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9 勇者の姉ですが、勇者パーティの胃袋を掴んでしまったようです。

「シャル!!」


 余波で吹き荒ぶ風から顔を守りつつ、遅れて響いた轟音に負けじと大声で呼ぶ。


「お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん……きゃあああああ何でそんなに血だらけなのおおおおっ!?」

「ごふっ!」


 ものすごい勢いで飛びついてきたものだから、私はその衝撃を受け止めきれずに肺の中の空気を全て吐き出す羽目になった。

 その上動揺が激しいのか、肩に手をあててがくがくと前後に揺さぶって来る。私は怪我人じゃないけど、それは怪我人を心配してやる行動じゃないよね!?


「しゃ、シャル、待って、おおお落ち着いて! これは怪我じゃなくて、全部返り血だから!」

「えっ」


 すぐに動きを止めてくれたけど、シェイクされた頭が気持ち悪い。何度か深呼吸して気分を落ち着ける。

 どう言うこと?と首を傾げるシャルに答えるのは後回しにして、先に自分の疑問をぶつけてみた。


「それにしてもシャル、よく私たちの居場所がわかったね」


 同じように近くに飛ばされてて、戦闘音を聞きつけて駆け付けてくれたのかな?などと予想していたけど、斜め上の回答が返ってきた。


「美味しそうな匂いがしたから!」

「は? え? まだ料理してない……ってまさか」


 ドラゴンに胡椒を誤投擲したせいですっごく香ばしい匂いが漂っていたけど……あれで!?


「これも愛のなせる技だね!」

「どう考えても食欲だよ!!」


 ドヤ顔で胸を張る妹であるが、どう考えても胸を張れるような内容じゃない。いや、妹をそう育てたのは私だし、そもそもその手においで誘き寄せようとしていたのだけどものすごく複雑……!


「と言うかお姉ちゃん、返り血って何! 何があったの!?」

「ああああ待ってそれどころじゃない!」


 詰め寄って来る妹にドラゴンと遭遇したことの説明をしようと思ったけど、ドラゴンで非常に重要なことを思い出した。

 今にも地に降り立ってドラゴン肉にありつこうとするワイバーンに向けて指をさす。


「シャル、今すぐあいつら追い払って! できれば周囲のやつも全部!」

「え? え?」


 何が何だかわからない、と混乱する妹であったが、次の私の言葉で矢のように飛び出した。


「超高級の、とっっっても美味しいお肉が横取りされちゃう!」

「任せてお姉ちゃん!!」


 ふぅ……これで一安心だろう。

 かいてもいない額の汗を拭う仕草をする私の横で、取り残されたような、呆れを多分に含んだ二人の会話が耳に入った。


「……似た者姉妹」

「……あぁ……」


 ……私の肉への執着が、妹の私のご飯への執着と同じように見えたらしい。

 いやだって超高級食材(ドラゴン肉)ですよ? 料理人の端くれとしては執着しても仕方なくないですか……?


 二人は加勢するか迷ったようだが、あまりに妹の動きが速すぎて手を出すと逆に邪魔になりそうだと判断したようだ。心なしかいつもより速い気がする……いっぱい居た魔物がどんどん減っていくよ……肉パワーですかね……ですよね……。

 私の護衛がてら、攻撃が流れてこないか、新手が現れないか警戒しつつその場で待機していたら、トマスくんを背負ったフリードリヒ王子がやってきた。


「王子、ご無事で何よりです」

「アルベルトたちも無事であったか。こちらにはシャルロットが居たしな。問題はない」


 良かった、更に分断されたりはしていなかったようだ。しかしトマスくんが背負われているのが気になる。


「トマスくん、背負われているけど、怪我したの? 大丈夫?」

「いえ、僕は……って、マリナお姉さんこそ大丈夫ですか!?」


 慌ててフリードリヒ王子の背中から降りて、癒しの魔法を使おうとするのを押し留める。魔物の返り血で直接の怪我はほぼないと説明すると、痛がる素振りを見せない私に目を瞬きながらも納得してくれたようだ。


「えっと、僕が背負われていたのは……『この美味しそうな匂い……あっちにお姉ちゃんが居る!』とすごい勢いで走り出したシャルロットお姉さんにおいていかれそうだったので……」

