羅刹参謀の追憶~白鬼~
古代インドに語り継がれる叙事詩「ラーマーヤナ」、ヴィシュヌ神の化身「ラーマ王子」の愛する「シーター妃」を奪還するために耗発した羅刹羅闍「魔王ラーヴァナ」との戦の末、羅刹の王が敗北者となり、王子と妃が運命の再開を果たした物語...
もしこの物語は何者かの筋書き(運命)によって定められたとしたら、それに抗えないだろうか?
時は現代日本、ある女子大学生「椎谷・蘭華」がラーマーヤナの物語(世界)に巻き込まれ、滅んだはずの羅刹の王との出会いで運命の歯車がついに再び動き出して、心を探す旅が始まった...ぶらりと...
羅刹参謀が語る...見えた未来と白鬼の務めについて
私の名は、ヴィビーシャナ。
羅刹の王国の王子であり、王位継承者だった...一応はな。
私には2人の兄がいて、さらにその一人も今のランカー島の羅闍である。
そう...すべての世界に名が知れ渡る魔王...ラーヴァナだ。
力も知識も魔術も武芸も芸能まで全ての能力を手に入れたラーヴァナ兄上...
そして、力を極限まで極めた豪傑のもう一人の兄上、クムバカルナ。
それに比べて、私は多少の知識を持ちつつ、魔王には適わない。
力も論外だ。
その理由は、どう足掻いても適わない私の身体にある。
私は、生まれつき他の羅刹と違った容姿になった。
そう...羅刹の一番の獲物である人間に似ている姿に生まれた。
容姿だけではない...
肌色も皆と違って、白色...
全ては母上の神様への願いの結果だった。
おかげさまで【異端なる白鬼】と呼ばわり、もし王族ではなければ...すぐに迫害されるだろう...
力が存在意義の証明である羅刹の世界では、私の居場所はない。
それでも、私は兄上たちには尊敬する。
兄上たちも私のことを見下すこともなく接してくれた。
力が弱くても、お前は我達より聡明だと言ってくれて、クムバカルナ兄上が戦士長であるように私は参謀として魔王の側近を務めてきた。
そのときからずっと思っていた。
なぜ【白】は異端の色なのか。
それは、人間と似ていることが理由なのか...それとも、同胞と違うからか...
神様には無意味で私に生を与えた訳ではないと思う...いや、信じたい...
私の存在意義は必ずあると...
そして気づいた。
【黒と白】のように...【善と悪】のように...
私が持つ【良心】で、いつか兄上たちの黒い心の部分が現れるときに対抗できるかのように...
兄上たちがこれ以上一線を越えることがないように...止める役目が必要...
だから、私は...白鬼なんだ。
もしかしたら、これは私の存在意義かもしれない。
そしてもう一つ...
私は、兄上にはないものがあるとすれば、ある神様がくださったこの【能力】だ。
そう...過去・現在・未来の全てが見えるこの目が...
これを使えば、万一兄上たちがこれから行おうとしたことが命に危険が晒されるか王国にとっては危機がもたらすことがあれば、私の助言でそれを止められる...
弟として王の側近として白鬼の私の存在意義を示すと決めた。
そう...ある日までは...
私が見えた未来では、大戦の勃発...そして、魔王の最期...落とされた同胞たちの数え切れない命...
その原因は人間の妃、シーターが魔王である兄上に連れられたからだ。
それが分かった私はすぐさまに兄上たちに報告した。
解決方法は、妃を返す...それで全てが修まる...この人間の女性ではくても、他の女性はいくらでも手には入れると説得した。
しかし、なぜか今回には兄上は私の助言を拒んだ。
いくら理由を伝えても、聞き耳を持たなかった。
ただ一言...「シーターを愛している」...たった一言だけが魔王の口から出た。
なぜだ...このままでは...王国には危機が迫るぞ...
それだけじゃない...兄上たちも同胞たちの命も...
これは、まさに善と悪の対立の時間だ。
これを止めるために私がここにいるのに...
兄上には改心するところか...兄上の心...決意は全く揺るがない...
残念ながら...私の味方になれるかと思った戦士長であるクムバカルナ兄上は、魔王の肩を持つと決めた。
「王のためであれば、例え大戦が勃発しても我々が最期まで戦う。悪いな...ヴィブ。私は王の命令に従うのみだ。」
結果として、私は王に従わない不届き者として王国から追放されるハメになった。
追い出されても私はまだ納得できない。
この能力があれば止められると思った。
国の安泰にも左右できるこの力は、今回になって全く無力だ...
過去も...未来も...見られるのに...と思ったそのとき、私はもう一度目を開いた。
そう...ある【過去】を見た。
そして、私は分かった...分かってしまった。
これは神様の悪戯にすぎない...避けられない運命なんだという真実を。
ただそれが見える私如きの存在はこの運命が変えられない。
しかし...兄上を止めることも私の役目...
自分の「良心」だけでは兄上たちが止められない...
それなら、これからの白鬼の選択肢は一つしかない。
それから、私は人間の王子、ラーマ王子の参謀になった。
有利な情報や作戦の立案でラーマ王子側に手助けする。
その水面下で魔王の弱点を知っている私はある計画をラーマ王子に打ち明けた。
そして、計画が見事にその通りに進んだ。
結果としては今の我が主、ラーマ王子が勝利して、シーター妃を取り戻した。
そのとき、私はこう思った。
許してほしいと言えないが、命を落とした同胞を思うと...胸が苦しくなる...
その道しか...ないのかと神様に聞いてみたい気分だ。
これで...いいのか...
いや、これでいいのだ...
これで、白鬼としての務めが果たせた。
黒き悪を止める白き善は私たちなんだと...そのとき思っていた。
しかし、私の役割はまだ終わっていない。
私がそのときにまだ見ていなかったさらなる【未来】があると...今になって身を以て知った。
最後までお読みいただきありがとうございました。金剛永寿と申します。
この作品は古代インドの叙事詩「ラーマーヤナ」をベースにした輪廻転生系ローファンタジーフィクションです。
日本では三国志や西遊記よりかなりマイナーですが、南アジアから東南アジアまで広く親しまれる作品です。ぜひご興味ある方は原作にも読んでいただければと思います。
今回は新キャラの追憶編になります。ラーマ王子の側についた羅刹の参謀...自分の過去と自分の能力で見えた未来...そして、計画。まだまだ明かされないことがありそうです。(作者はだんだん分からなくなっています(笑))
白と黒...善と悪...
現代には何か起こりそうですね...
というか...いつランカちゃんと魔王の話になるのか...カレンちゃんたちは?
完全に忘れられた気が...(そんなことありません...ただ登場を遅らせるだけです。)
本当にここまで来て、付き合ってくれた皆さんに御礼を申し上げます。
次回は誰を登場させるか...どのような物語と展開になるか...今後の展開もぜひお楽しみに!
ご興味ある方はぜひ登場した気になる言葉をキーワードとして検索してみていただければと思います。
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