第二話
【オケラ】ってなんだ?の説明回です。
無事に前哨へ物資輸送の依頼をこなしたノンとデモッチの二人。
あとは街に帰り物資の受領書を提出して依頼料を受取り、
行き掛けに得た解放軍の偵察用ドローンをパーツごとに解体、
ジャンク屋に持ち込んで換金するだけである。
帰路は空荷であり、物理的にも心情的にも彼らの足取りは軽かった。
それもそのはず。
久しぶりの纏まった金が入るからである。
爪に火を点す様な生活をし、
コツコツと貯めた資金でようやく中古の軽トラを購入。
荷物運びなどの日雇い仕事で糊口をしのぎ、
やっと武装一式(最低限)を揃えての初仕事であったからだ。
これでやっと少しはマシな食事にありつけるわけである。
もっともガレージ(*1)の敷地の隅での
軽トラ荷台青空テント寝袋生活はまだまだ続ける必要はあるが...
さて、何故二人はここまで経済的に困窮するのか。
それは第三次世界大戦によって崩壊する前の出来事に起因する。
戦前、主要な国家は須らく高い失業率と(一部の業種で)高い求職率という
需要と供給のミスマッチに悩んでいた。
各国は発展途上国からの労働力輸入などの政策を取ったが、
結果は無駄な社会保障費の増大や、犯罪率の上昇と言った
安定には程遠い結果をもたらした。
そこで注目されたのは、
【AIによる職業適性診断】(*2)
であった。
本人の適性と希望を鑑み職を斡旋する。
希望と適性が余程乖離していない限りは、
可能な限り本人の希望通りの要求が通る為、
特に問題は起こらなかった。
また、稀に表れる“適性無し”な人物は
豊富な職種が用意されていた戦前では問題無く、
適切に対応されていた。
これが戦争により世界が崩壊し、
世の中に余裕が無くなると同時に労働人口の減少と言う情勢に向き合うため、
“職業適性診断の絶対視”が生まれるようになった。
そして、その適性診断から“適性無し”と判断された者は正規の職業には就けず、
命の危険のある荒野に乗り込み、生きる糧を得なければならないのである。
更に荒野で生き残るには大別して六つの職業が存在する。
車両の運転適性がある【ドライバー】
各種武器の扱いに適性のある【ソルジャー】
機械修理“特に応急修理”に長けた【メカニック】
即席の武器や機器を作成できる【エンジニア】
救急医療のエキスパート【レスキュー】
荒野を旅する商人【トレーダー】
それぞれの職業の特徴を簡単に説明すると上記の様になる。
これらの六大適性に弾かれた者は、
万年金欠であることも揶揄する言葉である、
【オケラ】(*3)と呼ばれ、蔑まれるのである。
ノンとデモッチの二人は正しく【オケラ】であった。
(*1)ガレージ
車両の補給、修理、改造、メンテナンス等を行う場所。
ノンとデモッチの二人はガレージの経営者である“おやっさん”の厚意で、
ガレージの敷地の隅っこに車を置くことを許可されている。
(*2)職業適性診断用AI
最小行政単位(現日本に合わせるなら市町村単位)で多数設置されており、
かつ不正防止の為にオフラインでの運用であった為、
戦中の混乱やDウィルスによる被害も少なく、
現在でも稼働機器は多数残っている。
(*3)ケラ
バッタ目・キリギリス亜目・コオロギ上科・ケラ科に分類される昆虫の総称。
夏が近づくと「ジー………」と鳴く昆虫。
この昆虫は、遊泳し、疾走し、跳躍し、飛翔し、鳴き、穴を掘る、
と言ったように多芸だが、どれもが一流ではない。
この器用貧乏な様を「おけらの七つ芸」と呼ばれる。
また、所持金が無い状態を「おけら」と言う。
本作の【オケラ】はここから来ている。
次はオケラ達の街での生活です。