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颱(たい)の国の六の姫  作者: やまの あき
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1. 六の姫

初めまして。

初投稿です、よろしくお願いいたします。


あまり頻繁に更新できないかもしれませんが、ご容赦ください。


お楽しみいただければ幸いです。

1. 六の姫


 その姫が生まれたときに、生みの母は命を落とし、すでに多くの皇子も姫もいるため、父である王に見向きもされなかった。

そうして名前さえ授からなかったため、「六の姫」~六番目に生まれた姫~と呼ばれていた。


 この国には『七の姫が七の年の七の月に国が荒れる』という言い伝えがあったので、本当は七番目の姫であったが、一番上の姫がすでに嫁いでいたので、「六の姫」であるとごまかしていた。

それは姫の母が亡くなる前に、ばあやに頼んでいたことであった。


姫の母の実家はすでに没落しており、妊娠が分かったころには王の寵愛も離れていた。本当に1~2週間の寵愛で、妊娠したのは残念としか言いようがなかった。子さえいなければ、市井に降りる道もあったのだが。


それでも後宮の離れで、ばあやに7歳になるまで育てられた。ばあやは「姫の母の侍女」だったが、母が亡くなり、後ろ盾もなく、面倒を見る人が誰もいないので、そのまま「姫のばあや」として一緒に過ごしていた。最も、その生活は王の娘のものとはいえず、ばあやとしては、姫が突然市井に出されても生きていけるように、なんでも自ら出来るように躾けていた。

 離れの小さな台所では料理も、裏庭の水場では洗い物も洗濯も、自分の部屋の掃除さえ習っていた。着る物も、ほかの姫たちのよう高価なものを誂えてもらえるわけではなく、ばあやに教えられ、一通りのものは自分で縫えるようになっていた。


この年、姫は七歳。七の月も無事すぎ、もうじき8歳になろうという朝、ばあやが寝台から起きてこなかった。六の姫は、ばあやがどうしたか判らず、声をかけても目を開かないばあやを心配して、時々離れに様子を見に来る女官長を呼びに行った。


****



 そうして、何もかもが変わってしまった。


優しく諭すように話をしてくれるばあやがいなくなって、何日も人と話すことがなくなった。手伝いは来ないので、何もかもを一人でする。 それはとても寂しいことだった。 裏庭に一輪花が咲いたことも、刺した刺繍が綺麗に仕上がったことも、誰とも気持ちを通わすことができない。


ばあやの葬儀はよく分からないまま終わってしまって涙も出なかったが、ふとした時に涙が流れて止められなくなる。姫には気持ちが沈んでいく感覚をどうすればよいのか分からなかった。

それでも、ばあやに教えられた通り、台所で自分の食事を作り、洗濯をし、縫物をして、毎日を過ごしていた。



****



 六の姫は、その日も人の気配のなくなった離れで目を覚ますと、自ら朝餉を作るために台所へ入っていった。

が、そこにいつものように食材は用意されていなかった。朝早くに、王宮の厨房の下働きの者が届けてくれることになっているのだが、その日に限って何も届けられていなかった。


姫は、厨房まで食材を取りに行ったものか悩んでしまった。女官長には、何か特別なことがない限り離れを出ないように言われていたのだ。おまけに、後宮内とはいえ、供もつけずに一人歩きは良くないとも言われていた。しかし、姫は一人で暮らしているし、食べ物がないのは特別な何かではないのだろうか。結局、悩んでその日は前日残ったパンのような焼き菓子を食べて我慢することにした。

明日も届かなければ厨房まで行ってみよう。そうして、お茶で硬くなった焼き菓子を流し込み、いつもと同じように洗濯、掃除や縫物をして過ごした。



翌朝、身支度を整て台所へ入って驚いた。食材ではなく、一人の青年が立っていたからだ。


「そなたは何者だ」


その男が姫に問いかけた。貴公子然とした年若い男は、尊大な口調で続けた。


「私は、前王の末の息子だ。翔生しょうきという。この離れは使われていないと思っていたが‥」


六の姫は慌てて腰を折り頭を垂れた。


「わたくしは六の姫と呼ばれております。ここで一人で過ごしております」


「ふ~ん。水をもらえないか? のどが渇いた」


「かしこまりました、少々お待ちください」


姫は、湯飲みを手に外の水場へ行き、翔生のために水を汲んで戻ってきた。


「冷たくてうまいな。


翔生は一口飲んで、嬉しそうに言ったが、ふと眉をひそめて問うた。


なぜ、六の姫自ら水を汲みに? 侍女はいないのか?」


「ですから、ここにはわたくし一人でございます。」


そう告げると、翔生は驚いたように目を見開いた。




説明ばかりで、1話が終わるかと思った。

なにかが始まりそうで良かった。

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