サンサーラ(輪廻)
古代インドに語り継がれる叙事詩「ラーマーヤナ」、ヴィシュヌ神の化身「ラーマ王子」の愛する「シーター妃」を奪還するために耗発した羅刹羅闍「ラーヴァナ」との戦の末、羅刹の王が敗北者となり、王子と妃が運命の再開を果たした物語...
もしこの物語は運命によって定められたとしたら、それに抗えないだろうか?
時は現代日本、ある女子大学生「椎谷・蘭華」がラーマーヤナの物語(世界)に巻き込まれ、滅んだはずの羅刹の王との出会いで運命の歯車がついに再び動き出した。
この世の全ての巡り合わせ(輪廻)には必ず因果が存在する。
都内の某居酒屋チェーン
スーツを着ている堅い雰囲気の中年男性とラフな格好のTシャツ姿の南国肌色のもう一人の中年男性が席に座って、メニューを見ている。このような組み合わせはかなり店内では違和感を感じる。
「では、鳥の王よ...あんたは何を頼む。」先に会話を切り出したのはアジアンレストランのオーナーのスリーヤだった。
「よせ、猿の王よ...今の私は大学教授の鳳だ...」とスリーヤの言葉に不満を感じた回答で返した。
二人の何気ない会話の中に聞き慣れないキーワードが混じっている。
Herb,Spice & Monkeyを後にした二人がやってきたのは普通の居酒屋だった。意外そうな顔をした鳳は少しため息をして、スリーヤに話しかけた。
「正直...もっとおしゃれのバーに連れていただけると期待したが...」と横に相手の顔を見て、スリーヤは笑い出した。
「まあ、話の内容によってはここがうるさくて、周りに誰も気にしないから...はははは!」
「それだといいですが、逆に変質者の会話に捉えられるかもしれませんよ。」とメガネの位置を直して、ため息をした鳳だった。
「まあまあ...それもそれで誰も俺たちの会話に不信感を持たないだろう。さあ、入りましょう。」と言葉を返して入店を促したスリーヤ。
そして、今に至った。
「では、先生よ...まず何を飲む?」と普通な質問をしたスリーヤに対し、鳳は若干難しい顔をして、スリーヤの顔を見ながら、その質問に答えた。
「そうですね...私はあまりお酒を飲まないが、ここに来たら日本の定番であるトリアエズにします。」
「分かった。じゃ、注文しますね。すみません~」と接客業の慣れかスリーヤはちゃんと店員の動くタイミングを見て、視線を合わせながら声をかけた。地味ながら絶妙なタイミングだった。
そして、店員が二人のところに来ると、素早く注文をしたスリーヤ。
「生ビール一つと烏龍茶一つ...そして、枝豆と冷やっこ...とりあえずこれで頼む。」という注文に店員がかしこまりましたと注文を繰り返して、確認してから去って行った。
「最近のバイトの子もある程度の教育でやると、こんなに丁寧に対応できるなんだね...個人営業とは全く違うんだな。感心したわ...うちのアイツもこんな感じでできるならいいけどな...ってどうしたの?先生。」鳳の表情が固まったことに気づいたスリーヤは不思議そうに問いかけた。
「ここ...居酒屋ですよね...なぜあなたは烏龍茶を頼むのか理解できなくて、私も酒があまり得意じゃないから、てっきりあなたは酒が好きで来たんだと...」という戸惑っている鳳が自分の心境について説明した。
「あ...俺、昔かなり長い間出家してね...さらに日本の主流派の大乗仏教じゃなく小乗仏教だから、酒はずっと飲んでいないよ。でも、飲み屋の雰囲気が好きでな。酒を飲まなくても楽しめる。これこそが今の酒の楽しみ方だ。」というスリーヤの持論に驚きの表情を見せた。
「驚いたな...かつて猿の王であるスグリーヴァは仏の道に進んだとは...」という言葉にスリーヤはただ微笑みで返した。
「もともと俺も王に相応しくないからな...兄者の偉大さを痛感したよ。だから、戦いが収まった後には甥に任せることにした。」とどこかで寂しそうで悲しそうな顔をした。
「あなたのお兄さんの話はあとで分かったので、私もその痛みを共感しますよ。私も...弟を失ったから。」と述べた鳳。それに何か気づいたのかスリーヤはまた鳳に問いかけた。
「じゃ、あんたは鳥の王、サムパーティの方なのか...どおりでハゲ...失礼...髪がないの特徴まで伝承の通りになったなんて。」
「さっきの言葉には聞こえないことにしますよ。そうだ。私はサムパーティの生まれ変わり...輪廻転生で現世は人間になった。自分は元鳥の王である記憶はしっかり覚えているが、他の記憶は全くないので、そこで私は今の学問の分野の研究に進めることにした。結果としては伝承と実際のことにはかなりの相違が存在すると分かります。自分の話とかあなたの話とかも...ね。」
「そうか...俺はあんたが伝承の火の鳥如く燃え尽きた灰から蘇ったかと思ったわ...はは!」という冗談に対して、鳳は少し笑った。
「さあ...私は生まれ変わりと言いましたが、どうやってそれを繰り返すかは言ってませんが...まあ、想像にお任せしますよ。あなたはどうなんですか?」
「ああ...俺は出家したと言ったな...その修行した結果、私もこの世から父である太陽神スリーヤの元に行くことができるようになった。しかし、この世界にはまだ愛着があるから、とりあえず天界とこの世界に行ったり来たりすることにした。それで今は人間の姿でのタイ国籍のスリーヤと名乗り、昔から興味がある料理に研究を重ねて、店を開いた。それはハーブ、スパイス&モンキーだ。」
「なるほど...あなたの場合はギリシャ神話でよくある半神でありながら、輪廻転生とはまた違いますね。かなり興味深い。ぜひその話をもっと聞きたいですね。」
「はは...さすが今は学者のあんたには食いついているね...とまずは飲むことにしましょうか。」とちょうど飲み物と料理が運ばれてきた。
それが置かれてから、スリーヤはガラスを上げて、乾杯の合図を送った。
「では、この巡り合わせに祝して、乾杯!」
「乾杯...」と静かにガラスをぶつけた音で小さな宴が始まった。
それから30分後...
