鳥王の追憶~翼~
古代インドに語り継がれる叙事詩「ラーマーヤナ」、ヴィシュヌ神の化身「ラーマ王子」の愛する「シーター妃」を奪還するために耗発した羅刹羅闍「魔王ラーヴァナ」との戦の末、羅刹の王が敗北者となり、王子と妃が運命の再開を果たした物語...
もしこの物語は何者かの筋書き(運命)によって定められたとしたら、それに抗えないだろうか?
時は現代日本、ある女子大学生「椎谷・蘭華」がラーマーヤナの物語(世界)に巻き込まれ、滅んだはずの羅刹の王との出会いで運命の歯車がついに再び動き出して、心を探す旅が始まった...ぶらりと...
鳥王が語る...失った翼と罰と贖罪について
これは我々の若気の至りによって、招かれた悲劇だった。
これは神への冒涜に値する行為だとは...知らなかったとは言えないが、
それでもこの悲劇は理不尽極まりなかった。
最初は、ただの【スーリヤ神】への憧れと好奇心という感情だけだった。
我と弟は誰かが高く空に飛べるか競争をした。
そこからは天まで届きそうなところまでただただ無心に高く飛んだ。
それは、我の翼と弟の翼の羽ばたきが嵐を起こすほど激しい競争だった。
どちらでも一歩...一羽ばたきも許さず、もっと...もっとだ!とさらなる高さへ飛んだ。
そのときは今まで味わったことがない...最高な快感だった。
このままで飛べば、天まで羽ばたいて、神々がいると言われた場所までも届きそうではないかと...
錯覚した...
勘違いした...
身の程知らずだった。
徐々に太陽に近づいた我々に異変が起きた。
正確に言うと、我が弟にだ。
太陽の灼熱を浴びてきた我の弟は少しずつ早さを落として、先ほどの力強い羽ばたきも弱くなってきた。
そして、我は悟った。
このまま太陽に近づけると...我も弟も焼かれてしまうことを...灰になって空に散ることを
しかし、この高さまで飛んで来たせいかもう我の翼も燃え始めた。
それなら、せめて弟だけでもと思い、我は弟の体を自分の翼で包み、弟を灼熱から守ることにした。
そう...
我々は気づかずに【傲慢】の罪を犯し、
その罰として我の翼が全て焼き尽くされて、翼を失った無力な体が地上に墜ちていった。
ここまで重い罰を受けることになるのか...
神のところに近づけようとしただけなのに...
弟は我と別の場所で墜ちた。
しかし、探しに行こうと思った我はそれができなかった。
翼を失った...
自由の証を失った我にはどこにも行けず、我は墜ちた場所を死に場所としてただいつ訪れる死を待つことにした。
これは我の傲慢さの代償だ...
静かに死を待つことしかそのときは思っていなかった。
ある一人の聖者の訪れが我の静かに死を待つ時間の邪魔になるまでは...
何?猿たちとの出会いで、我の運命が変わると...
何その戯言が...
その者たちはラーマという人間の王子の使いだと言われた。
ラーマ...か...
何者にぜよ...我の決意には揺らぐことなんてない。
我が望む死ができればそれでいい。
期待せずにまた静かに死を待つことにしよう...と思ったら、時間がどれほど過ぎたかもう数えていないある日。
本当に現れた...ヴァーナラたちが。
我の死を邪魔するなら、一層此奴らを食いちぎってしまおうかと思っていた。
しかし、ヴァーナラたちはラーマの使いだと説明した同時にもう一つの悲報を我に告げた。
それを聞いた瞬間、我は内に潜めた悲しみの全てがあふれ出した。
我が弟...ジャターユが...死んだと...?
あ...最後に会ったのは我の翼が焼かれて、別々の場所に墜ちたあのときだった。
探しに行けば良かった。例え、我は翼を持たなくても...足でも歩けば探しにいけるはずだった。
折れたのは我の翼だけではなく、我の心はあのときから翼と共に挫けてしまった。気力まで失った我は弟を探すことを諦めた。
そして、これは結果だ。
あ...我が弟...別れも謝罪も何もできず、我は兄としても鳥の王としても失格だ。
悲しみに暮れた我は涙さえも出ず、ただただ青空を見上げて、何も言えずにいた。
これは我に与えられた罰だ...翼の次には我が弟まで失ってしまった。
もう死ぬしか道が...
