破片の記憶~力様~
石像が...語る
古代インドに語り継がれる叙事詩「ラーマーヤナ」、ヴィシュヌ神の化身「ラーマ王子」の愛する「シーター妃」を奪還するために耗発した羅刹羅闍「魔王ラーヴァナ」との戦の末、羅刹の王が敗北者となり、王子と妃が運命の再開を果たした物語...
もしこの物語は何者かの筋書き(運命)によって定められたとしたら、それに抗えないだろうか?
時は現代日本、ある女子大学生「椎谷・蘭華」がラーマーヤナの物語(世界)に巻き込まれ、滅んだはずの羅刹の王との出会いで運命の歯車がついに再び動き出して、心を探す旅が始まった...ぶらりと...
余は...その戦いで滅んだはず...
あの矢で...
だが、余はまだいる。
ここに...
しかし...これは一体どういうことだ...
余の体はない
実体が...ないんだ
その上に感覚は視覚と聴覚しか残されなかった。
何なんだ、この感じ...
...
記憶は確かにある...さらにある感情も...
でもその感情がどうするかとかの以前の問題だ。
ここはどこかは全く分からない...
目に見えるのは...余の見たことのない風景だった。
目ぐらいは動けるような感覚で周りを見ようと思ったが、視野が狭いせいでほぼ前方しか見えない。
と言ってもただ別の建造物が見えるだけで...自分はどこにいるかは分からなかった。
一つ言えるのは、ここは余が訪れたことがある地ではない。
いや...訂正する...訪れたとしても余が見てきた風景とは違うだけかもしれない。
少なくとも余の視野の範囲内に映った人間の肌色...顔立ち...言葉...余は見たことも聞いたこともないからだ。
ここは...どこだ...
なぜ余はここにいる...
閉じ込められたかのように...牢獄よりも恐ろしく、動く自由さえも与えられなかった。
...
分からない...
崇高なる神にお祈りしたとしても、返事がなかった。
余は...何のためにここにいる...
その答えが分かるまでは...もっともっとこの先だった。
時間はどれぐらい経ったか...
日が昇り...沈む...
幾度も繰り返したから、もう数える気もなくなった。
どうせ何も起こらない
現に今余はここにいる
動けないまま、ただ目の前に目にしているものを目視するだけ...
時間が経ったにつれ、ある日言葉を発することができるようになった。
少しだけだが...なかなか念を込めないと、声を発することはできない。
声を発することができたとはいいが、何を言う。
ここにいる人間たちにも分かるような言葉ではないと意味がない。
意思疎通ができるようにしたいが、通り過ぎる人間たちが口にした言葉しか聞き取れない。
まずは...アツイ
よく耳にした言葉だ。
全員がそろいもそろって発する言葉だ。
文句の言葉にも聞こえなくもないが...重要な意味があるはず...
その後...声を発するときはこの言葉にした。
次に聞こえてくるのはイタイ...
何々がイタイとかはよく聞こえたせいか何かを訴えるようなまた別の文句の言葉だと思うが、
それなら、この二つの言葉で何か余の現状も訴えることができる...
そのはずだった...
そのアツイとイタイはどういう意味なのかそれを知ったのはかなりその後だった。
それからか...余は移動させられたみたいで、別のところに置かれたかのようだった。
抵抗もできないから、無理矢理とも言えないまま...ただ連れ出されたとも言える...
そこはまた別の風景が見えた。
見えたのは木造の建造物は確かだが...形は今まで見てきたものとは違っていた。
移動されてからどれぐらい経ったか分からないが、今まで目視しただけの気持ちは目視から観察に変わった。
狭い視野だが、目の前の出来事はちゃんと見える。
そのおかげでいつもここを通っている人間の顔も徐々に覚えてきた。
あの人間の子供は...余を見る度に泣き出した。
あの老人の女性は決まった時期で余の前にものを置いていた。
それは食べ物だと分かったが、余にはそれを食べることができないところか空腹になったこともない。
たまに置いてあった食べ物は動物の餌となったこともあり、知らない人間がそれを取って食べたときもあった。
余には関係ない話しだが...
たまに誰かが話しかけてきたりもした。
しかし、それを答えることもなく...ただ聞いただけ...
それもまた苦しい...
何を言っているか分からないのに、こっちも何も伝えられないままで人間は去っていた。
これは何の罰なんだと今更崇高なる神に訴えてみたが、やはり何の返事もなかった。
神にお願いすることをやめた余は発することができるアツイとイタイという言葉を毎晩毎晩繰り返した。
それからは人間たちの余のことを見る目が変わった。
言葉が分からなくても、その表情は余にはよく知っている。
それは恐怖だ。
要するに発した言葉は人間たちを怖がらせたみたい...
まさに余らしいことをしたかと言われると、らしいといっても良い。
久々にこのような反応が見られて、これもこれで...【楽しい】
こうして人間を怖がらせていたある日...
