昔話(お鶴の話)
これは昔々の話...巫女のお鶴と農民の次郎左衛門のお話の続き
古代インドに語り継がれる叙事詩【ラーマーヤナ】、ヴィシュヌ神の化身【ラーマ王子】の愛する【シーター妃】を奪還するために耗発した羅刹羅闍【魔王ラーヴァナ】との戦の末、羅刹の王が敗北者となり、王子と妃が運命の再会を果たした物語...
もしこの物語は何者かの筋書き(運命)によって定められたとしたら、それに抗えないだろうか?
時は現代日本、ある女子大学生【椎谷・蘭華】がラーマーヤナの物語(世界)に巻き込まれ、滅んだはずの羅刹の王との出会いで運命の歯車がついに再び動き出して、心を探す旅が始まった...ぶらりと...
昔々...ある村では作物の不作を豊作に変える力を授かった豊穣の巫女と呼ばれた名も無い女性がいました。
彼女は村に連れて来る前の記憶がありません。
自分の名前さえも覚えていません。
ある小さな神社で次郎左衛門という農民と出逢った彼女は自分の力を彼に見せると、一緒に村に来て欲しいとお願いされました。
そして、名前も与えられないままに彼女は巫女となりました。
村人の皆は揃いも揃って...彼女のことを【巫女様】と呼んで、崇められました。
彼女が持つ神様に近い力への信仰心故に...名前を付けることが恐れ多いことになったみたいでした。
一人を除いて...
そう...それは彼女をこの村に連れてきた次郎左衛門本人でした。
彼が彼女を【お鶴】という名前を与えてしまった。
当初その名前にはどのような意味があるのか分からないまま、彼女は初めて誰かに与えられた名前を気に入りました。
彼女は村での生活を馴染みつつ、巫女としての務めを果たしつつ...自分が次郎左衛門からもらった名前のことが気になるようになりました。
そのため、ある日彼女は訪れた本人に直接尋ねることにしました。
「ジロウさん...」
「はい、お鶴さん...何が欲しいものがあるでしょうか?もしかして唐辛子よりもっと辛さがある香辛料が欲しいとかでしょうか?それなら...」
「なぜ...私はお鶴なの?」
「...え?」
「あのときは正直まだ言葉も全然理解ができなかったから、その名前の...そう...響きで惹かれたから、この名前を授かりました。でも、鶴とは鳥の名前だと聞きました。この辺にいる鳥でしょうか?」
「あ、いいえ...私も見たことがありません...」
「では、見たこともない鳥のことをなぜ私の名前にしたのですか?」
そう聞かれると、次郎左衛門はとても恥ずかしそうな顔をしました。
「はは...それはそうですよね。参ったな...いつか聞かれると分かったのに...ちゃんと答えられない自分が情けない...」
「あなたのことを問い詰めるつもりではありませんわ。単純に気になるだけです。言えない理由があれば、言わなくてもいいの。私は名前を変えるつもりがないから...」
「言えない理由じゃ...ただ...」
「ただ?」
「き...綺麗だったから...」
「...見たことない鳥が綺麗だとなぜ分かるの?」
「あ、いいえ...その...」
「ん?」とお鶴は首を傾げました。
「鶴はとても綺麗な鳥というお話を聞きました。特に有名な話では助けた鶴が美女に化けて、織物のお仕事を手伝ってくれる...すなわちその恩を返そうとする話が自分も子供のときから聞きました。それで...」
その説明を聞いたお鶴は目を大きくしてから、フッと笑いました。
「ふふ...それで私は人間に化けた鶴だと思いまして?」
「あ、えーと...そのときは思いました。突然いなくなったから、つい思ってしまったのです。今考えてみると、鶴というより天女の方が合っているかもしれない...あっ!」
「そうか...ジロウさんは私を見て、綺麗な鳥か天から舞い降りた者かと勘違いしたのね...」
「こっ...これ以上からかわないでください!巫女様!」
咄嗟な言葉を聞いたお鶴は今度二郎左衛門に近づくと、彼の目をジッと見つめました。
「巫女様?」と少し不満そうな声を交えながら、もっと次郎左衛門に近づいた。
彼が目を逸らそうとしても、彼女はその目線を追ってきて、さらに二人の距離も徐々に近くなりました。
「まっ...参りました...お鶴...さん。」
「ふふ...よろしい...」と満足げな顔をしたお鶴は次郎左衛門をこれ以上からかうことをやめました。
「鶴の恩返し...か...私、ちゃんと恩を返せたのか?」
「何を言っているのですか?今のこの村を見て下さい!作物の豊作で皆は飢えることなく暮らしています。さらに、他の村との商売もかなり良かったと聞きました。皆は豊穣の神様の力を感謝しています。」
「豊穣の神様のおかげ...ね...」と突然お鶴の表情が暗くなりました。
「お鶴さん...?」
「神様の力のおかげで村の皆さんは幸せになりました。そう...この力を授かり、この力が使える私は巫女としてここにいる。でも、もしこの力がなければ...私は何もない...記憶も...役割も...」
「そんなことっ!」
「なくてもいい...」
「...お鶴...さん?」
とここでお鶴は次郎左衛門の顔を見て、こう言いました。
「私は巫女なんかじゃなくてもいい...私は...私はもっと自由に生きたい!そう...記憶がなくても私の心がそれを求めている!」
「しかし...」
お鶴は次郎左衛門の手に触れて、さらにこう言い放ちました。
「私は巫女ではないただの鶴...あなただけに恩返ししたいお鶴になりたいの...どうか...私を...【自由】にして...」
次郎左衛門はお鶴の言葉を聞いた瞬間、彼の中の何かの決心が固まりました。
しばらく時間が経ち、翌朝になったときには村全体が騒ぎになりました。
その原因は...
