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勇者の姉ですが、勇者パーティの胃袋を掴んでしまったようです。(本編完結済)  作者: なづきち
後日談

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13/16

xx 星に願いを(後)

本日2話更新しています。ご注意ください。

 そして夜。私たちは見晴らしの良い草原に来ていた。

 雨が降ることもなく、雲一つない満点の星空。絶好の観測日和である。

 昔のように家の窓からではなく、冷たい風を遮るものはなくとても寒いはずなのだが、フレデリカ直伝の結界魔法のおかげで快適な気温が保たれている。しかも内から外が見えるのに、外から内を見ることも音を聞くこともできない、魔物に襲われる心配のない便利仕様です。昔からとても助かっています。

 寒くはないというのに、シャルは私の足の間に収まり、私は背中から抱きしめるようにわざわざ持ってきた毛布に二人で包まっている。

 二人ともすっかり大きくなったけど、特に示し合わせたわけでもないのにあの時と同じ様相になることを選び、どちらからともなく笑みを零した。


「マリナお姉ちゃん、お星さま、まだかな?」

「うーん、もうちょっと後かなぁ?」


 もう十年近く前のことなのに意外と覚えているものだね。しかし、どうしても思い出せない……のではなく、そもそも聞いていないことがあったのだった。


「ねぇシャル。シャルはあの時何をお願いしようと思ったの?」

「うっ……」


 密着しているので、ギクリと体が強張るのが如実に伝わった。私からは見えないけど、表情も固まっていることだろう。

 とても話しにくいのか、もぞもぞとしている。それでも、話したくない、という気配ではなかったので、話してくれる気になるまでのんびりと待った。


「えっと……あの時は、お姉ちゃんの願いを知るのが目的だったの」

「……どういうこと?」


 話が見えなくて続きを促したら、訥々と当時の心情を語ってくれた。

 見捨てられやしないか毎日不安でたまらなかったこと。私が何を考えているのかわからなくて、でも聞くことができなくて。少しでも真意を知ることができれば、と取った苦肉の策。

 そして、私に嘘を吐いたこと、私をそれまで信じられなかったことをずっと後悔している、と。


「うーん……それは仕方のないことだよ。もう気にしなくてもいい……と言うかまだ気にしてるとか、さすがに長いよ」

「でも……」

「その頃の私はただの子どもだったからね。病気で心が弱っている上に頼れる大人が居ない状況とか、不安にもなるって」

「それでも、お姉ちゃんはすごく頑張ってくれていたのに……」


 俯くシャルの頭を撫でるように、髪をくしけずっていく。一房手に取ってみると、星明かりを受けて仄かに光っているようにすら見える、綺麗な髪だ。


「シャルが笑っていたから、大丈夫なのだと思い込んでいた。目に見えることだけを信じて、内面のケアを怠った私の責任でもあるよ」

「それはあたしがそう仕向けたからであって、お姉ちゃんは悪くないよ……っ」


 うーん、良くない兆候だなぁ……。

 今ではすっかり私を名前で呼ぶようになったシャルだけど、「お姉ちゃん」呼びに戻ることがたまにあり、わざとだったりうっかりの時もあるけど、不安定になっている時によく出てくるのだ。幼い頃のように、私に縋ろうとしているのかもしれない。

 さてどうすればシャルの憂いを取り除けるのか……と思案していたら、ふとお父さんの顔が思い浮かんだ。

 本当にあの人は不思議なくらい側に居て安心できる人だった。それはきっと、いつも、辛い時でも、温かく優しい笑顔を絶やさなかったからだろう。


 だとすれば、私もやれることは一つだけ。

 お互いの表情が見えるように、シャルの体を横抱きにするように向きを変える。


「シャル」

「は、はい」


 固くなっているなぁ。怒るわけじゃないよ、大丈夫だよ、と言うように頬をそっと撫でる。寒くはないのに失いつつあった熱を補うように。

 私の手から熱が伝わったのか、白かった頬に赤みが差した。


「私は悪くないと言ってくれるけど、やっぱり私はダメなお姉ちゃんだったよ。子どもの時だけじゃない。シャルに告白されたあの日までずっと、君がどう思って生きていたのか、何も見えていなかったのだから。多少はマシになったと思う今ですら、何度も君に『鈍い』と怒られているし」


