○○の子の追憶(父親)
彼が語る...自分の父のこと
古代インドに語り継がれる叙事詩「ラーマーヤナ」、ヴィシュヌ神の化身「ラーマ王子」の愛する「シーター妃」を奪還するために耗発した羅刹羅闍「魔王ラーヴァナ」との戦の末、羅刹の王が敗北者となり、王子と妃が運命の再開を果たした物語...
もしこの物語は何者かの筋書き(運命)によって定められたとしたら、それに抗えないだろうか?
時は現代日本、ある女子大学生「椎谷・蘭華」がラーマーヤナの物語(世界)に巻き込まれ、滅んだはずの羅刹の王との出会いで運命の歯車がついに再び動き出して、心を探す旅が始まった...ぶらりと...
僕の父は...【ろくでなし】な者だったと...言われていた。
父は王国の王様だった。
神から授かった力で誰にも一対一での戦いは負けないほど強かった。
あの名前を全世界に轟かせた魔王さえも負けていない。
むしろ勝利したと言ってもいい。
その証には...あの魔王との同盟も結んだんだ。
すごいことだ。
さらに、父には双子の兄弟がいる。僕からにしては叔父さんだ。
強さは父には適わなかったものの、頼れる人だった。
この二人なら、この王国は安泰だと誰にもそう信じていた。
しかし...ある出来事で全てが変わった。
聞いた話だが、ある魔族との戦いに挑んだ父は一緒にいた叔父さんにこう伝えた。
「このアスラは中々手強い...お前にはここで待機しろ。」と言って、
一人でアスラが待ち伏せた洞窟の中に入った。
しばらく待っていた叔父さんは激しい咆哮が聞こえた直後に洞窟の入り口まで血が流れていたらしい。
そこで、血が濃い赤色の場合はアスラが倒された証だと...そう思った叔父さんがその血を確認すると、その血は...自分の血とあまり大差のない色だった。
叔父さんがそのとき取った行動は、できるだけ大岩を持って洞窟を塞ぐことだった。
そして、王国に戻った叔父さんは父の代わりに王となった。
叔父さんもとても良き王だった。
強さだけではなく、民を思った統治だった。
父がいなくなった僕のことを自分の子供のように接してくれた。
そのときからか...家臣たちにこう言われた。
あなたの父は傲慢でろくでなしだとか...
強さは誰も認めたけど、王としての素質には欠けている。
国のためには代わりに王になった叔父さんの方がよかったと...
確かに...もともとは短気で単純で喧嘩好きな父だ。
王としては暴君だとも言える。
力は全ての物を言うみたいな考え方を気に食わない者もいっぱいいるはず。
その父より叔父さんを王に仕立たてたい者もね...
しかしある日...父が戻ってきた。
そこからは...怒濤な展開だった。
叔父さんは国家転覆罪で追放された。
父は再び王になったが、今までとは何かが違う...
父のことを不信だと思った家臣たちは処された。
そして、より強い軍隊を作るために兵を集め始めた。
なぜそのようなことをするのかそのときは知らなかったが...
今は分かってきた。
このろくでなしと言われた王が取った統治の道は、より強い国家を作ることだと。
さらに国だけでは納められない...神々にも負けない強さを求めた。
そのような父はろくでなしなんでしょうか?
しかし、考えても誰が父を止める者なんていない...と思った。
実は、叔父さんが父に追放される前の夜...叔父さんと話すことができた。
その話の内容は僕が聞いた話とは違っていた。
裏切り者だと呼ばれた叔父さんはこう言った。
「お前のお父さんを信じていた。
自分の兄弟が負けたということよりアスラを外に放たれると厄介なことになると思ったんだ。
例えあの洞窟を塞いでも自力で脱出できると分かったからこそ、その行動を取った。
あとはそのときにはかなり動転した。もしかしたらその血が洞窟の中にある水と混ぜて色が薄くなったことも考えもしなかった。
だから、このような結果になった。これも俺が受けるべき罰だ。お前の父には恨みなんてないよ。
だって...最強の彼が俺のことを兄弟だと認めて、頼ってくれたんだ。」
その言葉を最後に叔父さんは国から去った。
しばらくして...その叔父さんは戻ってきた。
さらに父との勝負を申し出した。
父もそれを承諾した。
そして、負けて死んだ。
聞いた話だが、実際叔父さんとの勝負には勝ったが...そこにいる人間の王子が放った矢で殺されたらしく、
こうして父は落とされた命と共に野望が止められた。
その後、叔父さんはまた王になった。
そして、僕をこれから勃発する大戦に参戦するように誘った。
よりによって、魔王との同盟を破棄し、あの王子側に付くことになった。
自分の父を正義に名乗って、弓矢など卑怯な手段で殺した人間の方に付いたって...おかしいと思う者もいるが、僕はこの方を憎むことはないよ
この方もまた法の守りし者に相応しい人物だった。
その身に余る力で正しく行使しないで、神々に挑もうとした父はこの方の手で罰されるのも道理だと思った。
この方が目指す正義のためなら、僕は戦うことを決めた。
父はろくでなしじゃないとは言い切れない。
しかし...父は間違った訳ではなかった。
それは勝負に挑む前の夜...父と母の会話を覗き聞きした。
兄弟と戦うなんてすべきじゃないと説得しようとした母に父はこう言った。
「俺には神から授かった力で戦い、それしか取り柄がないんだ。喧嘩でも勝負でも全力でやるのは俺の性分に合う。例え相手は実の兄弟でも...実の息子でもな。」
これは、父の生き様だったんだ。
父は負けていない...同時に勝てもいなかった。
だから、僕も父のように戦いに全力で挑んだ。
そして、大戦が終結した。
叔父さんは少し王の務めをした後、僕に王座を譲った。
「お前にはお前の父でも俺でもない。自分らしい王になれ」
と言って、叔父さんは国を去った。
今度は2度と戻らなかった。
僕らしい...王の姿とは?
