不思議な縁(運命の歯車)
古代インドに語り継がれる叙事詩「ラーマーヤナ」、ヴィシュヌ神の化身「ラーマ王子」の愛する「シーター妃」を奪還するために耗発した羅刹羅闍「ラーヴァナ」との戦の末、羅刹の王が敗北者となり、王子と妃が運命の再開を果たした...もしこの物語は運命によって定められたとしたら、それに抗えないだろうか。
時は現代日本、ある女子大学生「椎谷・蘭華」がラーマーヤナの物語(世界)に巻き込まれ、滅んだはずの羅刹の王との出会いで運命が再び動き出す...前の【先日譚】である...
運命は抗えずに同じことが繰り返す...そのようなこと、誰が言った?
断じて認めぬ!なってたまるか!
どれだけ運命に抗おうとしても...
例え神と戦うことになっても...
余は愛する人を幸せにする!
ネパールの首都、カトマンズ
タメル地区...ネパールの首都、カトマンズの中に観光客が多く泊まる地区であり、活気あふれる店が構えている。
その中に古い風格を保ったままにレストランとして営業している店のひとつで外見とは裏腹に、中はきっちりとした装飾でアンティークとロマンティックな雰囲気を出すネパール料理の老舗の館が建っている。
そこには男女の二人が店内で座って、雰囲気を楽しみながら...雑談を交えながら、料理を待機している。
「へ...」と共に両眉を上げた男性が同席している女性に次に話を続けた。
「椎谷さん...大学で専門は南アジアを研究をしているんですか?意外というか結構マイナーのところですね。」
「蘭華って呼んでください。」
「じゃ...僕の名前も呼んでくれないとあまりフェアじゃないですか?」
「え?あ、そうですよね...」
...
男性の名前で呼ぶことには慣れていないというわけでもない。学校のときには男子の友達も一般の女子に比べては多めだし、決して男子友達の家で遊びに行ったことはないというわけでもない(一人で男子の家ではなく大人数で行ったが)...この店の雰囲気のせいかなかなか難易度が上がった気がする。
「すみません...えーと...」
「いいえ、冗談ですよ...困っているようで、別に苗字のままでも構いませんよ。」
と蘭華に微笑みと共に冗談っぽく言った設楽に対して、蘭華は少し照れくさい笑みで返した。
この人...なんと言っていいだろう...
いい人はいい人だけど...
そうだ!「天然たらし」だ!
とほぼ会って間もない青年に対する印象はこれかと思い失礼で少し申し訳ないと分かりながら、心の中でそう思ってしまった蘭華だった。
計算するタイプには見えないけど、さっきは結構からってくるよな...
空港で会ったときと少し印象が変わっただけか?
まあ、まだ知り合ったばかりだし...いいか。
「そうですか...分かりました、し・た・ら・さん」と蘭華が多少の意地悪さを込めて相手の苗字を言い返した。
「では...なぜ南アジアのことに興味を持ったのですか?蘭華さん」
と先の話は何もないように先ほどの会話に戻した設楽。
「私...子供の時から他の子は当時に流行った漫画を読んだとき...小さい時に「マハーバーラタ」と「ラーマーヤナ」を祖母の友人からプレゼントでもらったことがきっかけで、それを読んで登場人物が魅力的で、ストーリーも面白くて、ついつい読んじゃいました。」
「へ...へえ...なかなか小さい子供へのプレゼントのチョイスが斬新な御仁ですね...僕がハーフでもあれを読むには父に読まされ、」と少し咳をして台詞を訂正した。「読むように言われたんです...ネパールとかインドとかではドラなんとかワンなんちゃらよりはこっちが人気なんだって...読んだら分かりましたが...やはり僕は海賊王になりたい方ですね...はは」と自分の話で少し笑ってしまった設楽であったが、それを聞いた蘭華も思わずに微笑んだ。
「まあ...強いて言っても日本なら中国勢の「三国志」とか「西遊記」とかはよっぽど人気ですから...漫画もいい作品がいっぱいあるし...それもそれでいいですが、なんというか...物語を読むと...懐かしく感じるんです。」
蘭華の意外な答えに少し驚いた表情をした設楽は蘭華に問いかけてみた。
「懐かしい...ですか?何に対してですか?蘭華さんはハーフとか南アジアとはゆかりがないはず...と言いますか...懐かしいという気持ちにしては少し不思議ですね。」
「そうですけど...私、日本生まれ日本育ちのはずなんですけど、この通り...肌色が「褐色」です。まあ、南アジアの方々に比べてはそこまで濃くないですけどね。なんだかシンパシーというか親近感というか...共感を抱くんです。不思議なほどに...親しみを感じます。この不思議な縁は私の南アジアの神話や歴史の研究のきっかけになりました。まあ...単純で言ったら、インド・ネパール料理も好きだし、言葉も話せるから、日本にいるインドとかネパールの知り合いもいっぱいいるというのもそこからなんですけどね...」
「ふっ...」という声が聞こえたと思ったら、蘭華の目の前にいる設楽が笑いを堪えていた。
「あ、し...失礼...あなたの南アジアへの興味のきっかけとか好きな理由に笑ったわけではなくて、本当に不思議の方だなと思わず思ってしまいました。どんな理由やきっかけであれ...好きなことを追いかける姿勢は本当に素晴らしいと思いますよ」と言って、設楽はまた笑って、その微笑みは一般の女性ならキュンとするキラースマイルになれる...そのような笑みを蘭華に送った。
こ...この人...間違いなく「天然たらし」だ...
