異常事態とかいうドテンプレ
いつもどおり俺とフィーネとニアの精霊術で隠密状態となり、奇襲からの連携攻撃という黄金パターンで俺たちは狩りを進めていた。
「ちぇいあ!」
「ギィイ!?」
以前から変わった点と言えば、差し込める隙があったら俺も魔力強化して魔獣を殴ったり蹴ったりして一応加勢しているところだろう。
二回目の訓練の時からドジャーの精霊のレッドに徒手空拳の教えをたまに乞うているというわけだ。
レッドいわく、タイミングとリズムが重要らしいがあまりピンと来ていない。
リズムゲーならちょっとくらいやったことあるんだがな……。
まぁとりあえず、俺も進歩してるってことよ。
「よし、今回も怪我無く終わったな。大分いい形になってきたんじゃなーい?」
「そうね。記憶喪失前のスレイとは比べることもおこがましいけど、普通のグループ戦としてみれば及第点じゃないかしら」
最近分かったのだがフィーネは戦闘のことになると無意識なのかどうかはしらんが結構辛口だ。
記憶喪失前、つまり俺が憑依する前のスレイと今の俺を比べる傾向がある。スレイが如何に偉大だったのかを延々と語ってくださるのだ。
もう慣れたもんだが。
「ねぇ、スレイ。腰の剣は使わないの?」
「え、なんだよニア。いきなり下ネタか?」
「違うよ! そそそ、そう言う意味じゃなくて、剣でどうして魔獣を攻撃しないのかって聞きたかったの。ほら、徒手空拳よりもリーチあるし剣の方が便利じゃない?」
ニアをセクハラしながら俺は大きくため息を吐いた。
ああ、それな。俺も剣術で戦う自分に憧れてた時期がありましたよ。
「……なんかさ、咄嗟に抜こうとしたら前みたいに切っ先が引っ掛かるんだよ。で、じゃあ最初から抜いておいて攻撃にしようかと思って、いざ振りぬこうかとしたら木に引っ掛かったり誰かに当たりそうになるし。あと、なんか知らんが魔力強化して意識して握ってるのによく取り落とすんだ」
「呪われてるんじゃない?」
「あ、ニアもそう思う?」
そうなのだ。がんばって剣を使おうとすると何故か良くないことが起こるのだ。
例外的に魔獣から魔石を取り出すときに限っては普通に棒状の刃物としての役割を十全に発揮するのだが、戦闘時は面白いくらい役に立たない。
この剣、フィーネに聞くところによるとスレイのためにあつらえた良い剣らしいのだが……宝の持ち腐れとはよく言ったものだ。
今のところ解体用ナイフとそう値打ちが変わらない……。
いつか活躍してくれるといいんだが。
気を取り直して俺たちはもう一度隠密モードになる。今日は結構魔獣との遭遇率が高い。
油断するとケガをするかもしれないのを感じ取っているのかみんなの表情がいつもよりも少し緊張感がある。
程なくしてまた魔獣と遭遇した。まだ午前中なのに七度目の遭遇である。
いつもなら午前と午後で七度くらいの遭遇率なので、ざっくりいつもの倍遭遇している計算になる。
だが、やることは変わらない。
遭遇した魔獣は俺が最初に出会った鹿タイプの魔獣だ。今回は赤色で前よりも一回りでかいが一匹だ。
二匹以上になるとたまに連携を崩されることがあるが、一匹相手で奇襲から始められる俺たちは逆撃を受けたことはない。多分楽勝だろう。
俺はすっかり板についたボディランゲージとハンドサインで指示を出し、全員で駆け出した。
レッドの火球が虚空から現れて魔獣をとらえる。
背後からニアがダガーを放ってそれが背中にすべて刺さった。それに怯んでいるところに俺とドジャーが距離を詰める。