余の前に訪れて、ある人間は余に水を注いだ。
水のせいで...拭き取れなくはっきり見えない視野...
不快だ!邪魔だ!
何の真似だと言いたかったが、何もできなかった。
そして、いつも言葉にしたのは...
【リキサマ】
それは余のことなのか?
余のな...名...は...
もう本名まで忘れてしまったのか。
それ以来...余の前に訪れた人間は全員揃って余のことをリキサマと呼ぶようになった。
それから同じ服装をしている人間は...毎日欠かさず...余に水を注いだ。
グウジ?と呼ばれた人...人たちだ。
その人間が別の人間に変わっても...どれほど時間が経ったとしても...同じことをしてきた。
余もそれに慣れたから、今日も来たかの気持ちで怒ることも飽きて待つことにした。
何の意味があるだろう
余には何も聞けないが、毎日長い間その行為をするのは何か意味があるはず...
じゃないと、あまりにも酷すぎる刑罰だ。
余ではなく、そうしてきた人間たちはどんな罪を犯して...こんな罰を受けるだろうと思ってしまった。
そんな罰のようなことを毎日受けた余だが...
余も観察を怠らなかった。
無論...風景が時の流れで変わった。
人間も変わった。
あの時見かけた人間の子供は大人になり、後に老人になって...余の前に現れなくなった。
そう...
人間はいなくなる...風景も変わる...
毎日注がれた水のように...流れて落ちて...なくなる。
そして、また新たな水がやってくる...
余がそう理解した途端、人間を見る目もまた変わった。
なぜか新しいことを目にすることが楽しみだと感じはじめた。
次はどのような人間が現れるだろう...
次はどのような食べ物が置いてあるだろう...
次はどんな人間が余に話しかけてくるだろう...
そう思ったとき、不思議なことに少しずつだが...人間の言葉も理解できるようになった。
長い年月聞き取ったおかげかそれとも今更崇高なる神に与えられた力なのか分からないが、それを糧に今日も余がここにいることを証明すると決めた。
ただここにいるだけでそれもまた証だ。
ようやく楽しみの気持ちが湧いてきただが、
ある何もない日...
いつものグウジじゃなく、別の人間がやってきた。
そして、その人間...人間の姿をしたアイツが口にした言葉を聞くと...
余はなぜここにいるかやっと本当の理由が理解できた。
余は...何よりも楽しみにしていたものは何かやっと分かった。
その日が訪れることをとても楽しみにしていた結果...
やっと現れた...
余...の...
最後までお読みいただきありがとうございました。金剛永寿と申します。
こちらは「第11回ネット小説大賞」の一次選考通過作品です!
二次選考で選ばれませんでしたが、一次選考通過作品である事実は消えません。
だから今もこれからも胸を張って、誇りを持って言えます!
これを励みだと思って、前にもっと進みたいと思います。
今まで応援していただいた読者の皆様にはお礼を何回言っても足りません。
このような作者ですが、今後ともよろしくお願いいたします!
もし石像の中に何者が生きていて、見ることしかできないなら...どのような気持ちになるか想像して書いてみました。(声を発することができるが...)
以上です、裁判長(何が?w)
これは前に投稿したある宮司の話とリンクさせるようにしてみたので、その話も他の話も読んで読み返してみたらいかがでしょうか?
なかなかむずいし、哲学っぽいし...なんか最近話題になったフから始まるあれの考え方とどこかで影響をもらったような気がするが...
短めにまとめると...万物流転ですね!
以上です、裁判長!(だから何が?w)
次回も乞うご期待!
もうここまで来て、付き合ってくれた皆さんに御礼を申し上げます。
次回は誰を登場させるか...どのような物語と展開になるか...今後の展開もぜひお楽しみに!
この作品は古代インドの叙事詩「ラーマーヤナ」をベースにした輪廻転生系ローファンタジーフィクションです。
日本では三国志や西遊記よりかなりマイナーですが、南アジアから東南アジアまで広く親しまれる作品です。ぜひご興味ある方は原作にも読んでいただければと思います。
ご興味ある方はぜひ登場した気になる言葉をキーワードとして検索してみていただければと思います。
もし続きが気になって、ご興味があれば、ぜひ「ブックマーク」の追加、「☆☆☆☆☆」のご評価いただけるととても幸いです。レビューや感想も積極的に受け付けますので、なんでもどうぞ!
毎日更新とはお約束できませんが、毎週更新し続けるように奮闘していますので、お楽しみいただければ何より幸いです!
追伸:
実は別の作品も書いていますので、もしよろしければそちらもご一読ください!↓
有能なヒーラーは心の傷が癒せない~「鬱」という謎バステ付きのダンジョン案内人は元(今でも)戦える神官だった~
https://ncode.syosetu.com/n6239hm/
現代社会を匂わせる安全で健康な(訳がない)冒険の世界を描くハイファンタジーです。




