魔王の子の追憶~良心と憎悪~
魔王の子が思う...良心と憎悪
古代インドに語り継がれる叙事詩「ラーマーヤナ」、ヴィシュヌ神の化身「ラーマ王子」の愛する「シーター妃」を奪還するために耗発した羅刹羅闍「魔王ラーヴァナ」との戦の末、羅刹の王が敗北者となり、王子と妃が運命の再開を果たした物語...
もしこの物語は何者かの筋書き(運命)によって定められたとしたら、それに抗えないだろうか?
時は現代日本、ある女子大学生「椎谷・蘭華」がラーマーヤナの物語(世界)に巻き込まれ、滅んだはずの羅刹の王との出会いで運命の歯車がついに再び動き出して、心を探す旅が始まった...ぶらりと...
私は、父上の息子ではない...
十何年前には私がいる王国で大戦争が起きたと伝えられたが、今は平和になっている。
その陥落した王国の再建を試み、民を治めたのは...私の父であり、この王国、ランカ島の羅刹王...【ヴィビーシャナ王】だった。
私が子供のときから見てきた父上は良心そのものだと思ってしまうほど正しき王の道を歩んできた。
民のことを思い、剛力を持たない代わりに自分の優れた頭脳で様々な問題を自ら提案して、実行させる。その結果、大戦では敗北とされたこの国もやっと普通の暮らしが戻った。
その父上には、大変誇らしく...私も父上のように立派で正しき王になりたい...
なりたかった...
なぜそう思ったのかは、私は父上の本当の息子ではない...と分かったから
父上と母上とは全く違うこの黒に近い褐色の肌色...
侍女たちが裏で言った話に聞かれた噂...
交流のために父上を共にした別の同胞の国の訪問で言われた言葉...
皆は揃って同じことを言う...
「お父さんと似ていないね...まるでラーヴァナ様だ。」
【ラーヴァナ】
咆哮に相応しい名前で天から地獄まで轟かせた魔王...
父上のお兄様であり、私の伯父様でもあるその魔王はまさにその大戦を始めた張本人だった。
人間の姫様をここまで攫って、その姫様の旦那であるあの英雄王ラーマが奪還するために大戦が勃発した。
その結果...たくさんの同胞が命を落とされて、魔王自身も滅んだ。
そして、今になってはラーマ王とこの国が友好国として契りが結ばれ、お互い危機が迫るときには助け合う関係になった。
それも全て、良心ゆえに自分の兄の所業が許せない父上が当時のラーマ王子の側について、大戦の終わりに導くからだった。
だから...例え私は本当の息子ではなく、あの魔王の子だとしてもそれでいい...
例え他人に何か言われようとしても...私は父上と母上の愛で育てられて、そして正しくであろうその良心を教わった。
私はあの魔王とは違う...
私は決して【悪】に染まらない!
そう思っていた。
あの日が訪れるまでは...
ある日、宮殿の中の広い廊下を歩いたときに綺麗な鳥を見かけた。
まるで宝石のような羽の色付きとキラキラとしてつぶらな瞳に私は惹かれた。
と思ったその瞬間、あの鳥は羽ばたいて、外ではなく宮殿の中に消えた。
私はただ宮殿に迷い込む鳥が心配して、追いかけただけだったが...いつの間にかある場所にたどり着いた。
それは武器庫というより、羅刹の戦士たちが使っていた武器...大戦のときに残された武器を安置するような部屋だった。
初めてこの部屋の前に立った私は好奇心に負けて、その部屋に入ってしまった。
中には説明した通り、丁寧に並べられた武器はまるでその使い手の戦士たちをここで奉るかのような雰囲気だった。
その数々の武器の中に、私の目に止まったのはある弓矢だった。
確かに...これは以前に母上に言われた【インドラに勝利した者】の名を持つ、インドラジット様がシヴァ神様からいただいた...その威力はもはや神に相当すると言われた伝説の弓矢...
なぜだろう...この弓矢に惹かれたと感じた...さっきの鳥よりも...他のことよりも...頭から消えたかのようだ。
まるで弓矢が私に触れて欲しいかのような魅惑だった。
そして、その魅惑に屈した私は...弓矢を触れた。
あの弓矢を触れようとしたとき、私は生まれて初めて自分の良心が誘惑に負けたと実感した。
その瞬間...
何かが私の体中に流れ込んできた。
突然天命が下すかのように...
何者かに仕組まれた罠かのように...
私が知らなかったある感情が...体中に駆け巡って、その感情を理解させようとした。
それは...【憎悪】だ。
憎しみと怒りが私の心から溢れ出して、吐き出してしまいそうなのに...自分の体中にずっと循環している。
...怒れ!
...呪え!
自分の出生を!
自分の中に流れている...呪われた魔王の血を受け入れろ!
偽善者を始末しろ!
同胞を裏切った者を許すな!
悲鳴が上手く上げられず、ずっと頭の中に聞こえた声を必死に沈めようとしたが、それはダメだった。
しばらくして自分が新しい感情を理解し始めたときには、何もかもが変わってしまった。
これだけは逃れない運命なんだ。
魔王の子孫である私の役目は明確になってしまった。
父上...ごめんなさい...
もう私は、正しき王の道から外れたみたいです。
正しき王のあなたなら、この私を許すだろう。
例え、これから私が行うことは魔王の道に歩むことだとしても...
私の決断と行動の結果は、すでに分かったかと思う。
しかし、それは本当の目的じゃない...
良心を知ったこそ、憎悪との均衡を必死に保とうとしたこの心はこう言った。
魔王の復活もラーマの子孫も...
この悲劇の因縁に【終止符】を打つために...
この世の全てを...終わらせないといけない...
私の代には不可能だとしても...いずれ私の子孫はやり遂げる。
必ずだ...と信じた。
だから、私は...父上をランカ島から追放した後には自分が王座に継がず...王国を去った。
そして、私は家族を作り...魔王ラーヴァナの名から引き継ぐ【ラーヴァン家】として...来るときに備えるために子孫に使命と本当の目的を託した...
最後までお読みいただきありがとうございました。金剛永寿と申します。
この作品は古代インドの叙事詩「ラーマーヤナ」をベースにした輪廻転生系ローファンタジーフィクションです。
日本では三国志や西遊記よりかなりマイナーですが、南アジアから東南アジアまで広く親しまれる作品です。ぜひご興味ある方は原作にも読んでいただければと思います。
これはラーヴァン家の始祖であり、古の魔王の最後の子の話...
明らかになった彼の気持ちとやり遂げたいこと...
果たして末裔までにはどれぐらいその思いが届くのだろう...
前回の話から続いて、久々にシリアスな話になっています。
もともとそのつもりだったけど、いつの間にかラブコメとかバトルとかの要素が混ざってしまったようだ。(おめえのせいだろうが(笑))
では、次回はあの人を登場させましょうかね...(誰だw)
もうここまで来て、付き合ってくれた皆さんに御礼を申し上げます。
次回は誰を登場させるか...どのような物語と展開になるか...今後の展開もぜひお楽しみに!
ご興味ある方はぜひ登場した気になる言葉をキーワードとして検索してみていただければと思います。
もし続きが気になって、ご興味があれば、ぜひ「ブックマーク」の追加、「☆☆☆☆☆」のご評価いただけるととても幸いです。レビューや感想も積極的に受け付けますので、なんでもどうぞ!
毎日更新とはお約束できませんが、毎週更新し続けるように奮闘していますので、お楽しみいただければ何より幸いです!
追伸:
実は新作も書いていますので、もしよろしければそちらもご一読ください!↓
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