「ハハハハハ!あんた...ビール一杯でそんなに赤くなったのか!まるで赤鳥みたいだ。ハハハハハ!」と止まらない笑い声が店内に響いた。
「失礼ね...へくっ!あなただって実際の姿は真っ赤のくせに...私は酒に強くないと言ったはずだ...へくっ!酒を飲まないあなたに言われたくありません!へくっ!」とガチでしゃっくりが止まらない鳳のビール一杯で酔っ払いになったという燃費の良さに対してめっちゃ受けたスリーヤ。
「まあまあ...今日は楽しく飲もう。もちろん、俺はソフトドリンクだけどな...ハハハハハ!」
「で...羅刹羅闍が復活した話はどうなってるのです?」と急にシリアスの話題に切り替えて、少し表情を変えたスリーヤだった。
「それならあんたの能力...【透視】を使えばすぐに分かるじゃないの?」
「そんな都合のいいことがあるはずない...だいたい相手が復活したという証拠がありますか?へくっ!」と言われたスリーヤは自分のスマホを取り出して、ある動画を鳳に見せた。
「これ...今日ニュースで紹介された動画だけどさ...スリランカのシギリヤロックでの出来事だが...このシルエットだけじゃ証拠にならないかもしれないけど、少なくともこれは人間の仕業じゃないだけが分かる。」と説明して、自分の考えを述べたスリーヤに対して、鳳も少し酔いから覚めたようだ。
「なるほど...確かにこれは...調べる価値がありそうですね。」と言ってから、鳳はメガネを外して目を閉じた。目が再び開くと、鳳の白目が輝いた黄金色に変わり、しばらくの間その状態が続いた。
真っすぐに見ているにも見えるが、でも目の先には目の前にいるスリーヤではなく、この世界ではない遠いところを覗いたみたいな様子。
「うっ!?」と突然声を出した鳳にあの様子に心配している相手のスリーヤは声をかけた。
「おい...大丈夫か?先生!」
ちょっと酔った勢いで能力を使ったからかかなり気分が悪そうな鳳から言葉が出た。
「...ここ」
「え?」
「魔王は今...ここ...日本にいる...」
「何!?どこだ!」
「すみません。酔いのせいかハッキリと言えません。」
「ああ...このときに酔っ払いで能力が完全に使えないとは...」
「あなたが居酒屋に連れて行ったからじゃないか...」
「まあ...とりあえずはっきり分かるのは復活したことが本当らしいな...さらに今この国にいること...うん...」と考え込んでいるスリーヤ。
そして、スリーヤは自分のスマホを取り出し、何かの文字を打っている。
誰へのメッセージだろうか。
「誰にメッセージを送るのですか?」とそれを見て疑問を持っている鳳の問いかけにスリーヤは次に述べた。
「俺...俺たちにとってはたった一体の羅刹でありながら、仲間だ。」
「それって...まさか...あの方も生きているのですか?」
「そう...かつて俺たちの参謀を務めたながら、魔王の弟...ヴィっ!」と会話の途中に誰かからの電話がかかってきた。
「お?噂と言えば...もしもし...なんだ...あんたか。店に何があったのか?...は!?何だと!?ちょっと待って!今すぐ店に行くから!」と電話を切った後にすぐ支度して、伝票を取った。
「悪いな、先生。ちょっと店でトラブルがあったから、先に失礼するよ。今日は俺の奢りだから、あんたがゆっくりしていてくれ。」と言ってから、店を後にしたスリーヤだった。
鳳が何かの言葉ができる間もなく店を出てしまった。
何があったんだろう...とりあえず酔いが覚めたら、もう一度力を使おうと内心で少し自分の酒の燃費の良さに悔やんだ鳳だった。
まさか...羅刹羅闍が復活して、しかもここ...日本に降臨するとは...
いったい何が起きようとしているんだ?
まさか...
終焉の伝承
最後までお読みいただきありがとうございました。
古代インドの叙事詩「ラーマーヤナ」をベースにした輪廻転生系ローファンタジーフィクションです。
日本では三国志や西遊記よりかなりマイナーですが、南アジアから東南アジアまで広く親しまれる作品です。ぜひご興味ある方は原作にも読んでいただければと思います。
なぜかこの二人の会話を居酒屋の舞台で書きたいと思って、このような形になりました。というかビール一杯で酔っぱらう人も実在するんだな...自分と真逆で興味深いです(笑)
ここから交錯する物語には作者さえも行方が分かりません(いい意味でです)。この後の展開にお楽しみください。
ご興味ある方はぜひ登場した「スグリーヴァ」や「サムパーティ」などの言葉をキーワードとして検索してみていただければと思います。
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