プロローグ
目が覚めたら、書こうとしていた小説が、いつのまにかwebにUPされていた。
間違いなく、私の名で。
そして、私が思い描いていた展開で。
いつ書いたのだろう。
昨晩、書こうと思い、パソコンの電源を入れたのは覚えている。
だが、その後の記憶がない。
ここのところ、ずっと残業が続いていて、疲れていた。思ったほど頭が回らなくて、一行も書かずに布団に入ったような気がしていた。
だが、小説はいつの間にか執筆されていた。
私のパソコンから、しっかりと投稿されている。投稿されている小説サイトも、私が利用しているもので、使っているペンネームも私のものだ。
小説を書いていることは、同居している妹の真奈美は知っている。だが、真奈美は、私の書いた小説に興味を持ったことはなく、私の代わりに投稿したとはとても思えない。
第一、仮に誰かが私の名で投稿したとして、私が考えていたような話になるのだろうか?
しかも、なぜ、私の名を騙る意味が分からない。
私は、あくまでアマチュア作家であって、プロではない。
小説サイトの中でもいわゆる底辺という位置で、人気はそれほどなく、たいして読まれているというわけでもない。
不思議に思ったが、ひょっとしたら、自分が覚えていないだけかもしれない。
そう思った……最初は。
気が付けば、毎夜、パソコンの電源を入れてすぐ、記憶が途切れるようになり、朝起きてみるとサイトに投稿されている……そんな日々が続く。
自分が思った通りの、予定通りの展開だ。
私は、むさぼるようにその小説を読む。何故、という気持ちはある。だが、それ以上に、自分が求めていた小説が、間違いなくそこにあり、私は読むのに夢中になった。
だが、しだいに佳境にせまる小説を読みながら、私は身体の不調を感じ始めた。
いくら寝ても寝た気がせず、食が細りはじめた。
ひょっとしたら。小説が完結してしまったら、私はどうにかなってしまうのではないだろうか?
途絶えることなく日々更新される小説を読みながら、そんなことを考えていた。