授業②
前回、この作品初の評価を頂けました。嬉しい。
授業編も色々捏ね繰り回して山場の下準備を整えていきたいところです。
色々書きたいので授業編はながくなってしまいそうです
「こんにちは皆さん。わたくしは、レーガン・スミスと申します。まず最初に、まさかとは思いますが、教材を忘れた者がいるのなら、今のうちに手を挙げなさい………よろしい」
魔法基礎学の教室とは異なり階段上ではない教室。少し薄暗い。
ガウンで覆いきれないほど恰幅の良いマダム・スミスは、魔法基礎学の先生とは反対にゆっくりとした話し方だった。
「最初に言っておきますが、製薬は、魔女の伝統的な仕事の一つです。故に、この薬学のクラスは、多くの単位が出ます。決して、怠ることの、ないように」
そう言うとマダム・スミスはチョークを持ち黒板に向かう。
「最初は、簡単な風邪薬の作り方から、学びましょう。風邪薬の効能として、理想的な効能は何か。分かる者は?」
すっとエミリーとソフィアが手を挙げる。
ちなみに、私は手を挙げなかった。
ですが、決して分からなかった訳ではありません。
……決して。
「では、エミリー・カサンドラ」
「はい」
ソフィアは手を下ろし、エミリーは立ち上がる。
「風邪薬は一般的な薬です。多くの方々が使えるように、効能が強い薬より弱い薬であるべきですわ」
「素晴らしいです、エミリー・カサンドラ。しっかり、勉強してきたのですね」
誇らしげに座るエミリー。
「本日は、二人一組で、この薬を、作っていきます。簡単な薬ですが、油断することの、ないように」
そう言ったマダム・スミスが細長い杖を撓らせながら振るうと、三種類の薬草が宙を飛んで配られる。
「『薬学に関する教本Ⅰ』の、第四頁を参考にし、終業時刻までには、完成させてください」
マダム・スミスの授業はまともらしい。
◆
薬学には純粋薬学と魔法薬学の二種類がある。
草や動物などを使って薬物を作ることを純粋薬学、そこに白魔法を加えると魔法薬学になる。
今回の課題は純粋薬学に分類される。
ただ用法通りに煮て、焼いて、混ぜるだけの簡単な調合だ。ほとんど料理に近い。
当然のごとく簡単で、まあまず失敗のしようはない。
例えばエミリーは、取り巻きの一人と圧倒的一番で完成させていた。
「素晴らしい、エミリー・カサンドラ。知識もあり、技術もある。貴女は、良き魔女になるでしょう」
と、早速マダム・スミスのお気に入りになっていた。
一方ソフィアは、
「これは………素晴らしい出来です。大人の魔女顔負けの、技術でしょう。一番に完成させた、エミリー・カサンドラのペアと、同等の評価をしなければなりません」
と、マダム・スミスを唸らせていた。
ペアの淡い青髪の子に抱きつかれている。多分、ソフィアの先導で仕上げたのだろう。
そして、私とクラウのペアは……
「ロウェル・シモンズ! クラウ・ルーズヴェルト! 何故、葛と棗と芍薬を調合して、爆発が起きるのです!」
「私が聞きたいくらいです、マダム・スミス」
鍋を爆発させていた。
しかし、良く考えて欲しい。
薬学の教授でもあるマダム・スミスでも何故爆破したか分からないなら、それは逆に凄いのではなかろうか。
もしかしたら世紀の発明かもしれない。
その点も踏まえて評価して欲しい。
「ロウェル・シモンズ、クラウ・ルーズヴェルト、補習です。放課後、もう一度この教室に、来なさい」
世知辛かった。
◆
その後、魔法史学――半刻ひたすら書き取り――と算術――半刻ひたすら演習――を終えて、昼休憩の時間になった。
「まったく、災難です」
私はくず野菜のスープを口に運びながら、仏頂面で呟いた。
「悪かったって…」
「あはは…」
それにクラウが困ったように笑い、ソフィアが渇いた笑いをする。
「でも、ロウェルさんって優秀なイメージだったから、意外だなって思ってたんです。それが……」
「ごめんね、優秀なイメージじゃなくて」
「いえ、そういう訳では…」
そう、薬学の授業で私が失敗したのは、クラウの大雑把な性格が災いしてのことだった。
大雑把といっても、彼女のそれは程度が酷い。
分量が三倍は異なったり、火力が十倍くらい強かったり、ゆっくり掻き混ぜるはずが生クリームを作るのかと言わんばかりに混ぜ始めたり……。
それはもう、本当に酷かった。
「次からはソフィアと組むことにします」
「そんなこと言わないでよ、ロウェルー。友達でしょー」
「いえ、ソフィアも友人ですし。普通により優秀な友人と組みますよ?」
「友達ってそういうものではなくない?」
そうなのでしょうか?
「そ、それよりも!!!」
ソフィアが唐突に大きな声を出た。
本人も思ったより大きい声が出て驚いたのか、頬を染めている。
……正直、ビックリして鼻からスープを出すところでした。
「…コホン。それよりも、ロウェルさんって算術がお得意だったんですね。とても速くて正確で、驚きました」
「黒魔は計算力が必要なものもありますからね。どちらにせよ、エミリーには一度も勝てませんでしたが」
「あれは速かったよね。悔しいけど、さすがはお嬢様だわ」
そんな話をしながらスープを平らげ、トレーを持って席を立つ。
趣味の良いシャンデリアが吊られた食堂を歩きながら、午後の予定を思い返していた。
「午後は…」
「白魔法の授業ですよ」
「ああ、白魔でしたか………正直、あまり好きでは無いんですよね」
何の気なしに言った言葉だったが、後にしてみれば言わなければ良かったと思う。
一つ学べたことは、世界から争いが消えることは決して無い、ということだった。
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