?」と思うようにもなってきた。
どうせクラスLINEみたいなので、今日は担任を何時間拘束してやったぜ、みたいな報告をしているのだろう。
これだから子どもは嫌いなんだ。
自分さえ楽しければ他の人間にどれだけ迷惑をかけてもいいと思っている悪魔どもめ。
社会に出てから引くくらい苦労してくれ!頼む!
「先生って、子ども手当てだ何だってニュースを見ると文句とか言ってそうなタイプですよね」
「言ってるよ。どうして?」
「食い気味でしたね‥‥、さっきから碌でもないことボヤいてるじゃないですか」
全部声に出てたのか。
これは流石にヤバい、それこそ親にチクられたら問題になる。
うーん、もういいか、問題になっても。
補講もさせてくれず、ただ長時間拘束し、クラスLINEで悪口を書かれる。
教師とはいえ俺だって人間だぞ、腹立つわ。
ストレスが閾値を超えると、突然いろんなことがどうでもよくなるのは大人あるあるだ。
「少子化対策で子どもががいる家庭にだけ金を配るのが気に食わないよね。俺にもくれよ」
「強欲ですね」
「これは大人の総意だよ。てか少子化対策で子どもがいる家庭にだけ金を配るのって頭悪いだろ」
「というと?」
「結婚して子どもを一人でも作れてる時点で、計画性がないバカップルでもない限りそこそこの収入がある夫婦なわけだよ。金がなくて結婚できない・子どもが作れない人間にこそ金を配って子作りしてもらわにゃならんだろう。給料上げてくれ」
「何かそれっぽいこと言ってますけど、子育て世帯だけ優遇されるのはズルいってことですよね?」
「その通り!」
こんなこと生徒に言うべきではないがスラスラと言葉が出る。
クラスLINEでも、親でも、好きなだけ俺のことを言えばいいさ。
もう知らんぞ、俺は帰宅次第、辞表を書くからな。
「『子どもがいないと損するなぁ』って状況にならないと、結婚してても子作りは後回しになりそうだし。そもそも収入面に本人が納得してないと結婚もしづらい。悩ましい問題ですね」
知り合いと呑んでて愚痴ってるときの回答みたいなの来た。
それと同時に、嫌がる反応もなく会話を続けられた俺は少し恥ずかしくなる。
「はぁ、大人だね君は」
「大人って。私は先生みたいな面倒なこと考えたことないですけど」
「大人ってそういう意味じゃなくて‥‥。まぁ低賃金で働かされてる大人はずーっとこんなこと考えてるかな」
「夢がないなぁ。それに全然楽しそうじゃないし」
「別に楽しくはないからね」
「でもパパやママは、大人って楽しいことがたくさんあるって言ってますよ?」
「そりゃパパとママは君がいる時点でリア充なんだろうし。辛い話ばかり聞かせても‥‥、これは君の家の教育方針によるだろうから黙るね。とにかく今のうちに青春を全力で楽しんでおくんだな」
「わかりました!それなら七不思議探し、協力してくれますよね!」
「しまった。墓穴だったなぁ」
アイスのゴミを片付けながら「これも青春ですよ」と言う女子生徒。
夏の間、彼女と色々と話をしたが口で勝てた試しがない。
ふいに当たり前のことだが女子だなぁ、と思った。
いや、変な意味ではなく女子って口喧嘩強いから、そういう意味だ。
「おいおい兄ちゃん。ここ最近のアンタとお嬢ちゃんの会話は聞かせてもらってたけどちょっと酷いんじゃないか?」
ベンチから数歩のところにある倉庫の脇に人影が見えた。
花壇を眺めていれば視界に入る位置のため、その人物は突然現れたように思う。
「おじさん!」
そう言って走る女子生徒を見送り、俺はゆっくりと腰を上げる。
まさか本当に学校の七不思議なんてものが存在したのか、などと考えていた俺は思わず叫んだ。
「へ、変態だぁー!」
彼女が向かう先。
女子生徒に対し「久しぶりだな」と声をかけるその人物は。
真っ白なブリーフを履いた、裸の太った、妙に脂ぎった変態だった。
次の四話目で完結予定ですが、ちゃんとラブコメになります。
まだラブコメが何なのか、よくわかってないですけど。
--
お手すきでしたら【評価】と【ブックマーク】の方、どうかお願いします。
評価は下部の星マークで行えます! ※例)☆☆☆☆☆→★★★☆☆