魔王降臨(滞在:その②)
古代インドに語り継がれる叙事詩「ラーマーヤナ」、ヴィシュヌ神の化身「ラーマ王子」の愛する「シーター妃」を奪還するために耗発した羅刹羅闍「魔王ラーヴァナ」との戦の末、羅刹の王が敗北者となり、王子と妃が運命の再開を果たした物語...
もしこの物語は何者かの筋書き(運命)によって定められたとしたら、それに抗えないだろうか?
時は現代日本、ある女子大学生「椎谷・蘭華」がラーマーヤナの物語(世界)に巻き込まれ、滅んだはずの羅刹の王との出会いで運命の歯車がついに再び動き出した。
魔王...区役所に降臨(住民登録手続きをするため)
都内 とある区役所
区民課の窓口
「○○番のお客様...×番窓口までお越しください。」という自動音声が流れて、
番号札に書かれている番号がモニターに映し出し、次々に窓口に足を運ぶ人たち。
そして、待っていた番号が呼び出された2人は窓口の前に来て、立っている。
「担当の田中と申します。今日はどのご用件でしょうか?」と自己紹介した役所の職員が来訪者の顔を見た瞬間、一瞬固まってしまった。
一人目は褐色の肌色の女性である一方、二人目?は背が天井に届くほどの高さの濃い褐色の男性だ。
「え、えーと...日本語が話せる方がいらっしゃいますか?」と職員が少しためらって訪ねると、女性の方がネイティブの日本語で話し始めた。
「あ、私...日本生まれ日本育ちです。あまりそう見えないと思いますが、日本語は全然問題ありません...ハハ。」と彼女がちょっと苦笑いした。
それに対して、職員は「た、大変失礼いたしました。」と慌ててペコペコ頭を下げた。
「いいえ。大丈夫ですよ。」と笑顔で答えた女性は本当に気にしないようだ。
「そうでございますか...では、そちらの方は...」と女性の隣に立っている巨漢を横目で見て、女性の方に改めて訪ねた。
「あ...この方は外国から来たばかりで、住民登録したいですけど...そのために私は通訳として同行しています。」と説明した女性の方を見て、なるほどとうなずいた職員。
「そうでございますか。もし必要であれば、この区役所ではビデオ通訳というサービスも提供していますが、必要がないのようですかね。」と念のために聞いた。
「はい...ちなみにその通訳はどんな言語がありますか...ちょっと知りたいだけですが。」と女性の来訪者は興味ありそうで職員に聞いてみた。
「そうですね...基本的に英語や中国語などはよく利用されています。最近だとベトナムやネパール語のお客様もほぼ毎日の頻度で利用されています。」と丁寧に説明した職員に対して、目が少し輝きを見せた女性の来訪者は「ネパール語もありますね...私、話せますから、少し嬉しいです。」と何気なく嬉しそうな様子を見せた。
「ということは...この方は...ネパールの方でしょうか?」と話の流れから推測してみた職員だったが、その予想は外れた。
「あ、この方は...こちらは彼の在留カードです。」と女性の方からカードが職員に提出された。
「はい。確認いたします。国籍は...【スリランカ】の方ですね。お名前は...ラーヴァン・ラージャさんで間違いないですかね。」と名前を呼ばれたように巨漢が反応した。
「ワタシ...ナマエ...ラーヴっ」と言いかけたが、隣の女性が途中で会話を割ってきた。
「あ!はい!そうです!ラージャで合っています!」と言ってから、巨漢に何かを説明したようだが、職員から聞いてもこれはどこの言語か分からない。
確かにスリランカではネパールやインドとは違う言語を使うと聞いたことがあるけど...それでもこの二人の会話を見て、少し違和感を感じた。
しかし...口を挟むところではないと分かったので、ただ二人のやりとりを見守るしかできなかった。
会話が終わると、巨漢が改めて自己紹介?をした。
「ワタシ...ナマエ...ラージャ...デス。」と言った巨漢。
「あ...はい。ラージャさんですね。分かりました。来日は...8日前ですね。では、海外からの転入手続きと住民登録の手続きが必要となりますが、ラージャさんに伝えてもよろしいでしょうか?」と職員は女性の方を見て、通訳のお願いをした。
「はい。分かりました。」と女性はラージャと言う名前の巨漢に向けて、また聞き取れない言語で話した。
口数が少ないが、巨漢の方もちゃんと会話に反応したし、完全に話が通じないとかではない。
外国籍の方の人口が増加傾向の日本では、英語だけ分かれば全てが解決だということが決してはそうならない。
多様性および共存のためには様々な外国語が話せる方の存在はかなりキーになっている昨今...時代と共に変わった需要に対応しなければならない。そして、ある意味では通訳を信頼することもだ。
「伝えました。分かったと言っています。」と答えた女性。
「では、こちらの書類にご記入して...代わりに私が記入しましょうか?」と提案した職員に対して、女性の来訪者は「では、お願いできますか...逆にこういう外国の方の手続きは慣れなくて...すみません。」と少し申し訳なさそうな表情をした。
