走る(怠惰物語)
走る、走る、走る。全てを呑み込む黒の世界。前後左右、どこを向いても何も見えない。ここはどこなのかも、分からない。一つ分かることは、自分が得体の知れない何者かに追われていて、そいつから必死に逃げているということだけだ。
ヒィ、ヒィ、フゥ… 息が苦しい。そろそろ限界だ。このままでは追いつかれてしまう…。不安と恐怖が走る。しかし、あることに気付く。今自分と奴との間にはどれくらいの距離がある…。必死に走りながら何とか耳に力を向ける。足音が遠いような、、、いや急に大きくなった!!いやまた小さくなった…。なんじゃこりゃ!!!
結局の所、何も見えないせいで全く距離感が掴めない。くそ…。どうする、どうする…?
その時、ふと突然に、ポケットに懐中電灯があることを思い出した。走りながらそれを手にし、作動するか試す。良かった。奥までは無理だが、多少なら照らせる。この光を後ろに向けて、奴がどこにいて、そして何者か確かめてやる…!
男は一旦立ち止まり、後ろを振り向いて懐中電灯を照らす。そこに映っていたのはーー
辺り一面漆黒の世界。音は、どこからも、発することはなくなった。