授業①
随分掛かりましたがやっと授業編にこぎつけました。
学生時代が懐かしくなります。
ロウェルへ
ロウェル、家族への手紙なのだからあそこまで畏まる必要はないわ。
そして改めて入学おめでとう。
それから友達が二人も出来たのね。驚いたわ。
貴女は少し特殊だから周りとの感覚の違いに驚くこともあるでしょう。でも安心して、貴女の友人が必ず味方になってくれるから。
といっても、貴女にはまだむずかしいかしら。
それと父さんも貴女に送りたい言葉が沢山あるようだわ。でも、全部書いていたら世界中の木を切り倒しても足らなそうだから、私が要約して書くわ。
頑張れ、愛しのロウェル。
シャーロット、ノア
◆
魔法基礎学の教室は比較的ベーシックな見た目だった。
階段状に床に並んだ長机と椅子。正面には黒板と教壇がある。黒板には好きな席に着席するようにと指示が書いてあった。
「思ったよりは普通だね」
「普通とは?」
「教室のことだよ」
「そうですか、私は学校に行ったことがないので分かりませんでした。ソフィアは?」
「私も教会で勉学を学んだので、学校の教室というものは初めてです」
「そっか」
長机は三人掛け。
そうなると、大抵の机はルームメイト同士で固まってしまう。
私達もその例に漏れず右からクラウ、ソフィア、私の順番に座っていた。
「それにしても驚いたよね、寮が空にあるなんて」
「はい…しかも中庭から行けるなんて…。あんなことって可能なんですか?」
「可能不可能の話なら可能です。寮に重力に作用する自立黒魔を、扉に空間に作用する自立黒魔を掛ければ理論上は不可能ではありません」
「さすがは趣味が黒魔と言うだけあるね、ロウェル」
「でも気になる言い方でしたね。"可能"ではなくて"不可能ではない"って…」
ソフィアはさすが小説を読むのが趣味なだけありますね。
「今の理論には色々問題がありますが、一番は……」
私が得意気に話し始めた瞬間だった。
私の横にミス・カサンドラが立つ。鮮烈な赤髪を今日はポニーテールにして、私を見下ろしていた。
「………どうしました、ミス・カサンドラ」
「エミリーで結構ですわ、ロウェルさん」
「そうですか。ならそちらもシモンズで結構ですよ」
「……」
「……」
…少し刺々しかったかもしれませんね。
入学以来何かと目立つ彼女は目を引き、教室中の生徒がこちらを見ている。
私は早く終わらせたくて口を開いた。
「それでどうしたのです?」
エミリーは視線をクラウに一度向け、こちらに戻す。
「ロ…シモンズさん、単刀直入に言いますわ。そこのルーズヴェルトの娘と別れ、私達と座りましょう」
「いえ、結構です」
まあ、そんなことだろうとは思ってました。
私は用意していた言葉を返す。
そんな鰾膠もない私の返答に、エミリーは面食らっていた。
「なっ……何故ですの!?」
「何故って…座席は自由と書いてあるでしょう。友人と座って何が悪いのです」
「友人…? 貴女、そこのルーズヴェルトの父親が我が国に何をしたのか知りませんの!?」
「知っていますよ。貴女こそクラウがどんな人か知ってますか? アーサー・ルーズヴェルトではなく」
「なっ……」
「……」
「……」
「そろそろ先生が来る時間です。お戻りになられては?」
「………くっ…覚えてなさい、シモンズさん」
「分かりました覚えておきます」
そう言うと彼女は取り巻き達の元へ帰っていった。
「ロウェルって意外とはっきりモノを言うよね」
「もう少し優しく言っても良かったのではないでしょうか?」
「おや…」
まさかの不評
「でも、ありがと」
…でも、ないらしい。
◆
「席に…は、着いていますね。では授業を始めます」
始業の鐘が鳴ると同時にその先生は入ってきた。渋い声で始業を告げながら持ってきた教材を教卓に置く。
短い金髪と片眼鏡が特徴的な男性教授だった。
「ではまず魔法基礎学の基礎から……カサンドラ君、何か?」
「先生の名前を教えていただいておりませんわ」
「魔法基礎学には必要ない知識です。僕は魔法基礎学以外は教えません」
という風に授業は始まった。
波乱の幕開けだった。
「魔法は大きく二種類に大別されます。カサンドラ君、分かりますか?」
「勿論ですわ。黒魔法と白魔法です」
「結構。では黒魔法と白魔法がどのように区別されているか…シモンズ君、分かりますか?」
「はい。主に物理現象に干渉するのが黒魔、生物に干渉するのが白魔です」
「結構。では次に…」
そんな具合に授業は進む。
「何か、授業スピード思ってたより早くない?」
「私もそう思います。このくらいの理論なら問題ありませんが…」
クラウとソフィアがそんな話をしていた。
実際先生の授業は早かった。必要なことだけを言う授業。
私も問題はない。簡単な内容だからだ。
「でも…」
クラウが振り返る。
「カサンドラはどうかな?」
「エミリーが?」
あくまでイメージだが彼女は優秀なイメージがあった。この程度のこと、理解できないとは思えないのだが…。
私も振り向いて、クラウの言っていることを理解した。
「おや、ほんとですね。髪と顔が区別出来ないほど真っ赤になってます」
「それは言い過ぎなんじゃ…」
言い過ぎではあるが彼女は実際真っ赤になっていた。
要は怒っているのだ。
何にかと問われれば、言うまでもないと答えるしかない。
「先生!」
そうこうしている間にエミリーは立ち上がった。机を叩きながら勢い良く。
「カサンドラ君、どうしました?」
「どうしたましたじゃありませんの! 何ですのその教本を読み上げるだけの授業は!」
「この教本は良く出来ているので何も問題ありません」
「問題しかありませんの! このような授業では教本を読んでいるのと何も変わりませんわ。先生の存在意義がありません!」
結構言いますね。
「魔法基礎学は魔法の根幹を為す授業、つまりこの学院において最も重要な授業の一つです。それをこのような適当に………許されることではありません!」
「許す許さないは僕の上司が決めることです。授業時間はあと僅か。カサンドラ君、席に着いてください」
「着きませんわ!」
時計を見ると、授業時間は本当にあと僅か。秒針が一周すれば終了だ。
これは授業後まで掛かりそうである。
「魔法基礎学は黒魔法の授業や白魔法の授業に密接に関わってきますの。もっと丁寧やっていただかないと困りますわ。せめて板書くらいはやってください」
「カサンドラ君、このクラスはあくまで確認のためにある授業です。この学院に入学できた君達は当たり前のように……」
その言葉を遮るように終業の鐘が鳴り響いた。時計の針と寸分違わぬタイミング。
その音を聞いた先生が教材を纏め、教壇を降りる。そして真っ直ぐに出入口へ向かった。
「どこへ行きますの、まだ話は終わってませんわ」
「カサンドラ君、僕は授業時間外は一切授業しないことにしています。どうしてもこの話を続けたいなら、次の時間にお願いします」
そう言って先生は扉の奥に消えていった。
「変わった先生…だったね」
「そうですね」
「あはは…」
三人揃って後ろを見る。
エミリーの怒声が時計塔の鐘の音より大きく響いた。
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