香蓮(非:日常)
古代インドに語り継がれる叙事詩「ラーマーヤナ」、ヴィシュヌ神の化身「ラーマ王子」の愛する「シーター妃」を奪還するために耗発した羅刹羅闍「ラーヴァナ」との戦の末、羅刹の王が敗北者となり、王子と妃が運命の再開を果たした物語...
もしこの物語は運命によって定められたとしたら、それに抗えないだろうか?
時は現代日本、ある女子大学生「椎谷・蘭華」がラーマーヤナの物語(世界)に巻き込まれ、滅んだはずの羅刹の王との出会いで運命の歯車がついに再び動き出した。
彼女が思う...日常とはなんだ...と
香蓮は思った。
日常というのは辛い。
やっぱり平和な日常は何よりだと思う自分はいるが、それでも辛い。
決して非日常を求めるわけではなく、決して現実逃避したいというわけでもない。
しかし、今の日常には香蓮にとっては苦である。
大学卒業後、香蓮は一般的な企業に就職するという選択肢を選んだ。
最初の1年目にはかなり不慣れなことが多いが、上司や先輩に社会人としての仕事のやり方を教えられながら、仕事を少しずつこなせるようになった。
特に大きな問題にぶつかったり、ハラスメント的なものと遭遇したり、あらゆるブラック企業みたいなことを経験したというわけでもなく、簡単に言えば...可もなく不可もなくただ淡々と仕事をこなして、もらった給料を生活に使って、日々過ごした。たまには自分へのご褒美として何かを買ったり、美味しいものを食べたりした。
そして、時は3年が経ち、香蓮は社会人としては4年目になった。
4年目というのは新人扱いはもうされないものの、中堅までにはまだまだ経験と能力が足りないという中途半端な時期であると香蓮は今の自分の立場を客観的に見て、実感し始めた。
新人のときに学んだことがもう身に染みている。仕事もある程度任されて、自分のアイディアを出す機会も増えてきた。
なんだ...順調に進んでいるじゃないか?と思われるかもしれないが、香蓮にとってはこの日常は【苦しい】
何か足りないと実感したときの焦燥感...そして、自分の力では中々思う通りに上手く物事が進まない無力感...
だから今の日常は辛いだ。
それでも平日は出勤して、休日は休むこの日常の繰り返しからは逃れられない。
普通に働いて、普通に生活する。
これ以上の贅沢な日常なんて...ないはずだ。
しかし、彼女は辛いと感じてしまった。
そのせいか自分が卒業した大学に用事で訪れたときには気持ちが楽になった。
いわゆる学生気分を少しでも懐かしんで、味わったかもしれない。
友達と過ごした日々...はもはや3年前の話だと思うと、何もかも懐かしく感じてしまった。
さらに彼女にとって、この辛い気持ちの原因の一つはまだ大学に残されている。
それ彼女の親友であり、8年目まで迎えても卒業できるかどうかまだ分からない椎谷・蘭華である。
親友への心配の気持ちと自分の現状が混ざってどこかで苛立ちな気持ちが湧いてきた。
もし自分が親友みたいな性格なら、今はどうしているのだろう。
まだ卒業せずに自分がやりたいことを満喫しているのか?
お金はあまりないけど、楽しいことがたくさんできるとかしないのか?
それとも今より辛い思いになるのか?
全てはタラレバの話だ。
現在、香蓮は4年目の社会人で、蘭華はギリギリまで留年の大学生だ。
どっちが幸せなのかとかじゃなく、香蓮の中に親友に対して嫉妬の気持ちを抱いているかもしれない。
今でも目の前に楽しそうに語っている親友を...
元気そうな親友に比べて、私は...なんで辛いと感じるのだろうなとふっと思った。
だから相談があると聞いて、逆に香蓮は嬉しい気持ちの方が大きかった。
そんな天真爛漫で自由奔放な蘭華でも悩みがあるんだなんて...いや、蘭華だって悩みがないわけがない。
親友の私が今手を差し伸べて相談相手にならなければ、誰がやるんだ。
ここは社会人の経験を活かして、親友を助けるチャンス。
少なくともいつもの日常とは違うこの時間を今だけ浸ってもいいでしょう...たまには
そう...思った。
その実際の相談内容を目の当たりにするまでは
蘭華が見せたいものがあると言われ、彼女が住んでいるアパートまで付いてきたけど、蘭華の部屋は何回もお邪魔したというか泊まったこともあるから、ただ普通の一人暮らし女性の1DKルームだ。そうだと思って、部屋の前に来て蘭華は立ち止まった。
「香蓮ちゃん...これから見せるものはかなり驚くと思うけど、それでも大丈夫?」といつも吞気の雰囲気の蘭華は香蓮に向けて、真面目なトーンで話しかけた。
「なんだよ...ここに来てあの質問。あんたの部屋なんて初めてじゃないし...この中に何かあるとは見当がついたわよ。前みたいに捨てられた子犬を拾って、一緒に里親を探してほしいの話なら別にそんな顔をしなくても手伝うわよ。親友でしょう、私たち?」と自分が想定したことについて話して、相手を安心させようとした香蓮だったが、蘭華の様子が少しおかしい。
「そうね...前に拾った子犬のことは本当にありがとうね。今回も頼ってもいいかな?」と視線を香蓮に送った蘭華。
「もちろんよ!で?今回はどんなワンちゃんなの?」と笑みで返して、質問を返した香蓮。それに対して、蘭華は小さな微笑みでこう答えた。
「今回は子犬じゃないんだ。」と言って、部屋のドアを開けた。
玄関のライトをつけて、蘭華は誰かに声をかけた。
何を言っているか聞き取れない。
そこで香蓮は蘭華の後について、部屋に入ると...目の前の光景に体全身が固まった。
何...これ...
というか...あれは何だ?
自分が想像した捨てられた子犬を高さが部屋の天井を超えて少ししゃがんでいる巨漢にすり替えた結果、香蓮の脳内の回路がフリーズした。
「この人は...いろいろあって今この部屋に居させてもらっているけど...どう...すればいいかな」という蘭華の声は今の香蓮に届かなかった。
そして、香蓮の【日常】がかなり【非日常】の方向に変わってしまった始まりだった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
古代インドの叙事詩「ラーマーヤナ」をベースにした輪廻転生系ローファンタジーフィクションです。
日本では三国志や西遊記よりかなりマイナーですが、南アジアから東南アジアまで広く親しまれる作品です。ぜひご興味ある方は原作にも読んでいただければと思います。
今回は親友の香蓮ちゃんの話にスポットライトを当てた結果、一般人を非日常に巻き込んでしまった形になりました。群像劇を書きたいため、こうやって登場人物を別の登場人物と絡ませて、今後の展開にどう影響与えるか自分も楽しみです。4年目の会社勤めって、意外にひたすらに仕事を頑張る新人のときと違う葛藤があると思います。(自分の体験談)
ご興味ある方はぜひ登場した言葉をキーワードとして検索してみていただければと思います。
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