 少しばかり乱れている前髪を整えるように払う。いつもは自信に溢れているその瞳が弱々しく揺れている。……そうさせているのは大体私が原因だ。

 だから、シャルが不安に溺れないよう、私が常に支えとならなければ。


「でも私はダメなままでは居たくないし、君だって後悔を抱え続けるだけで、ずっとそのままで居る気はないでしょう?」


 昔ならできなかったかもだけど、今なら大丈夫。

 だってシャルの方から率先して、いくら鈍い私でもわかるよう示し続けてくれているのだから。私はそれに応えるだけ。

 心からの笑顔を君に。君の隣で。


「だからシャル、不安になった時、まずはちゃんと教えてほしい。隠さないでほしい。それでも私が間抜けっぷりをさらすようだったら、いっそ殴ってくれてもいい。

 私は私でそもそも君が不安にならなくて済むよう、私に愛情を与え続けてくれている君に、私も同じだけ、いやそれ以上の愛情を返すよ」


 黙って私の話を聞くシャルは何か言いたいのか口をはくはくとさせているけれど、音となることはなく。情動の行き場がないのか、手がふらふらと彷徨い始める。

 その手はまるで白魚のようで、指は細く、きめ細やかな肌は剣ダコすら出来ておらず。多大な勇者の力を秘めた手だけれど、今は見た目通りの儚さで。

 私は取りこぼさないように、壊さないように、それでいて決して離さないように、きゅっと握った。


「だって私は、君のことが大好きだからね」

「……――」


 シャルはポロポロと静かに涙を流すけれどさすがに私も学んでいる。これはあの夜と同じように、悲しさじゃなく嬉しさで泣いているのだと。

 その様は、星の光も相まって幻想的で、この世界の何よりも綺麗に見えた。

 慈しむように、守るように、頭をそっと胸元に抱え込むと、シャルは絞り出すように、一言だけ囁いた。


「あたしも、マリナが、大好きです」

「……うん、知ってる」


 何があろうと、疑いようのないくらいに。



 随分と逸れてしまったが本来の目的は忘れていない。

 私たちは元の体勢に戻り、だらだら取り留めのない話をしていたら、ついにその時はやってきた。


「あっ、今流れたよ!」


 シャルのさした指の先に一つ。そしてすぐにあちこちに光が尾をひいて走り始めた。

 私は流星群を目の端に捉えながら、両手を組んで願い始めたシャルをぼーっと眺める。肩に力が入っているけど、何を願っているんだろう?