と本気で死を決意しようとしたとき、ヴァーナラたちは我にお願いがあって、尋ねてきた。
内容は攫われたラーマ王子の妃、シーターの行方について我が持っている能力で探して欲しいとのことだった。
そのとき、我はただ悲しみから逃れたいだけの気持ちで自分の能力、【透視】を使い、件の妃を探した。
しかし、予想外のことを目撃することになったとはかなり驚いた。
妃の行方はすぐに分かった。
あ...羅刹の王国に...
さらに...彼女の目の前には、あの羅刹羅闍が...だと!?
可哀想に...と思った瞬間、自分が見えた光景には一瞬疑ってしまった。
手荒れな扱いはされていない。
むしろ、なんだろう。
この初々しい雰囲気まで伝わってきた。
人間が俗に言う、恋をしているみたい。
バカな...あり得るのか?そのようなことは...
そして、我は自分が見てしまったあの光景を伏せたまま、事実としてシーター妃の行方をヴァーナラたちに告げた。言ってもこれから妃の奪還という展開になるのは変わらないと判断したからだ。そして、今でも自分が見たことをまだ半信半疑の気持ちだった。
恋をする魔王とか...これもまたある意味で世の末ではないかと自分の胸にとどめた。
そして次の瞬間、【奇跡】が起きた。
焼き尽くされて失ったはずの我の翼は再び生えて、新しい赤い翼が蘇った!
運命が変わるというのはこういうことか...聖者よ!
我がその予言の通りにラーマの使いを助けたことで神々が我が犯した罪を許されたからか。
どのような理由にせよ、非常に有難いことだ。
今すぐ空に羽ばたきたい気分だったが、ここまでうまく行き過ぎたと思うぐらいの展開で我は一つの疑問が頭に浮かんだ。
我と我が弟のことを知って、わざわざ従者を我のところまで派遣したあの人間の王子。
ラーマ...何者なんだ。
まさか...あの聖者との関係があるのか?
それとも、これもまた縁なのか...
どちらでもいい...か
ヴァーナラたちと別れた後、自由の証を取り戻した我は再び空へ羽ばたいた。
むろん...太陽に焼かれない程度の高さでこの世界を空から観察しようと思った。
これが【贖罪】だと我は勝手に決めたことだ。
我が弟よ...我はもう少し長く生きることにした。
だから、安らかに眠れ。
そして、その向こう側で待ってくれ。
再びの再会を楽しみにしているぞ...
そのときまでは...お前の分まで空を飛び、これから起きる大戦争の結末を見届ける。
見届けないと行けないのは...戦の行く先ではなく、
本当に幸せな結末を迎えるのは、
ラーマ王子なのか...
魔王ラーヴァナなのか...
それとも...また違う結末が待っているのかを...
最後までお読みいただきありがとうございました。金剛永寿と申します。
この作品は古代インドの叙事詩「ラーマーヤナ」をベースにした輪廻転生系ローファンタジーフィクションです。
日本では三国志や西遊記よりかなりマイナーですが、南アジアから東南アジアまで広く親しまれる作品です。ぜひご興味ある方は原作にも読んでいただければと思います。
大変お待たせいたしました。長期帰省によって、なかなか書く時間が確保できず...気づいたら1ヶ月ぶりの投稿になりました。お楽しみにしている方には申し訳ございません。またいつものペースで連載を続けられるようにしたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
太陽に近づけようとして、翼が焼かれてしまった鳥王の物語...いかがでしょうか?この鳥王の生まれ変わりである鳳先生にも何か今後の展開に繋がる伏線を置いておきたいなと思って、このような形にしてみました。世界の観察者...透視能力...今後はどうなりますかね...(作者が読者に聞いてもな...笑)
しかし、この話を聞くと、ギリシャ神話に出てきたイカロスの物語と似ているなと感じました。もしかして...何かの関係性があるかもしれません。以外にインド神話とかギリシャ神話だけではなく、世界中の神話って...別の神話と似ている話があったりして、興味深いですね。
次回は誰を登場させるか...どのような物語と展開になるか...今後の展開もぜひお楽しみに!
ご興味ある方はぜひ登場した気になる言葉をキーワードとして検索してみていただければと思います。
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毎日更新とはお約束できませんが、毎週更新し続けるように奮闘していますので、お楽しみいただければ何より幸いです!
追伸:
実は新作も書いていますので、もしよろしければそちらもご一読ください!↓
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