竜王の試練(血の試練)
魔王が試練に挑んで得たモノとは...
古代インドに語り継がれる叙事詩「ラーマーヤナ」、ヴィシュヌ神の化身「ラーマ王子」の愛する「シーター妃」を奪還するために耗発した羅刹羅闍「魔王ラーヴァナ」との戦の末、羅刹の王が敗北者となり、王子と妃が運命の再開を果たした物語...
もしこの物語は何者かの筋書き(運命)によって定められたとしたら、それに抗えないだろうか?
時は現代日本、ある女子大学生「椎谷・蘭華」がラーマーヤナの物語(世界)に巻き込まれ、滅んだはずの羅刹の王との出会いで運命の歯車がついに再び動き出して、心を探す旅が始まった...ぶらりと...
余は、今...ある感情が余の完成していないはずの心から溢れてきた。
余の心の欠片の在処を探しに出た結果...この場所に辿り着いたが、余たちを待ち構えているのはまた別の蛇だ。
蛇の長い体が余をまとわりつくかのように余の前に次々と現れてきやがる。
おまけにこの場所に踏み込んだ瞬間、外の世界と遮断する結界が張られた。
罠と言ってもあからさますぎる...ただ外の人間が巻き込まれないためだけか?
どちらにしても愛する我が君との時間を邪魔することで余としては不快極まりない...
しかし、余の心がこの感情にさせた原因は余の前にいるナーガでも彼奴が口にした試練でもない。
余が今一番気にしているのは、全く余と同じ声を発する石像の方だ。
この石像を見たときから感じたある感情...
この感情の正体はなんだ?
長い間会えなかった友と再会が果たせた時に感じた感情に近い...が、それより近い...
肉親でもない...
まるで...そう...
自分自身との再会で感じた【楽しみ】と【恋しさ】は今余が感じている感情なんだとやっと分かった。
一方、その石像が発した言葉を聞いただけで...自分まで苦痛を感じてくる。
熱い...
苦しい...
余を解放してくれ...という言葉...
余はここで立っているのに、あの石像の中に閉じ込められて助けを求めたかのように体が熱くて苦しくて立っていられないほど苦痛を感じている。
どうなっているのだ。
なぜその石像から自分を感じたことに...さらに解放とは...
と考えた余の前にいる人間の姿をしているナーガは、手にしている物から何かを取り出した。
それは...余が今まで見てきたモノとは形が若干細くて、長いが、間違いなくそれは【剣】だ!
余の警戒心が高まった途端、愛する我が君を庇って、戦闘態勢を整えはじめようとしたとき、あのナーガがこう言った。
「先ほどお話しした通り、私も戦いを好みません。どうか武器をお納めください。」
「剣を取り出した者の言い分なんさ、信じるというのか?」と余はまだ警戒しながら、相手の動きを見る。
「あ...このカタナですか?鬼切丸と名付けられて、そちらの水鉢...力様を傷つけた剣だと言い伝えられました。まあ...実際にはこれがなければあるモノを力様の中に入れることができませんでしたが。」
それを聞いた余はある疑問が湧いてきて、あのナーガに問い詰めた。
「お主...何をした?」
「分かりやすく話すと...古の魔王という名をこの世に轟かせたあなたの心の欠片がこの神社にあると聞いた私たち、竜王は尊敬するお方のご命令でそれを一度ここから盗み、別の器に入れたということです。事前に作らせた鬼の形をしているこの水鉢をこのカタナで切り開き、欠片を埋め込みました。あなたの心の欠片には相当相性がよかったのか...まさか長い年月の経過に伴って自我まで芽生えましたよ。と言っても...あくまであなたの心の一部しかないので、あなたのようになれなくて、ただ微妙に言葉を発することしかできない石像になりました。そして、何の運命のイタズラか...この水鉢はこの神社に奉納されて、ここに戻りました。不思議な縁ですね。盗まれた破片はまさか別の奉納物として同じ境内に戻ったのは。」と説明したナーガは少し笑って、続きを話した。
「ちなみに、その欠片に込められたのはあなたのある感情の一部であり、その感情が抑圧された結果はこの力様の悲鳴になっています。」というナーガの説明を聞いて、余はもうその時点で何かを悟った。
「では竜王よ...余から何が望んでいる?」
「先ほども言いましたが、これは【血の試練】です。物騒に聞こえても仕方ありませんが、この試練では今までみたいに戦う必要がありません。あなたは正真正銘の古の魔王である証を示せれば、それで合格とします。その証は何なのか聡明なあなたならもうお分かりになったかと思います。」
ナーガの言葉で余は確信した。
こういうことか...なら、手っ取り早い方法で終わらせる。
愛する我が君をここで待たせて、心配させる訳にはいかないしな...と覚悟を決めた余はそのナーガに近づき、両手を広げた。
「お察しが早くて大変助かります。感謝いたします。では...っ!」と2人?の間ではもう考えたことが通じ合ったかのようにナーガと名乗った男は手にしている刀を構えて、余の胸に一振り刃を振りかざした。
後ろから小さな悲鳴が聞こえてきた。
ああ...愛する我が君よ、心配することがないと言いたいところだが、さすがにこのようなことでは驚かなければ、おかしいよな...