「ねぇねぇ、マリナは何をお願いしたの?」


 やがて満足したのか、手をほどいたシャルがわくわくと尋ねてくるけど、残念ながら楽しめるような内容ではない。そもそも願ってないし。


「私は願いと言うよりは、感謝かな」

「……感謝?」


 改めて空を見上げると、まだ星が流れていた。願いではないとはいえ、降っている間に言わなければならないような気が何となくして。

 片腕でシャルを抱きしめながら、もう片方の腕を天に向けて伸ばす。お祈りの形にするべきかもだけど、手が空かないのだからそこはごめんなさい。


「神様、私に料理の能力スキルを授けてくださってありがとうございました。おかげさまで、シャルロットは健康に、強い体になりました」


 シャルは私のおかげで生きてこれたと言ったけれど、やはり能力の影響は大いにある。少なくとも能力無しに健康にはならなかっただろう。

 影響が大きすぎて依存症になるという大変な目に遭ったりもしたけれど、それは私が調子に乗ったせいで、自業自得なこと。


「シャルロットが元気に生きているのは、ひいては私が元気に生きているのは、神様のおかげです」


 何故私にこの能力が宿ったのかという疑問は残るけれど、些細なことである。それよりももっと大事な結果が付いてきたのだから。


「今、私は……私たちは、とても幸せです。……本当に、ありがとうございました」


 噛みしめるようにその言葉を綴った時を境に。


 スゥっと。


 体から、何かが抜ける感覚がした。


「……あれ?」

「マリナ? どうしたの?」


 伸ばしていた腕を引き戻し、じっと自分の手のひらを見つめる。

 何も違いはない。けれど、決定的な違いがある。



「……神様の力が、無くなった」



「えええっ!? だ、大丈夫なの? どこも痛くない? だるいとか、余分に何か吸い取られたとかない?」


 慌ててシャルが私の体をペタペタと触ってくる。脈を取ったり、熱を測ろうとしたり、いつかのシャルに私がやったことで、思わず笑いが込み上げてくる。


「大丈夫だよ、何ともないよ」

「……本当に?」


 疑わしそう……と言うよりは、単純に私が心配なだけだろう。まぁ私は色々我慢した前科(?)があるからね……。

 でも本当に、ずっと感じていた神様の気配が失せてしまった以外は何も変わってはいない。今のところは、だけど。


「うぅん……マリナが感謝を告げたから『もう要らないよね』って回収しちゃったってことなのかな?」

「どうだろうね……確かに必要はないと言えばないのだけれども。あぁでも、今後極上の料理を作ることが出来なくなるのはちょっと残念だなぁ」


 旅を終えて以降、味覚効果を載せた料理はほぼ作らなくなったのだけど、無くなったら勿体なく思うのは我ながらどうなんだろう、と苦笑が浮かぶ。

 惜しむ私にシャルは少しだけ呆れを見せてから、ドヤ顔でこう断言した。


「何を言ってるの? とっくにマリナ自身の力だけで最高に美味しい料理を作れるようになっているよ。あたしが言うんだから間違いない」

「あはは……それは確かにこれ以上にない証明だね」


 誰よりも私の料理に執着を見せるシャルが言うのだから正しいことなのだろう。

 そっか……私はもう、そこまで自信を持っていいのか。


「マリナがドラゴンを狩れなくなっても、あたしが狩ってこればいいだけだしね!」


 大口でも何でもなく、この可愛らしい勇者様の場合は事実である。

 むしろ元勇者パーティの面々からすれば、この点に関しては私の方が理不尽の塊であったと思われる。面と向かって愚痴られたこともあるし。


「あっ、一つ困ったことがあった」

「え、何……?」


 じゃあ本当に力が無くても大丈夫か、と安堵しかけた私を一転して落とすようなことが……と思いきや。


「能力パワーが無くなったのなら、マリナに気軽に抱っこしてもらえなくなる……!」

「ぶふっ」

「何よぅ、あたしにとっては大事なことなんだからねー!」


 笑いをこらえる私を咎めるようにペシペシと叩いてくるが、そんなことをしても可愛いだけだよ。

 しかし料理そのものと違って、無意識に使っていた場面は結構あるかもしれない。これは真剣に力を付けることを考えないとかな?


「じゃあ頑張って筋トレしないとね…………ん、待てよ? 能力の縛りが消えるなら、私も武器を持って魔物と戦うことができる……?」


 私は今まで、わずかでも料理に関係するならば様々な恩恵を受けていた。でも逆に言えば、関係しない部分にはかなりの制限を受けていた。

 代表例が、その身が毒であり食用にならない魔物相手には何をしても傷が付けられないということ。……こんな状態で魔王退治の旅に付いて行くなんて、自分でも随分無茶をしたと思うよ。おかげで回避能力はすごい上達したけど。

 私は魔物相手に何も出来ず守られるしかない状況にずっと引け目を感じていた。これで何か出来るようになるかもしれない……と思ったのだけれども。


「それはダメ」


 スッパリと、いっそ冷たいとさえ思えるほどの声音で、シャルが待ったをかけた。

 そのあまりの鋭さに、今までにない拒絶を感じたような気がして、私は情けなくも狼狽えてしまう。


「なん……で……」

「あ、あ、ごめんね。怒ったわけじゃないんだよ? ただ……これはあたしのワガママで、マリナには戦ってほしくないだけなの」


 あまりに私が情けない顔をしたからなのか、慌てて補足をしてくる。拒絶じゃないとのことで私の緊張が解けた。

 しかし、何故シャルは反対してくるのだろう?


