閑話:ウィステリア①
閑話に入りました
授業編はおしまい
閑話を挟んでぼちぼちストーリーを動かしていきたいと思います
ちょっと長引かせ過ぎた感はありますけど、個人的にはこんなものかと
「暇ですね…」
黒魔法の講義後、特に何事もなく放課後になり、何事もなく二人は補習に連行された。
ソフィアとクラウの二人しか友人がいない私は途端に独りぼっちになってしまう。
独りなだけではない。暇だ。
なんやかんやと忙しかったここ数日との激しいギャップに、より退屈を感じてしまう。
自室に戻って黒魔法の練習を、とも思ったが、以前のように一人で黙々と練習をやる気にはなれなかった。
「そうだ、エラを探しましょう」
そういえば、結局あの後ごたついてしまって、エラに友達になろうと言えなかった。
彼女は補習を命じられてないはずだ。何故なら入学以来補習を命じられたことがあるのは私達三人だけだから。
さて、そうと決まったならば、早速エラを探そうと辺りを見回す。
そして気が付いた。
「見られてます…よね?」
自意識過剰でなければ周りの皆から見られている。分かりやすく噂話までされているようだ。
正直、あまり気分の良いものでは無い。しかし声を上げて注意するのも恥ずかしい。
それでも、不快なものは不快だった。
「集団生活は…慣れないものです」
ぼやく私の言葉は勿論独り言だ。
しかし、不運にも私に話しかけようとしていた人に拾われてしまったらしい。気を抜ききっていた私の肩にポンと手が置かれる。
ビックリして背筋が跳ねた。
「うひゃっ」
「可愛い驚き方だね、ロウェル」
「貴女は…」
振り返った私の目に映ったのは、藤の花のような少女だった。藤色の長髪、切れ長の目、稟としながらもどこか嫋やかな気配の少女。
その顔に見覚えは……ある。
最近見た顔だ。
……
ああそうだ、確か三年の寮長の…
「………ミス・エヴァンズ」
「忘れていたときの反応だね」
「いえ別に」
「顔に出てるよ」
「……」
この悪癖は即刻直すべきだと思った。
「それで、集団生活がどうしたって?」
「聞いていたんですか」
「たまたまね。やけに疲れたような顔をしてたから気になっちゃったよ。ほら、一応先輩だから相談でもと思ってね」
どうやら純粋に心配されているだけらしい。
それならば別段隠すようなことでもない。私は正直に口を割った。
「今日はジロジロと見られているような気がするのです。あまつさえ陰口も言われているようで」
「ん? …ああ、なるほどね」
辺りを見回したミス・エヴァンズがひとつ首肯すると、何がおかしいのかくすりと柔らかく笑って教えてくれた。
「あれは別に面白がってる訳でも馬鹿にしてる訳でもないよ。ただ好奇心に満ち溢れてるだけ。女っていう生き物は好奇心の塊みたいなものだけど、魔女は特にそうだからね。噂話とか大好きなのさ」
「噂…?」
「そう、噂。黒魔の授業で咄嗟なのに鉄箱をピタリと静止させた一年生がいるって、生徒達はその話題で持ちきりだよ。天才黒魔女が現れたってね」
「ほお、天才…」
そうか、ならば仕方ない。
ちらちら見られるのも我慢しようではないか。コソコソ噂されるのも本当は嫌だけど、天才の税金だと思えば仕方ない。
怒りも税金も納めようではないか。
そんな私の反応を見て、ミス・エヴァンズが何やらぼそりと呟いた。
「相変わらず単純で可愛いなぁ」
小さすぎて聞き取れなかった。
私は聞き返す。
「何か?」
「いや何も。それより、暇なら私と放課後デートでもどう?」
「デート?」
色々疑問があるのだが、まずもってリリアーナ魔女学院に遊べる場所が無いという問題がある。
学院生達が放課後、普段何をしているのかは知らないが、遊んでいるということは無いだろう。
そういう意味の疑問だったが、幸い、ミス・エヴァンズには問題なく伝わったらしい。
そして、ミス・エヴァンズはまた嫋やかに微笑み、言う。
「リリアーナ魔女学院を嘗めてもらったら困るよ新入生。ショッピングくらいは出来るんだ」
◆
中庭を離れ、西の方向へ。
そのさらに西へ進み、古い木戸を開く。その先の階段を何段も下りると、そこは小さな街だった。
石造りの小さな商店が建ち並び、賑わってはないが活気立っている。ちらほら学院のガウンを着た生徒がいて、店には店員もいた。
良く晴れた青空の下、不自然なほど自然に商いが行われていた。
「これは…」
「学院生御用達の商街だよ。杖とか箒、ガウンや教科書、学院で必要なものなら何でもござれ。お菓子とかお茶の嗜好品も売ってる」
「こんなものが学院に…」
「凄いだろう? 人呼んで、ケッラの商街」
「誰がそう呼んだのですか?」
「誰だろうね。分からない」
「……」
「ちなみに、青空が見えるけど、あれは魔法で地面を透かしてるだけでここは地下だからね」
「…そうなんですか」
それはまた、なんとも素晴らしく甘美な響きだった。魔女のショッピング、心踊らない訳がない。
「しかし何を買いましょう?」
「ウィンドウショッピングして冷やかすって手もあるけど、初回でそれは良い印象を受けないだろうね。でも新入生のロウェルが必要な魔女道具なんて無いだろうし……まあじゃあ、お菓子とお茶だけ買って帰ろうか」
「はい」
返事をしてから気が付いた。
一応懐を探るが、まあ無い。買い物に必要な物が。必須なものが。
「ミス・エヴァンズ…申し訳ありませんがお財布を持ってきてなくて…ひとまず今日は帰りましょう」
「ん? いや良いよ、私が奢るから。先輩だしね」
「いえそんな…」
「その代わり」
なおも遠慮する私の言葉を遮って、ミス・エヴァンズは条件を提示した。
「帰ったら談話室でお茶に付き合ってよ。せっかくならロウェルに紅茶を淹れてもらおうかな」
ミス・エヴァンズはそう言いながら振り返り、パチリとウインクをきめた。やけに似合っている。
藤の花のように嫋やかな見た目で、とても男気のある先輩だ。
私は言葉も無く頷いた。
「じゃあ、楽しいデートといこうか」
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