「うむ、呼んでも止まらなかったのでな。俺が背負って追いかけるしかなかったのだ」


 王子に背負われるなんて恐れ多い、とトマスくんが縮こまり、フリードリヒ王子も、一人疾風怒涛の勢いで魔物を蹴散らす妹を眺めながら、どこか(恐らく精神的な意味で)疲れたような顔をしている。

 ……ご、ごめんなさい、うちの妹が。


 その後は大して時間も掛からず、ドラゴン肉に集ろうとしていた魔物たちは全て駆逐されるのであった。




 落ち着いたところで人の物と思われる骨を埋めて、遺品を回収して。その先にあったフレイムドラゴンの巣穴と思われる場所に生存者が居ないか一応確認して……結果は言わずもがな。

 そして、詳しい調査……は後日に回されて、お料理タイムとなりました。


 私としては、こんな場所ではゆっくりできないと思ってたんだけど、結局昼食をまだ食べれていない妹が涙目でねだってきたのと、ドラゴン肉の量が多すぎて体積的な問題で私の能力スキルをもってしても全部は持って帰れないので、今できるだけ食べてしまおう、と言うことになったのだ。

 ちなみに、ドラゴン退治の顛末を語った時には驚かれる以上に泣かれて困ったものでした……まぁそうだよね、どう考えても無茶だよね。


 さて、料理の前に血抜きと解体をしなければ。時間が掛かりそうなことを悟った妹がこの世の終わりとばかりに滂沱の如く涙を流し始めたので、とりあえず辛うじて盗られずに残っていたジャーキーを齧らせておく。放っておくと生肉に齧りつきそうだったし……。

 妹自身はジャーキーを食べつつも「手伝わなければ食べさせません!」と脅した(?)ことで、フリードリヒ王子とトマスくんは四苦八苦しながらも竈作りを始め、アルベルトさんはそんな二人の様子をちらちら気にしながらも周囲の警戒を担当していた。

 フレデリカに水魔法の応用で血抜きをやってもらえるので(今までも何度かやってもらっていた)、そこを短縮できるのはありがたい。

 さすがにドラゴンの解体はしたことないけど、まぁ多分熊とかと同じ手順で大丈夫でしょう。駄目だとしても能力が勝手に誘導してくれるだろうし。


 まずはお腹に包丁を入れ内臓を取り出す。内臓が食材になるパターンもあるけど……能力が反応しないので、薬の素材となるらしい心臓と肝臓を残して後は焼却してもらった。

 肉と皮の間に刃を入れ、少しずつ皮を剥いでいく。……いくら能力補助があるとはいえ体が大きいので非常に手間がかかる。しかし皮と鱗、爪に牙と色々武具の素材になるとフリードリヒ王子とアルベルトさんに力説されたので手荒に扱って無駄にはできない。妹にもう一本ジャーキーを渡す事態になった。

 次は部位ごとへの切り分け。一部戦闘中ですっごい雑に切ったはずなんだけどめっちゃ綺麗に分かれてる。能力恐るべし。まぁアルベルトさんの能力で潰れてるところはあるんだけども。肩、肩ロース、ヒレ、サーロイン……と、タンの一部はすでに焼けてるなぁ……アレか。ついでに刺さったままだった鉄串を回収。


 何とか切り分けまで終わり、まな板の上にデンと鎮座しますはモモ部分の塊である。どこから料理しようか迷ったけど、とりあえず無難そうなところからにしたのだ。

 今は調味料の問題でタレは作れないし煮込みも揚げもできず、塩で味付けをした焼きものくらいしかできない。ここが森だったら香草を探せたかもしれないけど……胡椒のおかげで妹の発見が早まったものの失ったのは惜しいな……。まぁ過ぎたことを嘆いても仕方ない。

 厚さ一センほどに切っていく。おっと、肉は熟成させた方が美味しいので、今食べる分は能力で促進させることも忘れずに。塩を揉み込んで馴染ませたら更に一口サイズにどんどん切り、鉄串(トマスくんに浄化、洗浄してもらった)にどんどん刺していく。どう考えても鉄串が足りないので皿代わりの鍋にどんどこ放り込んでいく。うーん、一面の赤、野菜いろどりが欲しい。


