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第2話【汝、知る事なかれ】

 その日の休み時間もマコトは一人で黙々と食事を食べていた。栄養面だけを考えられた合成加工食品は味はお世辞にも上手いとは言えなかった。

 たまには母親の作る国内養殖クローンのカタキラウのラーメンが恋しくも感じる。

 お察しの通り、授業は完全個室。他の生徒とはネット越しの学校内のネットワークでしか知りはしないし、個々の自由時間も監視カメラや音声記録に記録され、自由な時間と言うのはほとんどない。

 それでも慣れと言うのはあるもので規制されて当たり前と言う認識と文化が芽吹いてしまった。


 そんな普段と少し違うのは報道部が送るニュースであった。

 ネット内でAI管理の元、規制のある世界だが、ある程度の部活の類いになるとそれに関するネットの公開が許される。

 と言っても校内の情報や近辺のニュースの類いばかりで然程、面白みを感じるものはない。また、その情報も本当にあるのかはマコトにとって眉唾ものであり、これと言った関心がある訳でもない。

 しかし、今回のテーマは思いの外、興味をそそられた。


「へえ。イバラギニュータウンで事件ねえ。母さん、大丈夫かな?」


 単なる独り言なのだが、AIの音声記録は見逃さない。マコトの音声を元にAIが独自に適切な情報を選び、母親の安否確認の為の通話許可をするメッセージが送られる。

 AIは監視や規制を含む制限にかなり特化しているが、それ以上に科学紀元のもたらした恩恵は脳内バイタルと音声認識機能で適切な情報をもたらすと言うものであった。

 あくまでも特定水準の情報であり、学生には公になっていない事である。

 また、家族からもたらされる会話の記録も学校内のクラウドに保存される為、下手な事が言えないのが現状である。


「マコトくんのお母さんにメッセージを送ったよ。お母さんのバイタルは2.34%低下しているけれども健康面には問題ないよ」

「ありがとうございます、先生」


 余計な事はして欲しくはないものだが、こう言った点はAIは優秀だ。ある意味で人間よりも意思疎通が簡単なのかも知れない。

 マコトがAI教師は礼を言うとAI教師のアバターは「どう致しまして」と言って再び思考が現実に戻る。科学紀元の人間の現実は電脳世界に直結されている。

 科学紀元の凄まじいところは共有バイパスの為の接続機構に移植が必要がない事である。

 つまり、人間は互換機や必要な肉体改造などを用いずに必要な時に電脳世界を用いる事が可能なのである。

 これを発明したとされるドン・サチュラメン・アナスタシア(偽名らしく本名は不詳)はあまりにも偉大な発明をしただろう。

 一体、どのような事をすれば、生身を電脳世界に直結させる発明を閃くのであろうか・・・。


 その辺りの事情についての内容は閲覧禁止区分であり、世界的な機密扱いと噂され、全く情報が出て来ない。その手の話など便利さを追い求めた人間達にとってはどうでも良い事である。

 そんな事よりもマコトにとって気になったのは事件概要である。


 イバラギニュータウンの事件の様子は監視映像に記録されたものであったが、“警備隊が研究所の男性をモンスターから救出するシーン”は衝撃的であった。

 “モンスターについては詳しい内容は秘匿されている為、詳しい事は解らない”が警備隊が負傷した男性を救出するワンシーンはドラマか何かのシーンかの如く、電脳内のニュースで勇敢な行動だと褒め称えられていた。

 自分もこんな人間になれたのなら、刺激的な生活を送れていただろう。


 そんな事を考えながら“過去のデータにあるクトゥルー神話をモチーフにしたようなモンスターと果敢に挑む警備隊は凄まじい映像”をマコトは何気なく、鑑賞するのであった。


 警備隊の一人がモンスターを爆破するシーンはまさに映画のようなワンシーンである。

 管理AIの規制判断の為か、モンスターの残骸は映像に映されず、モザイク処理がされていたが、その非日常的なモンスター退治はまさにフィクションであった。


(俺もこんな風にモンスターを操る悪の組織と戦えたらなあ)


 そんな事を思いながらマコトは食事を済ませ、再び退屈な授業の準備を開始する。


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