第三小節:少女と少女
第三話です。
よろしくお願いします。
アリアは現置係を出ると、そのまま一階の斡旋係へと向かった。
斡旋係の前には小さなホールが有り、仕事を探しに来た待つ者や終了の報告に来た者、また暇を持て余した者など様々な傭兵達が思い思いに過ごしていた。
その中を係員の居るカウンターに行こうとするアリアに誰かが声をかけてきた。
「あんた…、アリア?」
その声を聞いて相手が誰なのか判ったのか、アリアは足を止めた。
しかし、その表情は憎々しげに歪んでいる。
「ちょっと、アリアなんでしょ?」
再び話しかけてくるがアリアは、まるで気づいていないように歩き出す。
「ちょっと!ねぇってば、アリア!!!」
相手は、なおも話しかけてくるが、アリアは無視して進み続ける。
「無視してんじゃ無いわよ、この貧乳!!」
「なっ!?」
いきなりそんな事を言われて、アリアは赤面しながら振り向いて相手を睨み付ける。
彼女の前に立っているのは、革で出来た軽鎧(『ライトレザーアーマー』と呼ばれる物)を身に付けた少女であった。
年の頃は、アリアよりも少し上の15歳前後。
系統は違うが、アリアに劣らない美少女であった。
アリアの雰囲気を名家の令嬢と例えるならば、もう一人の少女は野生の猫科の動物のような印象を見る者に与えた。
因みに胸は二人とも年相応なので、それ程たいした違いは無いのだが………。
「いきなり失礼な事言わないでよ『リディア』!!」
アリアは、『リディア』と呼んだ少女に向かって言い返す。
「それに、わたしの胸はまだまだ成長期なんだから!!あんたみたいにお先真っ暗じゃ無いのよ!!!」
と言い放つ。
因みに『ビシッ!』とばかりに突き出した人差し指が指す位置は顔ではなく、もう少し下の方である。
「なっ!?なぁんですって〜〜〜!!!」
屈強な傭兵達が『生暖かい目で』見守る中、美少女二人の恥ずかしい言い争いはしばらく続くかと思われた。
が、鋼で出来た大鎧を着込んだ一人の大男が二人に近づいて行き
ゴッッ!!!
ガンッッッ!!!
と不意に終わらせた。
アリアとリディアは痛む頭を押さえながら、乱入者を上目遣いで睨み付ける。
因みに、二人ともナミダ眼だ。
「いった〜〜い」
「なんでアタシもなのよ〜『ゴルド』」
二人は口々に不平を漏らす。しかし、リディアにゴルドと呼ばれた大男は気にした風も無く
「け、喧嘩両成敗だよ、リディア」
と応える。
少しドモッてしまったのは、この男なりに動揺しているからだろうか。
しかし、表情には殆ど変化が見られない。
「いたたた…。久し振りね、ゴルド。まだ、こんなのと一緒に居たんだ」
アリアは頭をさすりながら、大男に右手を差し出す。
「あ…、うん」
少し赤くなりながら、ゴルドは差し出された手に応じるように握手する。
アリアのような美少女に握手を求められれば、赤面しない男は少ないだろう。
だが、彼が赤面している本当の理由がそんな事では無い事はアリアだって解っている。
なにしろゴルドは握手しながらも、チラチラとリディアの方を見ているのだから。
もっとも、とうの本人である少女は、まったく気づいていないのだが。
「こんなのってなによ、こんなのって!!」
リディアが再びアリアに噛みつくが、ゴルドが両手を上げ始めると黙り込んでしまう。
代わりにゴルドを上目遣いで睨み付ける。
ゴルドは困ったような表情で「あ…」とか「イヤ…」とか言っている。
見かねたアリアは、溜め息をつきながら助け舟を出してやる事にした。
「どうでも良いんだけど…。あなた達も依頼を受けに来たんじゃ無いの?」
「あ、そうだったわ。行こう、ゴルド」
ゴルドの手を引きながら、リディアはカウンターに向かって歩き出した。
明らかに先程よりも顔を赤くしながら、彼は引っ張られていった。
まったく、解りやすい青年である。
やれやれといった感じで、アリアは再び溜め息をつくと、自分もカウンターへと向かった。
アリアはシュルツに聞いた漁村の調査依頼の受注申請をすると、ホールに戻り手続きが終わるのを待つ事にした。いつの世も、お役所仕事とは時間がかかるものだ。
暫くすると、リディアもホールに戻って来て、アリアの座るテーブルへとやって来た。
喧嘩するほど仲が良いとは言うが、二人の少女の関係もそういったモノなのだろうか。
「あぁぁ…。この待ち時間って、なんとかならないのかしらねぇ」
「仕方ないでしょう。お役所仕事なんて、そんなモノなんだから」
来るなりグチりだすリディアに、アリアは『諦めた』といったように答える。
「そうなんだけどさぁ〜。ヒマなんだも〜〜ん」
リディアは溶けたようにテーブルに突っ伏すと、気怠そうにイヤイヤする。
まるで『縁側でゴロゴロする猫』である。
「も〜、あなたのダラダラした感じが伝染するでしょ〜」
とうとうアリアもグッタリとテーブルに突っ伏してしまう。
テーブルに突っ伏して、ウダウダとしている美少女二人…。
………かなりシュールである。
「…二人とも、何してるの?」
遅れてやって来たゴルドは、二人の様子を見て首を傾げる。
「「ヒ〜マ〜な〜の〜〜」」
二人は声を合わせて答える。
やはり仲が良いのであろうか…。
「まあまあ、二人とも。これでも飲んで待っていようよ」
と、ゴルドは冷たい飲み物を差し出す。
「ありがとう、ゴルド」
「さんきゅ〜」
口々に礼を言いながら、飲み物を受け取る二人。
アリアはグレープジュース。リディアは牛乳である。
年の割に伸び悩んでいる身長を、リディアは気にしているのだ。
なにしろ、三年ほど年下のアリアと殆ど変わらないのである。
それに、胸の成長にも良いらしい。
乙女心は複雑なのである。
因みにゴルドはビール。
いくら飲んでも酔わない『酒豪』である。
しばらくホールで話しをしていると、ギルドの係員がホールに入って来た。
申請の完了を伝えに来たのだ。
「アマ村調査の依頼を受注された方。いらっしゃいますか〜」
アリアが受けた依頼である。
係員の方に行こうとアリアが立ち上がった時、同時に二人が立ち上がる。
顔を見合わせる三人。
「なんであなたが立ち上がってるのよ?」
「どーしてアンタが立ち上がんのよ!?」
「え?一緒の依頼?」
三人が疑問の声を上げる。
どうやらゴルドだけは、状況を即座に理解出来ているようだった。
いかがでしたでしょうか?
シュルツに続く新キャラクターの登場でした。
なかなか戦闘シーンに移らずアリアの活躍が有りませんが、違った活躍をしてましたので許して下さい。
これからも頑張って行きますので、よろしくお願いします。