と確信してしまった蘭華の反応をせずに冷静な心に保てることも見事だった。
「不思議...ですか。本当にこの言葉にはぴったりですね...運命よりは...」
「え...私たちの出会いもまさに...不思議ですね。」
だ...か...ら...設楽さん!こういうセリフを他の女性に言ったらたぶん確実に落とされると思いますが、私にしては嫌いじゃないけど、面白い「天然たらし」の人だなと思っちゃう。
...
っていけないいけない!それはさすがに失礼だとまた蘭華の頭の中は動揺せずに整理がちゃんと元の状態に戻るということがまたお見事としかいいようがない。
好感度は特に問題なしだ...
とりあえずこの不思議な縁を続けようと結論を出した蘭華であった。
続くか続かないかの会話の流れはちょうどなタイミングで注文された料理が割ってきた。
伝統的なネパールの民族衣装の一つの帽子、ダカ・トピを被った店員の男性が他の店員が二人の前に運んで置いてきた料理のプレートをわざわざ日本語で紹介してくれた。
「お待たせシマシタ。こちらはネパールの伝統料理「ダルバート」です。日本語で言うと「定食」です。ごはんとおかずはお代わりジユウですので、いつも言ってクダサイ。では...召し上がれ...」
と丁寧に紹介してくれた店員が去っていき、二人は目の前の料理を見て、キラキラワクワクな目をした。
キレイな金色のプレートにバスマテイライスが中心にカレーらしきスープが小さな金色の器に入っていて、野菜炒めや漬物のような野菜が色鮮やかにプレート上のライスの周りには囲んでいる。
「これは噂のダルバートですね...日本で食べたことがありますけど...本場も楽しみだ~」と機嫌そうな蘭華は設楽のプレートを見ると、ライスの代わりに見たことない黒い蒸したもち米みたいが置いてある。
「それ...何ですか?」と疑問を持っている蘭華はすかさず設楽に聞いた。
「あ、これはディロと呼んで、トウモロコシやシコクビエなどの粉を熱湯で練ったもので主食として食べられています。ライスもおいしいですが、これも捨てがたいですね。」
「それも面白そうですね...お代わりはそれにしようっと...では、いただきま~す!」
手を合わせて機嫌そうな蘭華を見た設楽も小さな笑みで自分も「いただきます」と合掌して、料理を口に運び始めた。
そのあとは料理を堪能した二人は会話も続けて...この不思議な出会いから「縁」で徐々に友情が芽生えた。
しかし、二人の「友情」は今後の二人にどのような災いをもたらすか...そのときの二人は知らなかった...ただ料理と他愛のない会話を楽しむ二人にすぎなかった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
古代インドの叙事詩「ラーマーヤナ」をベースにしたローファンタジーフィクションです。
日本では三国志や西遊記よりかなりマイナーですが、南アジアから東南アジアまで広く親しまれる作品です。ぜひご興味ある方は原作にも読んでいただければと思います。
ネパールで食べた「ディロ」はとてもうまかったので、ご興味あり方はキーワードとして検索してみてください!
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