第1話【ウキヨ・マコト】
マコトは欠伸を一つするとベッドから起き上がり、軽く洗顔を済ませてから制服に着替える。欲を言えば、まだ眠ていたいのだが、学校の授業をサボる訳にはいかない。
交流が少ないとは言え、学校は社交の場だ。繋がりを持っている事は後々、自身のプラスになるであろう──と何かの本で読んだ事がある程度だが、マコトはそれを少なからず、信じている。
そもそも、都会の学校に入学させてもらっただけでなく、一人暮らしや仕送りまで面倒を見てくれる母親に申し訳ないので、マコトはいまも学校に通っている。
無論、最初は夢に溢れた高校生ライフを期待していたのだが、蓋を開けてみれば、悲しい現実の高校生ライフに涙が出そうになるのであった。
ネットのライトノベルにあるような青春も異性とのラブコメ展開もない。本当に自分が青春真っ盛りの高校生なのかと疑問に思ってしまう程にマコトを取り巻く世界はあまりにも悲しくて自分は人生のモブなのかとさえ、意識してしまった。
これがウキヨ・マコトの人生である。至って平凡で個性も何もない生活。多少の刺激くらいあってもバチは当たらないだろうと思いつつも彼は本分である学業に励む。
成績は至って平凡。なんらかの才能がある訳でもない。
「あー。なんか、面白い事でも起きんかね?」
そんな事をぼやいては見たものの現実とは非情である。こんな事をぼやけば、なんらかの変化があるかも知れないとは思うのだが、科学に盲信しきった科学紀元25年の世界には何もないらしい。機械仕掛けの神様もへったくれもない。
こうして、ウキヨ・マコトは何事もなく学校へと始業前に到着し、他の同級生と共に授業を受ける準備をはじめる。
そして、退屈でなんの変哲もない授業がなんの変哲もなく、繰り返される。
「人類は科学により発展し、宇宙起源も科学的証明の元に解明されました。科学で解明出来ないものが失われた事により科学紀元と呼ばれる時代がはじまります」
AI教師が簡単に前回の歴史の授業をまとめつつ、マコトは眠いのを堪える。
科学紀元の授業など今更、面白くもないだろう。しかし、単位の為にはキチンと授業を受ける必要がある。これは科学紀元以前の風習となんら変わりない。
強いて言えば、授業のAI教師のアバターは生徒一人一人によって異なり、自分の気分で変更出来るのがウリであろうか。マコトのAI教師のアバターも彼の好みに合わせて可愛いモデルのアバターに変更されている。ある意味で役得と言えば、役得だろう。
このアバターの変更は私立のみの特権であるらしく、都立になると劣化版の人工音声とカクカクと動く最低限のアバターだとの噂である。
実際、私立のアバターをネット公開したとある学生により私立志望の学生の普及率が高まったとの話も聞く。
実際はどこまでが本当の話なのかは定かではない。学生の閲覧履歴は随時、スクールクラウドに保管され、社会情勢も含むネットワーク制限は成人して就職しない限り、閲覧をする事が制限されているのであった。
要は学生は学生らしく、本分を全うしろと言うのが大人達の勝手な都合らしい。
無論、適度なガス抜きも必要であるが、そう言った内容関連の情報はAIによるネット管理の元、親や学校に知らされると言う現実があり、マコトにも過去にそう言った内容に触れようとした機会があり、情報拡散の早さに涙に枕を濡らした事もある。
もっとも、そういった類いの弄られるような内容も学校のAIが独自に判断し、内容をキチンとミュートしたり、イジメの記録として内容をクラウドに記録にするので生徒同士の管理や制限もされている。
逆に言えば、交流の類いも常時記録されているので生徒は下手な会話すら出来ないのが現状である。
ある意味、人間はAIによって本当の意味で規制されていると言っても過言ではない。
過去にどんな経緯でそのようなAIが産まれたのかは定かではないが、色々と縛られた退屈な日々の原因の一つである事には違いないだろうとマコトは思うのであった。
こうして、退屈な日常の退屈な授業が今日も一日終わろうとしていた。