 私の頭の疑問符を払うように、シャルは私の手を握って。


「あたしは、あなたの作る料理が大好きです」


 うん、それは知っているよ、と返す間もなく。


「あたしの頭を撫でてくれるこの手の温もりが、心をほぐす柔らかさが、伝わる優しさが、とても大好きです。魔物なんか相手にして、怪我でもされたらたまったものじゃありません」


 いくつもの、言葉を、想いを、連ねてくる。


「あたしは、勇者だと持ち上げられても、世界の危機とか、人々の平和とか、興味がなかった。どうでもよかった」


 シャルがそんな風に思っていたのは知っていた。表面上では笑顔でいても、心の底で嫌がっていたことに気付いていた。

 それでも、シャルが戦った理由は。


「本当に厄介な役目を押し付けられたけどそれは終わったのだし、後はとことん自分のためにこの力を利用します」


 いっそ清々しいほどの自分本位であるけれど、その根底にあるものは。


「あたしは、あなたが平和に暮らすため、それだけを考えて魔王を倒しました。……トドメを刺したのはマリナだけどそれはさておいて。

 これからも、あなたの平和を脅かすものは、全てあたしが斬り伏せるから。

 だから、あなたは武器なんて握らなくていいの。そんな暇があるならあたしのために料理を作ってほしいし、のほほんと笑っていてほしい」


 全部、全部……私の、ためなのだと――


 私は、いつしか詰めていた息を深く吐き出した。

 ……今までの私なら内で色々とこねくり回して変に考え込んでいたのだろうけど、しょっちゅう注意されてきたこともあってできるだけ素直に吐き出すようになってきている。

 だから、とりあえずの一言を。


「シャル……それはちょっと……いや、かなり重い」

「うええっ、その反応はひどくない!?」


 案の定憤慨してくるけど、絶大な勇者の力を私のためだけにと言われてしまえば気後れしてしまうよ……!

 全くもう、この子はどれだけ私が好きなんだか……。その好意自体に疑いは持ってないけど、どうしてそこまで育ってしまったのか、やっぱりまだよくわからない。

 とは言え全力で好意を寄せられるのは嬉しいことなので、潰されるだけにならないよう私からもちゃんと返していかないと。


「でも、シャルが私のためにしてくれたこと、しようとしてくれることはとても嬉しいよ。今後どうするかはよく考えてみるね」


 ひとまず矛先を収めてくれたけど、代わりに頭を撫でろとばかりに私の手に押し付けてくる。仕方ないね、と笑いながら求められるままに撫でた。

 そうしていると、視界の隅っこでまだ星が流れているのを見つけて、私の方からも尋ねてみる。


「ところで、シャルの今回の願い事は何だったの?」

「あぁ、それね」


 やたら軽い調子で話し始めるから、そんなに大した内容じゃないのかな、などと思った私が浅はかでした。


「あたしとマリナの子どもが欲しいなぁ、なんて」

「とんだ無茶振りだね!?」


 そんなこと願われても、神様困ると思うよ!?


「や、でもほら、マリナの時みたいに何だかんだで叶えてくれるかもしれないし?」

「いやいや、確かに私というレアケースは存在するけど、そもそもポンポンと叶えてくれるものじゃないし」


 前回の星降りの後、願いが叶ったという話は噂レベルでしか聞いたことがない。いくら何でも私だけではないと思うけど……。

 それにしたって、私の願いが叶って、さらに今回シャルの願いが叶ったら、一体どれだけ運が良いのか。奇跡の大盤振る舞いである。

 ……変な風にこじれて斜め上の方向で叶ったりしない、よね?


「努力すれば叶えてくれるかもしれないし?」

「いやいやいやいや、努力してもどうしようもなくない? ……あの、ちょっと?」


 さすがに冗談で言っているのだろう、顔が笑っている。

 笑っているのだけど……この笑顔、ダメなやつだー!