「かしこまりました。では、後の確認はお願いしますね。少々お待ちください。」と言ってから、窓口の奥に行ってしまった職員。
しばらく待つと、職員は戻った。
「お待たせいたしました。では、この住所で登録いたしますので、ご確認ください。ラージャさんは一人暮らしで合っていますか?」と職員は確認のために質問をした。
「は、はい。彼の知人が隣に住んでいるところです。一人で住みます。」と答えた女性。
「かしこまりました。では、在留カードをお返しいたします。後は記入したところに間違いがないかご確認ください。」と言った職員。
「はい。問題ないかと思います。」と確認をした女性はそう答えた。
「ラージャさんはすでにお仕事が決まりましたか?もしまだであれば、国民年金と国民健康保険の加入手続きが必要になっていますが...」とさらに質問をした職員。そこで、女性の来訪者は何か思い出したような感じでこう答えた。
「え、ええ。そこは大丈夫です。彼の会社で手続きをするという話を聞いたので、今のところは...」
「そうでございますね。では、これで手続きが完了しました。何かご質問やご不明なことがありますでしょうか?」と最後にいつもの決め台詞のようにお客さん全員に聞くパターンの質問をした。
「いいえ。大丈夫です。」と答えた女性の顔にはこれ以上のことが探られたくないように書いているかと感じた。
「では、本日、お疲れ様でした。また何かあれば、また来てください。」と最後に御礼をした職員。
そこで、女性の来訪者もお辞儀をして、御礼を言った後、隣の巨漢も何かの言葉を口にした。
「アリガトウ...ゴ...ザイマ...スル」という片言の日本語になったが、少なくとも御礼が言いたい気持ちが伝わったようだ。
「どういたしまして。」と笑顔で2人を見送った職員。
2人の来訪者が去った後
この2人、どんな関係なんだろうと職員はふっと気になった。
さっき聞きそびれたが、よく考えてみるとこの2人にはどこかで似ているような気がしなくもない。
親子としては、不思議なことにそう見えなくもないと思った職員だったが、
無論、それは口にはしていなかった。
一方
区役所を後にした二人の来訪者の中に女性の方は大きくため息をついた。
なんか...申し訳ないことをしたな...
来る前にオーナーから口裏を合わせるために、いろいろな設定を聞いてきて正解だった。
なにせよ...偽名と偽書類でちゃんと手続きができることは一番怖いよ...
オーナーに頼んだのは正解だったけど、これもこれでなんかヤバいと感じた。
こっちまでハラハラした。
まあ...古の魔王が日本に来日したと言っても、誰も信じてくれないよね...
問題なく手続きができてよかった。
こんな形で区役所に来るとは想像もしなかった。
あと、ラージャという名前は気に入っているみたいでよかった。
と隣の巨漢を見ながら、彼女は少し笑っていた。
残りは、【仕事探し】かな?
魔王が働くって、一番想像できないけど。
「さあ、帰ろうか」と他人事みたいに言い出した彼女の後にラージャという名前を使っている魔王が付いている。
本日を以て、
魔王ラーヴァナ...住民登録と諸々の手続きが完了し、ラージャという名で日本滞在が正式に決定。
そして、椎谷・蘭華、事実上の魔王専用の通訳になりました。
最後までお読みいただきありがとうございました。金剛永寿と申します。
この作品は古代インドの叙事詩「ラーマーヤナ」をベースにした輪廻転生系ローファンタジーフィクションです。
日本では三国志や西遊記よりかなりマイナーですが、南アジアから東南アジアまで広く親しまれる作品です。ぜひご興味ある方は原作にも読んでいただければと思います。
役所での手続きは転入やら転出やら年金やら国保やら本当にいろいろ過ぎて、特に外国籍の方にとってはかなり手強いらしいですね。通訳が同行できない場合、最近ではビデオ通訳もありますので、段々便利になっています。(作者の実経験)
また、この物語の舞台は現代日本だと言っても、現実の現代日本ではありません。ファンタジー要素が入った現代日本に近い世界ですので、無論...違法滞在や書類の偽装は法律違反になりますので、絶対真似しないでください。
という注意喚起を書いておかないと、コンプラに何かしら問題があるときには大変なので、残しておきました。
次回!魔王就職とかになったりして(笑)
次は誰を登場させようか...今後の展開もぜひお楽しみに!
ご興味ある方はぜひ登場した気になる言葉をキーワードとして検索してみていただければと思います。
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毎日更新とはお約束できませんが、毎週更新し続けるように奮闘していますので、お楽しみいただければ何より幸いです!
追伸:
実は新作も書いていますので、もしよろしければそちらもご一読ください!↓
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