白鬼の自白(桃太郎)
古代インドに語り継がれる叙事詩「ラーマーヤナ」、ヴィシュヌ神の化身「ラーマ王子」の愛する「シーター妃」を奪還するために耗発した羅刹羅闍「魔王ラーヴァナ」との戦の末、羅刹の王が敗北者となり、王子と妃が運命の再開を果たした物語...
もしこの物語は何者かの筋書き(運命)によって定められたとしたら、それに抗えないだろうか?
時は現代日本、ある女子大学生「椎谷・蘭華」がラーマーヤナの物語(世界)に巻き込まれ、滅んだはずの羅刹の王との出会いで運命の歯車がついに再び動き出して、心を探す旅が始まった...ぶらりと...
広がる桃太郎伝説...明らかになった彼らの正体
場所は鬼無町にある純喫茶【桃太郎】に変わる。
【Axe】というハンドルネームと名乗った男は、自分の前に座っている男を見つめている。
彼は自らラーマーヤナの物語で自分の同胞から追放され、ラーマ王子側に助言をするあの羅刹の参謀であることを認め、白鬼と名乗った。
ハンドルネーム【Vibs】という男は最初からAxeのことを斧を持つ者だと呼び、自分には過去・現在・未来の全てが見える能力を持っていると言われた。
だから...チャットのときには久しぶりという言葉を使ったのか...初対面の人に対しては妙だと思ったが、自分の正体まで知れば、ある意味では赤の他人ではないとも言える。
そのとんでもない能力の持ち主である男は今何をしているかというと...美味しそうに...注文したクリームソーダを堪能している。
ストローでメロンソーダを一口吸ってから、細長い鉄製スプーンでアイスをすくって、口まで運んだ。
そして、幸せそうな顔をした中年の男は思わず「うん...これこれ!」という言葉を口にした。
「あの...」とさすがにAxeの中にある疑問を晴らしたい気持ちに抑えきれず、相手に何かの情報を言って欲しいと思ったのか少し言葉を発した。
それに気づいたVibsはすぐに申し訳なさそうな顔をして、堪能中のクリームソーダから手を離した。
「あ...すみません。このクリームソーダは本当に魔法がかかったようで、これから自分がこの味が味わうことが分かっても抗えないですよ~ハハっ...こんな恥ずかしいところを見せてしまって、申し訳ない。」と男は言ってから、クリームソーダを見つめながら話の相手であるAxeにある質問を投げた。
「あなたのような【存在】はなぜネットカフェ生活をしているのですか?まるで...逃走中の犯罪者みたいだと思ってしまいます。」
っ!?
その質問を聞いた瞬間、Axeの表情が険しくなった。それを見たVibsは改めて別の言葉を口にした。
「勘違いしないでいただきたいのは、あなたを責めるつもりなんてありません。ただ...あなたの計画から見て、そこまで何もかもから逃げる必要がないかと思ったからだけです。どうか...ご理解いただければ嬉しいですが。」
少しの間、沈黙が続いた。
その間の二人はただ黙ったままに目の前にある飲み物を口にしただけだった。
相手の表情が少し和らいだことを確認したVibsは次のように話した。
「私も...これから起きる世界の【終焉】のことが分かったときにも同じ気持ちを感じることもありました。自分の使命が分かってしまったこと...しかし、あなたはそれがいつ訪れるかまでは知らないから...自分の大切な人たちから遠ざけるまでして...それでも運命から逃げられないそのやすせない気持ちは全て理解できたと言いません。しかし、私はそれを受け入れて自分ができることをやるまでと決めて、そう思うようになったら、気持ちが楽になりました。今は世界の終わりよりは目の前にあるこの美味しいクリームソーダの方が楽しみです。」と少し笑顔を見せて、クリームソーダに手を取って再び食べた。
「こちらこそすみません。あなたもあなたなりの苦悩があると分かったのに、全てが見透かされた気持ちはやはり...今まで自分がやってきたことが無意味だと思ってしまいそうで...」と暗い顔になったAxeだったが、そのとき誰かが何かをテーブルの上に置いた。
それは、皿に盛り付けたナポリタンだった。
それを運んだのは他の誰でもなく純喫茶の店長である一人の男だった。
「そんな暗い顔をしないでください。ちゃんと理由があって、その行動を取ったのはあなたが一番分かったはずです。運命とか私はあまり信じないですが、この常連さんのおかげでいろいろ分かってしまったつーか、なんだか目を覚ましたみたいな感覚です。これはうちのサービスですので、どうぞ食べてみてください。味はこの常連さんが保証します。」と言って、そのまま店のカウンターに戻った店長。
「これは大変ついていますね!あのマスターがわざわざナポリタンをただで振る舞ってくれるのは私があなたの今の顔をしたそのときぐらいでしたよ。」となぜかご機嫌になったVibsの言葉に...少し困惑したAxe。
まあ...食べ物には美味しく頂こうかと思って、フォークを手に取って、まだ冷めないナポリタンを食べ始めた。
「これは...美味い...」という感想と共にAxeというハンドルネームの男は枯れた心が少し水を与えられたような気分になった。
満足とは言い難いが、少しでも潤いを感じた。
いつぶりだろう...このような生活をしてから...こんな気持ちになるとは...
家族まで捨てて...