 身構える暇もなく、肩を軽く押されて後ろに倒れる。毛布と生い茂る草が緩衝材となって痛みはない。

 視界一杯に星空が広がったかと思えば、私に覆いかぶさってきたシャルに遮られる。

 逆光であるというのに、その瞳は爛々と光を放っているように見えた。おかしい、寒くないはずなのに、どこからともなく寒気が……。


「……シャルロットちゃん……? なにをするつもり、なのかなぁ……?」

「……努力?」

「違うよね!?」


 男女の間ならともかく、同性のこれ・・はどう足掻いたところで無理でしょう!?


「それにここは外だよ! ありえないでしょう!?」

「星の下だとご利益がありそうじゃない? 大丈夫大丈夫、結界のおかげで安全だし、見られることも聞かれることもないから」


 そんなことをのたまいながら私の服に手をかけるシャルに対し。


「私のメンタルが大丈夫じゃなあああああい!!!」


 力一杯平手をお見舞いしてしまったのは、許されて然るべきだと思う。



「……ねむい……」


 あの場は切り抜けられたものの、部屋に戻ってから同じ運命を辿ったということで。

 とても眠いけれど朝食作りをさぼるわけにもいかず、大きなあくびをしながらベッドから這い出る。

 隣で幸せそうに、心なしか肌をツヤツヤさせながら寝てるシャルを見て、頬を引っ張ってやりたい気分になったけど、出稼ぎ仕事から帰ったばかりなのを思い出してやめておいた。


 冷たい水で顔を洗ってシャッキリとさせ、朝食当番の男の子(セリオ)にあれこれ教えながら作っていく。

 分量を間違えたり、焦がしてしまったりでセリオが泣きそうになっていたけど、慰めて、励まして、何とか無事に全員分の朝食が出来上がった。

 匂いにつられたのかシャルも起きて食堂までやってきたその時。


 事件が、やってきた。


「マリねーちゃん! ……と、シャルねーちゃんも起きてる! 大変だよ!」


 朝の屋外の掃除当番だった男の子フレッドが息せき切って駆け込んできた。続いてやってきた同じく掃除当番の男の子ルークが、何やら包みのようなものを抱えている。

 そして、その包みを指さしてフレッドが衝撃的な出来事を叫んだ。


「赤ちゃんが捨てられてた!」


「「えっ――」」


「うっそ、マジで? マジだ!」

「あわわわわ」

「ち、ちっさいね」


 朝食のため食堂に集まっていた子どもたちがワッとルークが抱いている赤ちゃんを取り囲み、めいめいに騒いでいる。

 逆に、私たち二人は静寂に包まれて。

 ギギギ、と、軋んだ音すら聞こえてきそうなぎこちない動きで、シャルが私の方を見てくる。


「……これまさか、昨日のあたしの願い事が……」

「さすがに偶然……だと、思う、よ」


 私も一瞬そう思ったけれど、もし偶然でなければ、神様がどこからか誘拐してきたとか、自分の子を育児放棄したとか、非常に危うい話になってくる。

 なので私は考えないことにした。思考放棄したとも言う。ハハハ。


 誰が赤ん坊を捨てたのか目撃者が居ないか村中を駆け回ることになったが見つからず、最終的には子どもたちを引き取ったのと同じようにこの赤ん坊も育てることにした。

 子どもたちは一番小さい子で当時四歳だった。新生児となるとまた勝手は違ってくるし、労力は段違いだろう。

 実の親でない、子どもが産まれるまでに培うはずだった覚悟も準備もない私たちがきちんと育てられるのか怖さを感じる、のだけれども。


「マリナ」

「うん」


 隣で、手を握ってくれるシャルが居る。

 子どもたちも、村人たちも、みんなが手助けしてくれるだろう。

 何一つ出来ないことはない、そんな気がしてきた。



 十年後、聖剣を引き継いだこの義娘を中心に色々と波乱が巻き起こるのだけど、それはまた別のお話。


こんなところまでお読みいただき、まことにありがとうございました。


色々盛ってますけど、第二部とか、続編新作とかが始まる予定はありません。

あと、性懲りもなく活動報告におまけ絵を載せておきました。興味のある方はどうぞご覧ください。

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