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ハムスターになった私

作者: 渡辺哲

 私の名前は、山口あんず。高校二年生。

 人生、お先真っ暗。私、頭悪いし、デブで、ブス。毎日、怖いし、消えたい。死ぬ勇気はないけど、現実から逃げたい。

 朝、目が覚めた。思わず叫んだ。

「ここは、どこなの!」

 私は辺りを見回した。ピンクの透明パネルに囲まれていた。そして、自分の手を見た。白い毛が生えていて、指は四本。周りで何か動いた。ハムスターだった。透明パネルから外を見た。私の部屋だった。私はつぶやいた。

「私はハムスターになったんだ」

 その時、ハムスターたちが近寄って来た。

私は二匹のハムスターを飼っていたけど、まずオスのハムスターが私の前に立った。

「ようこそ、俺達のケージへ。俺の名前は『ボス』だ。仲良くやろうぜ」

 続いて、メスのハムスターが頭を下げた。

「私は『小雪』。仲良くしてね」

 私は言った。

「私は、本当は人間なのよ。あんたたちの飼い主の山口あんず。わかる?」

「どこから見ても、あなたはハムスター!」 

「私は人間なの。人間にもどりたい!」

 ボスは言った。

「無理だ。お前はハムスターとして生き、そして、ハムスターとして死ぬんだ」

「ハムスターの寿命って、どれくらいなの?」

「長くて三年。でも、いつ死ぬかわからない」

「そんな・・・」

 ボスが両腕を胸の前で組んで、言った。

「こんな風に考えるのがいいと俺は思う。現実として、俺達ハムスターは三年後に死ぬかもしれないし、今晩死ぬかもしれない。どちらか、わからない。こうした現実を踏まえると、一番いいのは、『今晩、寝ている間に自分は死ぬと考えること』だ。今日一日、自分が本当にやりたいことをやる。そして、今晩寝て、明日の朝にもし目覚めることができたら、その日も全力で生きる。それを繰り返すんだ! 俺もお前も同じ『いのち』だ。他人の評価なんかどうでもいい。全力で生きればそれでいい。大丈夫! 一緒に頑張ろう!」

 その時、小雪が叫んだ。

「誰か、来たわ」

 私が見ると、それは兄さんだった。私は声の限り、叫んだ。

「兄さん! 助けて! ここから出して!」

 兄さんは私を見て、つぶやいた。

「あんずが新しいハムスターを買ったのか?」

 そう言うと、兄さんは立ち去って行った。

 私は思った、「ここから逃げ出すんだ」と。そして、私はケージを引っ掻き始めた。シャリ、シャリ、シャリ。いくら引っ掻いても、プラスチックのパネルはびくともしない。

 小雪が私に言った。

「ここから逃げるのは、絶対無理よ」

 だけど、ボスが言った。

「君は人間だったって言っただろ? 君は知性を持っている。この危機を乗り越える知恵と勇気を持っている。考え、行動するんだ!」

私は腕を組んで、考えた。そして、思いついた、「そうだ。死んだふりをするんだ」と。

 私は死んだふりをした。しばらくすると、兄さんがケージに近づいて来て、私を見た。

「あれ? このハムスター、死んでる?」

 そう言うと、兄さんはケージの蓋を開けて、私をつかんだ。兄さんの手の平の上で死んだふりをしていると、兄さんがつぶやいた。

「よし、よし。死んだハムスターを処分してやったら、あんずも文句は言わないだろう」

 その時、私は思い出した。兄さんは蛇を飼っているんだということを。

 その蛇は「コーンスネーク」という種類で、長さは約一メートルもある。

私は兄さんの言葉を思い出した。

「あんず。蛇の餌は何か、知っているか? 『ピンクマウス』と言って、生まれて間もないマウスを冷凍したものだ。これをビニール袋ごとお湯で解凍して、蛇に食べさせるんだ。だけど、生きているマウスをそのまま食べさせてもいいんだ。ハムスターもオッケー」

 私が蛇の餌のことを思い出している間に、兄さんが私の部屋から出て、自分の部屋に入っていく。ハムスターの私は兄さんの手の平に乗っていて、死んだふりをしている。

兄さんは自分の部屋に入ると、蛇の入っているケージの蓋を開けた。そして、私を蛇の真上に持ってきた。蛇が近づいてきて舌を口からチロチロと出して、私の頭を舐めた。

「まさか、蛇に私を食べさせるつもり?」

 その瞬間、私は飛び起きて、兄さんの手の平から飛び降りて、全力で走って逃げた。私は壁にぶつかり、意識を失った。

 やがて、私は目を開けた。そこは私の部屋で、私は人間だった。

私はハムスターのケージに近寄って、ボスに向かって両手を合わせて誓った。

「私、生まれ変わる。全力で今日を生きる!」

 ボスが私を見て、拳を握って片手を掲げた。

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