とそのときやっと父と同じ立場に立った自分がふっと思った。
今回は勝者側に立っただけであって、さらに人間の王子様も自分の正義を示した。愛する者を取り戻した。
これは...正義なのか。
いいえ、父が貫こうとした野望も正義ではないか...もしあのとき殺されなければ...
分からない。
とまだ迷いが心の中に残っているまま、ある日ある賢者と出逢った。
あのリシが語ったのは父が殺されたときに父が王子に言った言葉だった。
「あんたはこの勝負に勝ったとして、次の大戦で魔王に勝ったとしても...俺のような者が必ず現れる。せいぜい自分の正義を貫いてみせるんだな。またいつかの輪廻の中で逢おうぜ」と...
その言葉を聞いた僕は残った迷いが綺麗さっぱりに消えた。
正義とか悪とか関係ない。
父は最後までろくでなしでありながら、自分の生き様を全うした。
その父を持つ僕が正しいと思った道があれば、それを貫き通すのみだと。
叔父さんにはガッカリかもしれないけど、僕の心はもう決めた。
ラクシャーサとの同盟を結んで、人間には絶対負けない...
否!...神々さえも負けない力を手に入れるんだ!
父が実現できなかった野望を実現してみせる。
例え...どんな手段でも...僕の代じゃなくても...必ず
僕は暴君の父でも良き王の叔父さんでもない自分らしい道を歩むために...
最後までお読みいただきありがとうございました。金剛永寿と申します。
こちらは「第11回ネット小説大賞」の一次選考通過作品です!
二次選考で選ばれませんでしたが、一次選考通過作品である事実は消えません。
だから今もこれからも胸を張って、誇りを持って言えます!
これを励みだと思って、前にもっと進みたいと思います。
今まで応援していただいた読者の皆様にはお礼を何回言っても足りません。
このような作者ですが、今後ともよろしくお願いいたします!
追憶シリーズになりました。
さらに○○の子って、〇〇は誰!?
ラーマーヤナを知る人なら、すぐに推測できたと思います。
一方、それが知らない人でも理解できるようにこんな感じであえて伏せました。
様々な伝承と自分のオリジナルなアイデアを交えて仕上がりました。
その者の子の視点で物語るのもその狙いです。兄弟の話ではなく、第三者である子ども又は甥から語ることにしました。
果たして、この人物はどのような役割を担うでしょう...
中々伝承を読むと、今の時代では違う価値観も感じて...それを現代の要素も入れてみました。
次はどっなるか...お楽しみに!
もうここまで来て、付き合ってくれた皆さんに御礼を申し上げます。
次回は誰を登場させるか...どのような物語と展開になるか...今後の展開もぜひお楽しみに!
この作品は古代インドの叙事詩「ラーマーヤナ」をベースにした輪廻転生系ローファンタジーフィクションです。
日本では三国志や西遊記よりかなりマイナーですが、南アジアから東南アジアまで広く親しまれる作品です。ぜひご興味ある方は原作にも読んでいただければと思います。
ご興味ある方はぜひ登場した気になる言葉をキーワードとして検索してみていただければと思います。
もし続きが気になって、ご興味があれば、ぜひ「ブックマーク」の追加、「☆☆☆☆☆」のご評価いただけるととても幸いです。レビューや感想も積極的に受け付けますので、なんでもどうぞ!
毎日更新とはお約束できませんが、毎週更新し続けるように奮闘していますので、お楽しみいただければ何より幸いです!
追伸:
実は別の作品も書いていますので、もしよろしければそちらもご一読ください!↓
有能なヒーラーは心の傷が癒せない~「鬱」という謎バステ付きのダンジョン案内人は元(今でも)戦える神官だった~
https://ncode.syosetu.com/n6239hm/
現代社会を匂わせる安全で健康な(訳がない)冒険の世界を描くハイファンタジーです。




