閑話1:入浴①
閑話でお色気。
一応二話で済ませて再度授業編に突入する予定です。
リリアーナ魔女学院の天空寮には浴場がある。広くて趣味の良い浴場だと上級生が言っていた。
ちなみに、水の出所を聞いたら
「それは勿論、魔法だよ」
とのことである。
黒魔法万歳。
そんな訳で、食堂で夕食を済ませた私達は早速そのお風呂をご相伴に与っていた。
「その…なんだか落ち着かないですね」
「そうですか?」
「私は結構寛げるけどなぁ…」
ソフィアの溢した言葉に私とクラウは反対の意見を述べた。
浴場は広く、開放的だ。他にも利用している生徒がちらほらいるが、全く気にならないくらいには広かった。
熱めの湯から立ち上がった煙の向こうで、ソフィアがそわそわしている。
「私は、広すぎて落ち着かないと言いますか…」
「広い場所が苦手とか?」
「いえ、そんなことは…でも、ここまで開放的な場所で肌を晒すのはちょっと…」
そう言ってソフィアが視線を上げた。
私もその視線追うと、視界一杯に見事な星空が広がる。飲み込まれるような夜空に、宝石を散りばめたように美しい空が。
そう、この浴場には天井が無かった。
雲より高い位置にあるため、雨が降ることもなければ空が遮られることもない。
浴場には一切の証明器具が無く、月と星の薄い光のみが光源だった。
「高い位置から見る星空は格別だね」
「高いとか言わないでください…」
「おっとごめん」
「そういえば、ソフィアは高い場所が苦手でしたね」
「高いって思わなければ大丈夫なんですけど…」
ソフィアがそう言いながら私に寄ってきた。
また合体でもされるのかと思ったが、単に隣に腰かけたかっただけのようだ。
ソフィアの柔らかな肌が私の肩と触れ合う。
「どうしました?」
「いえその……近くに友達が居ると安心できるので」
「おっ、じゃあ私が反対側を埋めてあげよう」
クラウがそう言ってソフィアの隣に落ち着く。水面が小波立って、ソフィアと私を通りすぎていった。
図らずして、授業を受けるときの並びになってしまった。三人でこう並ぶと不思議な安心感が生まれる。
「何か授業みたいだなって思った」
「おやクラウ、気が合いますね」
「お二人もそう思ったんですか?」
「では、ソフィアも?」
「はい……白魔法の教室を思い出してました」
私は魔法基礎学の方だったが、どちらも同じ教室の同じ机の話だ。
「白魔法で思い出したけどさ、二人は白魔法の補習はだいぶ早く終わったみたいだね」
「そうですね。ホワイト先生が丁寧に指導してくださったので」
「クラウは何故分かったのですか?」
「いやさ…私実はスミス先生の補習が終わった後、寮への帰り道が分からなくなっちゃったんだよね」
「分かります。学院は広いですよね」
いや、中庭は校舎の中心だから迷う余地など無いのだが…まあ水を差すことでもない。
「それで図書室に迷い込んじゃって、本棚の迷路で迷子になってたらホワイト先生が現れて助けてくれたんだよ」
「それは良かったですね、クラウさん」
「ああ、そういえば何やら難しげな白魔法の本を読んでいましたね」
私が教室を訪れたとき、ミスター・ホワイトは何か本を読んでいた。
おそらくあれは図書室の物だったのだろう。
ミスター・ホワイトが言っていた『やらなくちゃならないこと』とは、本の返却だったということだ。
「中庭に送ってもらいながらちょっとだけ話したけど、ホワイト先生って優しくて良い人だよね」
「ソフィアなど真っ赤になって話してましたよ」
「あちゃー、ソフィアとイケメンにやられちゃったかぁ」
「ロウェルさん!」
「嘘は吐いてません」
「故意に誤解を招く表現をしていたではないですか!」
私の視線は湯を波立たせるソフィアを向き、そして必然その大きな塊に吸い寄せられる。
その瞬間、理性が溶けた。
私の視線の先では白くたわわな胸が波打つ水面と共に上下していた。
「…ロウェル? どうした?」
「いえ、胸って水に浮くんだなと思いまして」
「確かに、ソフィアって浮くくらいには大きいよね。私もちょっと羨ましい」
ソフィアは上気した頬を一層赤くしながら、湯と一緒に自分の胸を抱く。
「大きくても邪魔なだけですよ」
「ちょっ、ソフィア!」
ロウェルは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の乳を除かなければならぬと決意した。ロウェルには巨乳がわからぬ。ロウェルは、商家の娘である。庭の木の枝を振り、黒魔法で遊んで暮して来た。けれども巨乳に対しては、人一倍に敏感であった。
「ロウェルさん…怖いですよ」
「運が良いですね、ソフィア。もし私が杖を持っていたら、貴女の乳房を捻切っていました」
「残虐!!」
残虐というよりは残酷だ。
何故同じ年なのにここまで個体差が出てしまうのだろう。崖のような私の胸と見事な連峰を携えたソフィアの胸。
「世界は残酷です」
◆
「吹っ飛べ」
纏めていた髪を下ろしてから杖を一振りする。慣れた呪文は問題なく発動し、体と髪に纏った水滴が弾かれていった。
これで体を拭く手間を省ける。
「いや凄っ! 凄いけど…体拭くのにも魔法使うんだ」
「黒魔はそもそも生活の利便性を上げるために開発されたのです。なら寧ろこれが本来の使い方では?」
「それもそうか………そうか?」
「あはは」
魔法で一足先に体を渇かした私は、服を着てから杖を持つ。
そしてその先を二人に向けた。
「せっかくですからお二人にもやってあげましょうか?」
「いやいいよ、怖いし」
クラウは両手を胸の前で振って断る。
「怖い? 何故?」
「何かほら…干物とかにされそうだし」
「そんなこと出来るわけないでしょう」
「黒魔法は生物の肉体に直接作用することが出来ないんですよ」
「ああ、そういえばそうだったね」
しかしクラウもソフィアも抵抗感があるらしく、結局タオルで自分の肌を拭いていた。
そして十分に肌を拭うと各々のナイトウェアを纏う。
最後に上からガウンを羽織り、私達は自室へ戻った。
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