「巫女様が消えた!」
「近くにはいないのか?」
「探したが、見つからないぞ!」
「たっ大変だ!」
「何だ!こんな忙しいときに!」
「アイツ...アイツも姿が見当たらない!」
「アイツって誰だよ!」
「じ...次郎左衛門だ!」
「何?まさか...」
「駆け落ちか!?!?」
(まだまだつづく)
今回の感想↓
昔話シリーズの最新話です!
前回は次郎左衛門の話なので、今回は豊穣の巫女...ではなく、お鶴の話の番がきました。
最初はちゃんと前回の唐辛子の話から自分の名前の由来を聞くお鶴...
途中でなんか急にイチャイチャしてんなこの2人...何これ?と作者も羨ましかったです(自分で書いたのに!?)
そこで急に雰囲気がガラッと変わって、恩返しから自分の力がなくても自由を求めるお鶴...
一応ここで伏線が回収された形で記憶がなくても自由を求める気持ちだけでこの展開にしました。
そして、駆け落ち!?!?
一体2人はどこに?
2人の運命はどうなるのか?
そ、れ、は...
もうどうなるかそれは次回の楽しみとしか言いません!
乞うご期待!
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改めて最後までお読みいただきありがとうございました。金剛永寿と申します。
こちらは「第11回ネット小説大賞」の一次選考通過作品です!
二次選考で選ばれませんでしたが、一次選考通過作品である事実は消えません。
だから今もこれからも胸を張って、誇りを持って言えます!
これを励みだと思って、前にもっと進みたいと思います。
今まで応援していただいた読者の皆様にはお礼を何回言っても足りません。
また、お陰様で...この作品は30000PVに達成しました!!!
本当にありがとうございます!
この作品を描き始めてあと少しで4年が経ちます。
それでもまだ読んでくれている読者がいる限り、やめるつもりがありません。
(もしかしたら、別の作品を書くこともあるかもしれませんが...並行にしたいです)
このような作者ですが、今後ともよろしくお願いいたします!
もうここまで来て、付き合ってくれた皆さんに御礼を申し上げます。
次回は誰を登場させるか...どのような物語と展開になるか...今後の展開もぜひお楽しみに!
この作品は古代インドの叙事詩「ラーマーヤナ」をベースにした輪廻転生系ローファンタジーフィクションです。
日本では三国志や西遊記よりかなりマイナーですが、南アジアから東南アジアまで広く親しまれる作品です。ぜひご興味ある方は原作にも読んでいただければと思います。
ご興味ある方はぜひ登場した気になる言葉をキーワードとして検索してみていただければと思います。
もし続きが気になって、ご興味があれば、ぜひ「ブックマーク」の追加、「☆☆☆☆☆」のご評価いただけるととても幸いです。レビューや感想も積極的に受け付けますので、なんでもどうぞ!
毎日更新とはお約束できませんが、毎週更新し続けるように奮闘していますので、お楽しみいただければ何より幸いです!
追伸:
実は別の作品も書いていますので、もしよろしければそちらもご一読ください!↓
有能なヒーラーは心の傷が癒せない~「鬱」という謎バステ付きのダンジョン案内人は元(今でも)戦える神官だった~
https://ncode.syosetu.com/n6239hm/
現代社会を匂わせる安全で健康な(訳がない)冒険の世界を描くハイファンタジーです。