紀子...最期まで看取れなくて本当に済まなかった。
そして、何より残してしまった...孤独にさせてしまった息子たち
と考え込んだときに...向こうに座っている男が声を掛けられた。
「美味しいですよね...ここのナポリタン...少し落ち着きましたか?」と得意げに尋ねたVibsは悪意がなく、それに対しても不快と感じなかったAxe。
そして、彼はその勢いのままで皿の上にあるナポリタンを完食した。
「...ご馳走様でした...」と感謝の気持ちを込めて静かに声を出して、彼は言い出した。
「では、本題を聞かせましょうか?桃太郎伝説...」という話題を切り込んだ。
それを聞いたVibsは、姿勢を直してからAxeの方を見た。
「さっき話した通り、ここ...鬼無では別の桃太郎伝説があると言っていましたね。ある方が発表した論文によると、ここは当伝説の発祥地であり、童話に出てくる話とは違い、実際の桃太郎は桃から生まれたではなく...なんと一人の皇族らしいです。その名は、【稚武彦命】。桃太郎のモデルとされる人物です。そして、鬼たちも実際の鬼ではなく、ある島...【女木島】を本拠地としていた海賊でした。ちなみに私が住んでいるのもその女木島です。もちろん...仲間の犬と猿とキジも人間ですよ。動物にすると、シュール感があって面白いですね...それはさておき、ここまで話したら、たぶんあなたもこう考えるではないでしょうか?これはただ実話に基づいた悪者退治の定番な展開のストーリーだと...そこで、別の鬼退治伝承について話しましょう。今の岡山県のある鬼、【温羅】の伝説です。鬼ノ城と後ほど呼ばれた山城に住んでいた温羅は、【吉備津彦命】という別の皇族によって退治されました。どうやって退治されたかは省けますが、なんと!その吉備津彦命は、稚武彦命のお兄さんであって、退治のときも弟である稚武彦命も一緒に温羅と戦っていました。ここまでは伝承の通りです。」と言ってVibsはクリームソーダを最後まで飲み干して、ふーと少し説明に疲れたか安堵したか分からない息を吹いた。
「ここから話すことは実際の話です。なぜ実際なのかというと、それは私が能力を使わずに自分で体験した話です。簡潔に言います...私はその温羅です。そして、退治されて居場所がなくなった私に新しい住処を提供してくれたのは稚武彦命様でした。この時点ではあなたはたぶんこう思うでしょう...なんで古代インドの地からこの日ノ本の地に現れて、古代に存在した伝承上の鬼になったのかとか...そして、なぜ稚武彦命は私のような存在を助けたのかとか...」と話した後、Axeの目を真面目な表情で見つめて、こう問いかけた。
「それはあなたの一部が分かったではないでしょうか?Axeさん...いいえ、【パラシュラーマ】様と呼んだ方が適切でしょうか?世界の守護神、ヴィシュヌ神の第6番目の化身であり、暗黒時代の汚れた世界を浄化する最後の化身の師になる存在のあなたは...稚武彦命もまたヴィシュヌ神の一つの化身に過ぎないととっくに分かったはずです。」
これで桃太郎伝説の話はお終い...めでたしめでたしとは言えないほどに...
最後までお読みいただきありがとうございました。金剛永寿と申します。
この作品は古代インドの叙事詩「ラーマーヤナ」をベースにした輪廻転生系ローファンタジーフィクションです。
日本では三国志や西遊記よりかなりマイナーですが、南アジアから東南アジアまで広く親しまれる作品です。ぜひご興味ある方は原作にも読んでいただければと思います。
AxeとVibsのオフ会を書こうとしたら、なぜか前半はなんだか重い空気にさせて、そこから突然のナポリタン!からの~桃太郎伝説という詰めすぎたカオスの構成になってしまいました。
岡山の温羅伝説と鬼無の桃太郎伝説を合わせたら、なぜか同じ登場人物がピッタリ出てきて、ここは使える!とひらめきました。そして、化身の使いやすさを実感しました(笑)。
斧を持つもう一人のラーマ...世界を浄化する最後の化身...Vibsは古代から日本にいたという事実...前の伏線が回収できたかと思ったら、また新しい伏線を置いてきてしまった...
いつランカちゃんと魔王の話になるのかな...いつラーメンの話になるんだ?
それは...作者次第です。すみません!(<m(__)m>
本当に群像劇を書く大変さを自分自身で実感しています。他のキャラも登場させたい気持ちとストーリーの運びを考えないといけないというジレンマ...これも群像劇の醍醐味ですかね。
もうここまで来て、付き合ってくれた皆さんに御礼を申し上げます。
次回は誰を登場させるか...どのような物語と展開になるか...今後の展開もぜひお楽しみに!
ご興味ある方はぜひ登場した気になる言葉をキーワードとして検索してみていただければと思います。
もし続きが気になって、ご興味があれば、ぜひ「ブックマーク」の追加、「☆☆☆☆☆」のご評価いただけるととても幸いです。レビューや感想も積極的に受け付けますので、なんでもどうぞ!
毎日更新とはお約束できませんが、毎週更新し続けるように奮闘していますので、お楽しみいただければ何より幸いです!
追伸:
実は新作も書いていますので、もしよろしければそちらもご一読ください!↓
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