「フレデリカ、火の様子はどう?」

「問題ない。いつでも行ける」


 竈の上に鉄板(あのブレスを受けてよく無事だったなぁ)を置き、着火をお願いしていたのだ。いやぁ、魔法が便利すぎて私も覚えたい。……待てよ、料理に関係することだから私も使えるかもしれないぞ? 今度教えてもらえないか頼んでみよう。

 熱々の鉄板に油代わりに竜脂をひいていく。これだけでもういい匂いがしてきた。脂ですら食いつきそうな妹に「待て」をする。


「えーっと、まずは普通に焼きます」

「お姉ちゃん、普通って?」

「能力効果なしってこと。元々の素材の味を知っておきたいんだよね」


 妹は不満そうだったが、肉は大量にあることを思い出したのだろう。ひとまずは納得してくれた。

 ……私としては、ただでさえ美味しい(と記されていた)ドラゴン肉なんだから、わざわざ能力を乗せなくても……と言う気持ちなんだけど、妹の依存症以前にどうにも私の中の能力の衝動が許してくれないみたいで。全力で料理したい、とさっきからウズウズしていて抗うのが難しい。

 どうにかこうにか第一陣を焼き上げ、みんなに行き渡ったところでひとまずいただきます。


「ほぅ、美味いなこれは。まさか塩で焼いただけでこれほどの物になるとは……! 火竜種のせいなのかピリっとした辛味のアクセントがあるのもまた引き立て役となっているな」


 このメンツの中で一番高級食材を食べ慣れているであろうフリードリヒ王子が手放しで褒めた。美食家の彼を唸らせられる、超高級食材の文言に偽りはなかったようだ。

 中には高級食材ではあってもいわゆる珍味に分類されるものとか、好みで評価が分かれる物もあるからね。これで微妙な味だったりしたら肩透かしも良いところだったよ。


「あ、うん、全然食べれる。美味しい!」


 なんと、依存症の妹が能力なしで美味しいと? これはリハビリに使える……?

 そう考えると、大量に思われた肉も足りなく感じてくるなぁ。今回は偶々なだけで定期的に手に入れるのはすっごく大変だろうし、どうしたものかな。

 などと考えながらも自分も口に運ぶ。うん、これは美味しい。味に少し癖はあるけどしつこいと言うほどでもなく、それでいて主張してくる強さを持っている。色々応用も効きそうでこれは研究が楽しみになってきた。

 残る三人にも大好評なようで、苦労して狩った甲斐があったものである。

 しかし……逆に怖いな。能力使ったらどんな反応が返ってくるんだろう。

 妹はもちろん、トマスくんですら期待の眼差しを向けてくるし、これはもう色んな意味で避けられない……覚悟するしかない。


「では……っと」


 能力を解放して肉焼きを再開する。

 素材も、焼き方も同じはずなのに、立ち上ってくる香りが明らかに異なっていた。よだれが今にも溢れそうになり、匂いをおかずにパンが食べられそうなくらいだ。誰かの喉がごくりと鳴った。

 ジュウジュウと肉の焼ける呼吸に耳を傾け、引っ繰り返すのに最適なタイミングを計る。

 ……三、二、一、今っ。……よし、完璧。

 焼いているのは一本だけではないので、同様のタイミングでどんどんと引っ繰り返す。裏面を焼き過ぎても味が落ちるのでこちらもタイミングよく鉄板から引き上げる。

 表面はパリっとしているものの、中は少し赤身が残っている。この肉はこのくらいがきっと一番良い。身から溢れる脂で、キラキラ輝いているように見えた。

 うん、とても良い具合だ。塩しか調味料がないのが本当に勿体ない。


「いただきます……!」


 全員にひとまず一本ずつ渡し終わったところで、妹が意気込んだ。

 何故かみんな緊張しているのか手に持ったそれを食べようとせず、固唾を飲んで先陣を切ろうとする妹の様子をじっと見ている。

 ……うん? …………あ!!