しかし、大丈夫。
よく自分の体を見ると、まるで余の心臓がある箇所だけが開いて、不自然のほど血も吹き出ない。
ただ余の心はある意味で開いたという形だけだ。
そして、ナーガはあの石像に向かって、「長い間ここで閉じ込めてしまい、本当に申し訳ありません。今からあなたを解放します。あなたの心の持ち主へ...」と言ってからすぐさまに石像の後ろにも同じ刀で一振り切った。
石像は壊れたことなく、ただタンスのように隙間が現れて、それがパッカーンと開いた。
その中を見ると...なんと!...眠っている小さい赤子が入っている!
しかし、それは普通の赤子とは違うとは一目瞭然...
なぜかというと、肌色が黒くて、顔立ちも人間には見えない...角まで生えているからだ。
そして、ナーガはその赤子を石像から持ち出して、余のところまで運んだ。
「あとはどうするか...言わなくても分かりますね...」
正直これから余がしようとすることは全て体...否...心が言うままに従っただけだ。
余は自分の体の開いた穴から自分の心臓を取り出し、心臓を赤子の口の上まで近づき、そこから滴る血が口に入って、結果的には血を飲ませた。
しばらくして、ある程度の量の血を飲んだあの赤子は目を覚めた。
その目が覚めた赤子はゆっくり余の顔を見て、満面な笑顔を見せて余に話しかけた。
「やっと自分のもとに戻れて...【楽しみ】の気持ちでいっぱいだ。余を解放してくれて...ありがとう...」と言い終わったすぐ、その赤子から石の破片のようなモノが体から出現して、余の心臓に入り込んだ。
そして、その赤子は徐々に姿が消えて、最後にはキレイな光が放って、完全に消えた。
「お疲れ様でした...これで血の試練を終了とさせていただきます。」というナーガの告げた言葉に対して、余も自分の心臓を体に戻して、そこから立ち去ろうとした瞬間、ある違和感を感じた。
「ああ...一つ言い忘れました。感情の一部を取り戻したあなたは今まで感じていない何かしらの感情を感じるようになり、たまには激しい衝動が体中に走るような感覚があるかと思います。まあ、副作用だと思って、慣らしてください。では...」と後ろからナーガの話が聞こえて、此奴はそれを言い終わった後にはその場所から立ち去った。
愛する我が君と二人きりになった余は、今自分の中に走っている感情と体感している気持ちをすぐに言葉で愛する我が君に打ち明けた。
久々に感じた...この感情...この気持ちを...
「余...今...演奏...所望する...」
最後までお読みいただきありがとうございました。金剛永寿と申します。
この作品は古代インドの叙事詩「ラーマーヤナ」をベースにした輪廻転生系ローファンタジーフィクションです。
日本では三国志や西遊記よりかなりマイナーですが、南アジアから東南アジアまで広く親しまれる作品です。ぜひご興味ある方は原作にも読んでいただければと思います。
血の試練...終了(早い!)
やっと試練の時がキタ!と思ったら、あっさり無血開城の感じになりましたね。待てよ!無血じゃなかったじゃん!まあ、試練と言いながら、全部はバトル展開とは限らないし、こんな感じも悪くないかと(ただバトルシーンが書きたくないという訳ではありません!決して…笑。)
鬼の石像の中にいる赤子
魔王が心の破片を取り戻したときに感じた感情
そして、演奏とは?
少しずつメインのストーリーにも動きつつあって、さてと…しばらく脱線するか(おい!笑)
他のキャラの話も書きたいし、どうしようかな?
もうここまで来て、付き合ってくれた皆さんに御礼を申し上げます。
次回は誰を登場させるか...どのような物語と展開になるか...今後の展開もぜひお楽しみに!
ご興味ある方はぜひ登場した気になる言葉をキーワードとして検索してみていただければと思います。
もし続きが気になって、ご興味があれば、ぜひ「ブックマーク」の追加、「☆☆☆☆☆」のご評価いただけるととても幸いです。レビューや感想も積極的に受け付けますので、なんでもどうぞ!
毎日更新とはお約束できませんが、毎週更新し続けるように奮闘していますので、お楽しみいただければ何より幸いです!
追伸:
実は新作も書いていますので、もしよろしければそちらもご一読ください!↓
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