レベル7
優秀過ぎるコア?のお陰で、私のダンジョンはパワーアップしている。
人間はまだ訪れてこない。
動物が出ては入りを繰り返し、私のお食事代くらいのDPを稼いでいる。
草原エリアは悪魔のディアが手を加えてくれているお陰で、一部を除き農園と化した。
モンスター達が畑の世話をしてくれているから、私の手が泥まみれになる事はない。
まだ食料と呼べるものは出来ていないけど、ダンジョンは気候が操れるお陰で、生育が早く収穫まであと少しと言った所。
浴室を作った事で、私の身体がはっきりとした。
うん。幼女。
それもまだ10歳に満たない。
折れそうな程、細い手足。
雪よりも白い肌。
漆黒の髪。
顔のパーツはそれぞれ大きく、将来美人さんになるだろうと思わせる造形。
ああ、これは三十路だった私とかけ離れた存在。
鏡をみても私じゃないナニかを見ているような気分になる。
生まれ変わったのだろうか?
でも、三十路だった時の記憶はある。
ダンジョンマスターに転生?
まるで小説みたいな話。
でもさ、小説の主人王たちはチーとだったり、何かに秀でている人が多い。
私は何も持っていない。
農業の知識や、内政の知識。
武器や体術、人の構造や感情の制御。
足りないモノが多すぎる。
でも、ふっとした瞬間、思考を遮断された感覚になる。
ダンマスになった事をすんなり受け入れられた事や、モンスターをみても嫌悪感すら抱かない。
何かの補正が掛っているとは思うけど、それがナニかは分からない。
【侵入者有り】
急なコアの声に、意識をモニターに向けた。
みすぼらしい服装の女性と子供。
服が濡れている所をみると急な雨にあったみたい。
「お母さん、寒いよ」
「そうね、もう少しで雨はやむから、それまでココで」
親子は身を寄せ合い、沼地エリアの入口近くに座り込んだ。
大きな樫の木を背に、雨から身を守っているようだ。
【撃退しますか?】
「撃退?」
【侵入者のレベル的にモンスターが残滅することも出来ます】
残滅……いつ聞いても物騒な言葉。
「ううん、このまま見守ってあげて」
【はい。しかし、残滅するとDPが倍になります】
人のレベルによってDPの入りが変わるらしい。
ダンジョン内で死ねばDPが多く入る。
DPが多い程、このダンジョンの評価は上がるらしい。
「ううん。このままでいいから」
村人と思われる親子をたかが一組葬った所で、入るDPはたかが知れているし、この親子が行方不明になり、探す人がココに訪れた方が、後々困る気がする。
「ねぇ、お母さん」
「なぁに?」
「あそこなんで光っているの?」
子供が指差す先に二つの光。
その光はフヨフヨと空中を移動している。
「ねぇ、コア、あれって……」
【あれはピクシーンですね】
冷静に返答を返された。
【あっ……ヤっちゃいましたね】
……なぜに?
何故にピクシーンが弓を使える?
モニター越しにあちらの様子を見える。
ずぶ濡れの親子はただ雨宿りをしていただけ。
撃退の指示は出していない。
それなのに、ピクシーンが玩具の様な弓で親子を攻撃した。
玩具の様な弓と矢。
それなのに……。
「なんて威力なんだよ、オイ」
【そうですね。一撃で頭がグシャっと】
「もう、説明しなくっていいから」
【はい、レイ様】
コアが言ったように、親子の頭はトマトを破裂させたかのように、原型をとどめず、身体の周りには真っ赤な池が広がった。
【レイ様、撃退ポイントが入りました】
【侵入者の初回残滅特典が入りました】
「初回特典?」
【はい、そして大魔王様よりコメントも届いております。お伝えして宜しいでしょうか?】
コメントって……。大魔王はヒマなの?
「ちなみにコメントを聞かないって選択肢は?」
【ございません。「ぶはははっ、君のトコおもしろい事になってるね。ピクシーンが弓で残滅だなんて初めて見たよ。与える玩具も考えないといけないね。そんな面白い君のダンジョンにこちらを進呈しよう。楽しいダンジョン造り頑張ってね」以上でございます。】
「はぁ……、なんかすごく疲れたんだけど」
【大魔王様はウィットに富んだ方ですので】
「で、何をくれたの?」
【はい、称号と偽装セットでございます】
「称号?」
【現在のレイ様のダンジョンはこのようになっております】
名前:レイ
Lv:7
Hp:500
Mp:2000
DP:28,000
称号:おもしろダンジョン
従属:ディア(悪魔族)
スキル:偽装セット
「大魔王め、完全に面白がってるじゃん」
【そうでございますね】
「スキルに偽装セットってあるけど」
【珍しいですよ。大魔王様自らダンジョンマスターにスキルをお与えになられるのは】
コアいわく、大魔王は基本傍観者らしい。
傍観者と言われても、既に何度かコメントをいただいている身としては、ピンとこないけど。
スキルの偽装セットは、ダンジョンの中でも外でも使える優れものらしい。
なかなか良いアイテムを貰えたっぽいけど、ダンジョンの称号を考えれば、チャラな気がする。
【レイ様、撃退されてしまった人間の処理はいかがいたしますか?】
「どんな事が出来るの?」
【ダンジョンの栄養として吸収させる。または、合成素材として保管する。あとは、見せしめに放置する。今の所、このダンジョンで出来るのはその3点になります】
見せしめって、物騒だな。
「合成素材って言うのは?」
【モンスター召喚時に、その素材を基に構築する事です。DPの消費を抑える効果と、稀にレアな個体になる場合がございます】
「じゃ、いったん保管で」
【承知しました】
コアの声と共に、先ほどまで倒れていた2つの身体は地面から消えた。
でも、真っ赤に染まった地面には、痕跡が残されている。
ダンジョンに入ってすぐに血痕。
物々しさが残る。
「コア、血痕って消せないの?」
【消せます。消しますか?】
「うん、お願い」
【承知しました】
血痕が消えた地面。
それを見ても何も感じない私。
やっぱり普通じゃない。
そう思える思考があることが不思議な程、私の心は平常心だった。
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