「待ったシャル! あっちを――」

「ん~~~~~おいしい~~~~~っ!!!」


 向いて食べなさい、そう注意しようとしたのだが……間に合わなかった。


「「「「――――っ!?」」」」


 食べた物の美味しさに比例するのか、この上なく色気全開な妹を目撃してしまった(私を除く)全員が見事に硬直してしまった。

 フリードリヒ王子はもちろん、堅物なアルベルトさん、トマスくん、更には同性のフレデリカでさえ停止して、男女問わず破壊力を発揮している。

 言っては悪いけどフリードリヒ王子なんて非常に間抜けな顔(それでもイケメンではあるが)をして串を落としそうになっている。食べ物を粗末にするのは許しませんと言いたいところだけど、仕方ない……のかなぁ?

 とりあえず私はこれ以上被害を悪化させないよう、皿を持たせて妹の体を回転させた。肉さえ切らさなければ向きがどうだろうと関係なく上機嫌だろう。


「は……っ、ワタシはいったい……」


 自分の分を食べ終わり(非常に美味だったけどゆっくり味わう余裕はなかった)、妹が端からぱくぱく食べていくものだから手を休めることなく追加で肉を焼きながら、たまに摘まみながらみんなの様子を見ていたら、まず最初にフレデリカが復帰した。おかえり。

 しかし予想よりかなり早かったなぁ。色気レベルが私の知る限り過去最高に高かったから同性でももうちょっと長くなると思ってたんだけども。

 慌てたようにチラチラと私を見てくるけど、慣れがある私と比べても仕方ないよ、と肩をすくめる。今更妹に見惚れる同性が居たとしても何とも思わないので大丈夫よ?

 もう少ししてトマスくんも無事に復帰する。頬を押さえて深呼吸する様が何というか、やっぱり小動物っぽくて微笑ましい。


「……気を取り直して、イタダキます」

「い、いただきます」


 恐る恐ると言った風な声音で二人が肉を口に運ぶ。

 肉を咥えた直後……トマスくんがポロポロと涙をこぼし始めた。ちょっと!?


「神様、世の中にこんなに美味しい、天上の如く格の高い食事があって良いのでしょうか……」

「大げさだよ!?」

「まさかこれは噂に聞く神の晩餐……あっ、まさかマリナお姉さんは神様の遣いなのでしょうか!?」

「そんな訳ないよ!? 気をしっかりもって!!」


 能力は神様のおかげだとしても、私は普通の人間だよ! 使徒になった覚えなんてこれっぽっちもないよ!

 ……って、いや、あれ? この能力って神様からもらったものだっけ。だからある意味では間違ってない……?

 私を崇めようとするトマスくんにわたわたしていたら、横からフレデリカにがしっと手を掴まれる。

 今度は何?と振り向いてみれば、いつも眠たげな目付きをしているフレデリカの、いつになくはっきりとした視線とぶつかった。

 初めて見る表情に一体何を言われるのだろうと身構えていたら……トマスくんに負けず劣らず斜め上な発言が飛び出てきた。


「マリナ……ワタシの嫁になって」

「「何を言ってるの!?」」


 あんまりな内容に、私と妹の叫びが重なった。……肉に気を取られてると思ってたのに、聞こえたのね。


「大丈夫、ワタシはいずれドラゴンを狩れる魔法使いになる」

「何が大丈夫なのかわからないよ!?」


 こちらの混乱を置き去りに、淡々……と見せかけてこれは正気を失っている。肉に目が眩んでいる……!


「ドラゴンならあたしだって倒せるんだから! お姉ちゃんは渡さないよ!」

「だったらワタシは――」


 私をそっちのけで妹とフレデリカが口喧嘩を始めた。肉を食べながら。……君ら器用ですね……。

 普段なら行儀が悪いと怒るところであるけど、そんな気力も湧かないしこの間に入りたくない。そう、私は逃げるのである。

 この頃になってアルベルトさんも動きだしていた。フリードリヒ王子は……駄目かもしれない。


「えっと……お味はどうですか?」

「…………………………美味である」


 ……いや、あのちょっと、肉と一緒に飲み込んだようだけど、何を言おうとしてたんですかね……聞きたいような聞きたくないような……。


「マリナ殿……あー……宮廷料理人になる気はないか?」

「えぇ……」

「お姉ちゃんはあたしのご飯を作るんです! お城にも渡しません!」


 能力に頼ってる私が料理人にとって最高の名誉とされている宮廷料理人になんてなれるわけがないじゃないですか、と断る間もなく、妹が今度はこっちにも飛び込んできた。

 みんなやいやい言いながらも肉を食べる手は止めない。……なんだろう、そこまで美味しい料理を作れたと喜ぶべきか、単に食材と能力のおかげだと自分を戒めるべきか、そもそもいい加減この状態に怒るべきか――