ドジャーの拳が魔獣の鼻と顎を打ち抜き、俺が横っ腹に蹴りを叩きこむ。
そしてフィーネがすれ違いざまに切り捨てた。魔獣は脚を折って座り込んだ。
いつものパターンだ。綺麗に決まった。
ここまでは。
「浅い! 仕留め損ねた!」
すれ違ったフィーネがそう叫んだ時には魔獣は体を起こし、俺の方を向いていた。
突然だが下級魔獣と中級魔獣以上には明確な違いが存在する。
精霊術を使えるか使えないかだ。
「ギイイイ……!」
鹿の魔獣の口元に炎が生成され、魔力が渦を巻く。
魔獣の眼前で超常の力が産声を上げる。
「中級魔獣! うそでしょ!?」
ニアが叫ぶと同時にダガーを投げる。
蹴とばしたのが悪かったのか俺の位置は魔獣と少し離れている。殴りかかるにも斬りかかるにも少し遠い。
仕方ないので俺はニアに倣って鞘ごと剣を投げつけた。
さらに横合いから駆け付けたドジャーとレッドが魔獣をぶん殴る。
「キギャッ」
一連の攻撃で大きく体制を崩した状態で魔獣の精霊術は発動した。
炎は放たれ、幸いなことにメンバーの誰にも接触せずに俺の後ろの樹木に当たって爆散した。
樹木は半ばほどで折れ、パチパチと音を立てて燃えている。
「今度こそ!」
フィーネが裂帛の気合と共に剣閃を走らせる。
魔獣の首からおびただしい血を吹き出しながら落ちた。強い生命力を見せた魔獣だったが今度はもう動かなかった。
だが、安堵しているメンバーは俺を含めて一人もいなかった。
「なあ、おい。精霊術使ってきたぞ? 話違くね?」
「そうよ。絶対おかしいわ。結界の中には中級以上の魔獣は入れないはずよ」
「でも現れた。……結界が壊された? いや、それならさすがに学園側も気付くよね。結界は中級以上の魔獣が触れると学園に知らせる機能もあるらしいし」
「兄弟、とりあえず魔石だけ抜いて一旦戻ろうぜ。なんかおかしい」
ドジャーに言われるまでもなく、さっさと中級魔獣の魔石をこれまでの経験値を遺憾なく発揮し、結構なれた手際で取り出して魔石入れのカバンに放り込んで、来た道を引き返す。
いや、引き返そうとした。
「グルルルル……」
「アウッ! アウッアウッ!」
「キキャーアッ! キャキャキャ!」
「……おいおいマジかよ。導かれてるな、これは」
周囲を見回すと、隠れていたのか複数の魔獣に囲まれていた。ひーふーみーよー……ざっくり数えて、八匹……こっちの倍の数だ。
下級魔獣でもこれだけの集団を相手したことはない。おまけに隠密状態ではないため、いつもの奇襲戦法は現状取れない。
マジかよ、これはまさかテンプレラノベ展開の一つじゃねーか!?
訓練中に出るわけのない強力な魔物が出てきて、それを主人公がかっこよく倒してすげぇ! って言われるやつ。
くそっ、いつか来るイベントだとは思ってたけど予兆もなしに来るのか!?
ああ、今すぐ密林な宅配で『摂理破壊の精霊使い』をお急ぎ便で注文したい!
いや間に合うわけねぇな! 異世界にも宅配しろとも言えねぇしよ! 異世界とか遠すぎだろクソがっ!
「キァーッ!」
やがて一匹の魔獣がフィーネに襲い掛かってきた。サル型の魔獣だ
「くうっ!」
サルの魔獣の鋭い爪をフィーネが剣で防ぐ。その間に他の魔獣が距離を詰めてくる。
数は三匹。内二匹はドジャーとニアに襲い掛かり、もう一匹はもちろん俺の方に来た。
ここにきて魔獣とガチタイマンとかマジかよ!? 下級魔獣ですら三人に見守られてひっくり返されたこの俺が!?