「だからマリナは――」

「ぼ、僕だって――」

「いやしかし――」


「あぁ、もう、いい加減にしてーーーっ!」


 ……妹よ、それは私のセリフである。


 このカオスな食事模様は、全員がおなかいっぱいになるまで続いたとさ。




「……マリナよ。頼むから、魔王を食材と称してあっさり料理してくれるなよ?」


 (ものすごく後になって復帰した)フリードリヒ王子が、食べ過ぎたのか膨れたお腹をさすりながらそんなことをポツリと呟いた。ちなみに食べ過ぎたのは全員である。私自身もちょっとおなかがつらい。

 しかし何でまた急に魔王の話を?


「え? いえいえいえ、ドラゴンが倒せたのは単に食材カテゴリだったからで、いくらなんでもそれは――」

「文献で読んだことがあるのだがな」


 ありえません、と続けようとした私の言葉を遮るように。


「歴代魔王の多くはドラゴンから発生しているらしいぞ」

「えっ」


 魔王が「復活する」と言われているけれど、正確には魔王の体が封印されているとかではなく、魔物たちのうちのどれか最強の者が魔王としての魂?を宿して成る、らしい。

 そしてドラゴンは最強種の一角であるため、ドラゴンの中から選ばれる確率は高い、と。


「なんてこと! 早く料理……もとい退治しに行かなきゃ!」


 妹が立ち上がり拳を握りしめて叫んだ。

 キリっとした顔つきをしていても欲望が駄々漏れですよ……あと、魔王はまだ現れてないよ……。


「期待しているところ悪いけど、まだドラゴンが魔王に成るとは決まってないからね……」


 ドラゴンはあくまで「最強種の一角」であり、絶対的なトップではない。

 他に最強種とされている魔物から選ばれる可能性も十分にあるし、その場合は私の能力は――


 ……あれ、待って?

 基本的に、最強種とは元々強い上に魔素に打ち勝ち、エネルギーとして得ることでなお一層力を増した生き物のことを指す。


 つまり……最強種は……魔王に成れるほどの強大な生き物は……魔素の毒が・・・・・……ない・・


 つまりつまり……何が魔王に成ろうと、食べられる可能性が・・・・・・・・・……高い・・


「お姉ちゃん!」

「は、はい」


 私と同じ考えに至ったのか妹がいつになくやる気を見せている。

 しかし、妹の想像しょくよくを甘く見てはいけなかった。何回転したんだというくらいもっと斜め上のことを言い放った。


「みんなのために、魔王だけじゃなく最強種たちも退治しちゃおう!」

「ちょっとぉ!?」


 それ絶対「みんなのため」じゃないよね!? 食べたいだけだよね!?

 あ、いや、この「みんな」が、パーティメンバーのことを指すのだとしたらあながち間違いではない……? いやいやいやそういう問題ではなく。


「そうか、他にも美味しいモノ、食べれるかも、しれない」

「……うむ」

「が、がんばります!」


 うええええ、他の三人も賛同をしだしたよ!?

 勇者パーティとしての使命云々じゃなく、完璧に食欲に支配されているよ!?

 このあまりにもひどい事態を収拾してくれないか、とフリードリヒ王子の方を見たら。


「……うむ、そうだな。それが我らの使命であろう」


 貴方まで何言ってるんですか!? さっきは「あっさり料理してくれるなよ」なんて言ったのに、しれっと手の平を返してるじゃないですか!

 あああああ、誰か、誰かブレーキつっこみ役の人は居ないんですか……!?


「よーし、食ざ……もとい最強種と魔王退治、頑張ろう!」

「「「「おう!」」」」


 妹の掛け声に合わせて、複数の呼応が山の奥までこだました。




 ……勇者の姉ですが、勇者パーティの胃袋を掴んでしまったようです……。

本当はここで終わる予定でしたが(いえ、本編はここで終わりなのですが)おまけであと1話追加します。

シャルロット視点の糖度高めのやつなので、ご注意ください……?

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[一言] 辛い旅より楽しい旅した方が生き残りやすいだとか
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