「ガルルルル!」
「うおおおお!?」
俺の相手は犬型魔獣だ。淡く青みがかった毛並みをしているそいつはいきなり俺にとびかかってきた。
なんとか横っ飛びで俺はそれを避ける。
そこへ犬型魔獣が俺へと追撃をかけようとしたがレッドが殴りつけてそれを阻止した。
「大丈夫か? このワンコロの相手はお前にはまだ荷が重かろう」
「レッド、いやレッドさん、助かったぜ!」
思わず俺は敬称を付けなおしてレッドさんに感謝を述べる。今のは危なかった。
つーかやばい。俺が魔物に襲い掛かられる事態もやばいが、全員がタイマンの状態がヤバイ。
対峙している魔獣連中の他に自由になっている四体がいるのは非常にまずい。
もちろんそれは連戦が辛い、とか二対一の白兵戦が辛い、というのもあるが俺の懸念はさらに別のところ……。
「ああ、くそっ! なんで悪いほうの想像が当たるのかね!?」
見回せば残りの四匹はそれぞれ精霊術を発動しているらしくどの個体の側にもなんらかの超常現象が形成されつつある。
連携を分断されている状態でこの状況を切り抜ける方法だ。落ち着け。今までラノベで読んだことと似たような事態が降りかかってるだけだ。
それを今の状況に当てはめろ。
平時なら普通に異常な発想だが今はツッコんでる場合じゃない。今、この場で取れる一番効果のありそうな行動だ。
フィーネ、ニア、ドジャー、レッドは手が離せない。手すきの俺か、別の要因でなんとかするしかない。
ならば……!
「フィーネ、パリパッキーだ! でかい音で怯ませろ! 全員、フィーネがパリパッキー出したら耳塞げ! 魔獣が怯んだら学園の方に全力ダッシュ!」
「『来たれ、パリパッキー!』でかい音を頼むわ!」
二度の戦闘訓練によって俺たちは瞬時の対応力にも磨きをかけていた。
俺の号令に即従ったフィーネがパリパッキーを出して支持をする。
俺とニア、ドジャー、レッドは召喚の文言が終わる前に魔獣と距離をとって耳をふさいだ。
「ゲエエエエエエエエッコオオオオオオオオオ!!!!!!!」
次の瞬間耳を塞いでなお、鼓膜にとどろく轟音。一瞬頭がチカチカしたが、気にしてられない。俺の宣言どおり全員が同じ方向に走り出す。
周囲を見れば突然の大音量で驚いたのか白兵戦をしていた魔獣たちは座り込んでいたり跳び上がって距離をとったりしている。
耳から血を流している個体もいた。囲んでいた魔獣たちにも大きな効果があったらしく、4匹とも精霊術が不発したかあらぬ方向に飛ばしている。
思い付きにしては成果は上々だ。
だが、魔獣たちもいつまでもそうしているわけではない。我に返った連中は纏まって俺たちを追いかけ始めた。
「よし、次だ。大きめの茂みに入って隠密状態になるぞ。フィーネ、残存魔力がきついかもしれんが今回は周囲に音を漏らさないで俺たちは会話できる便利状態にしてくれ!」
「わかったわ!」
「もうアニの幻想は発動してるよ! もう、魔物から僕たちは見えないはず!」
見ればニアの後ろにはすでにアニが出ている。どこかのタイミングで出したのだろう。
抜かりがない。
「上々だぜニア!『来たれ、リッキー!』」
全員、パリパッキーの大音量のせいで耳をおさえながら走っているが会話はできているらしい。
俺はリッキーを召喚するとすぐに周囲のにおいを消す。
続いてフィーネもパリパッキーに指示を出す。いつもとは少し違う隠密状態になっているはずだ。
「ドジャー、聞こえるか?」
「おうよ兄弟。俺はどうすればいい?」
「レッドさんの最大出力ってどれくらいだ?」
「魔力は食うが、実は会長のガウルに匹敵するんじゃねぇかと俺は自負してる。……具体的にはいつもの火球の10倍の威力だ」
「ヒュゥ! いいねぇ!」
俺は口笛交じりに歓喜した。嬉しい誤算だ。それだけ火力が見込めるなら何とかなる。
さぁて、それじゃあ鬼ごっことしゃれこみますか!
こぼれ話
精霊術師たちは魔獣と何度戦闘が起こってもなるべく戦えるように魔力の節約を重んじており、戦闘が一度終わると後続がいないかチェックしてから精霊を送還する傾向があります。精霊を顕現させっぱなしだと魔力垂れ流しなので。電気をつけっぱなすと電気代が上がるようなもんです。




