アルビノ長男と風邪ひき
ブラコン弟たちとは反対の性格にしてみたけど、出来ているかな?
緑が生い茂げ、琥珀色の麦が風に揺られているのどかな村。
「ん……」
そこの煉瓦式の家の一室に寝ていたセミロングに白い髪の青年がゆっくりと目蓋を上げ、目を覚ましていた。
「ここは?」
知らない天井。左右に寝ていたはずの弟達もいないこの場所に少しの不安を覚えた時、木のドアをノックする音が聞こえる。
「起きたんだな。体は大丈夫か?」
ドアを開けながら入ってきた人物は、銀髪に銀色の目を持つ女性だった。その手には黄色く輝いたスープと、フランスパンの形に似ている薄緑色のパンをのせた丸いお盆を持っている。
女性がベッドの横にあるナイトテーブルに置くのを見て、ゆっくりと体を起こした。
「初対面の相手にこんなこと言うのも失礼だとは思うんだが、肌白いな……」
碧生の身体を物珍しそうにジィーと見ながら聞いてくる。この世界には碧生の様に肌が白い人物はいないのだろうか。
「何か過去に精神的に不安になるような事が?」
「いろいろとありましたけど、これは生まれつきです」
「そうなのか?! あんたみたいに綺麗な女性初めて見たよ」
驚いた後に頬を赤らめ、うっとりとした表情で見つめていた。
「……フフッ」
「もしかして失礼なこと言っちまった?」
口に手を当てて可笑しそうに笑う碧生に、身振り手振り慌てる女性。何か嫌なことでも言ったのだろうかと心配そうな顔をしている。
「いいえ。よく間違われるんですが、私は男です」
「え?……えぇえええええ!」
碧生の発言に唖然し、固まった。
「……」
「あ、あの……大丈夫ですか?」
驚くだろうとは予想していた碧生だったが、まさか固まるとは思っていなかったのか、心配そうに女性に声をかけた。
少しずつ固まりが解けてきたが、まだ驚きが抜けきっていないのか目を見開きながら見ていた。
「ケホッ! お、男?」
「はい。歴とした男です」
未だに信じられないのか、驚いた顔のままだ。このままでは話が進まないと判断した碧生は、とりあえず納得させて話を進めた。
「それと、ここは一体どこなのでしょうか?」
「……知らないのか?」
何も知らないという事に対し、女性はとても不思議そうにしていた。それはそうだろう。碧生と弟二人は、明日の学校の為に眠っていただけなのだから。そのことを言おうと口を開くが、言ってしまえば更に混乱させてしまうだろうと考えた碧生は、遠い所にいたという事に決めた。
「恥ずかしながら、見覚えがない所でして」
「ここに救助される前はどこに?」
「それが……ここより遠い所にいまして、情報がない場所にいたのです」
先程決めたばかりだというのに、女性に対し騙している事に胸が痛くなる碧生。嘘は言っていない。だが、せっかく助けてくれた人に対して仇を返しているようで複雑な気持ちになってしまった。
「そうだったのか。それは仕方ないな」
「はい」
「ケホケホッ」
「風邪ですか?」
そういえば先程から咳が出ていた。それに、若干だが顔が青白い。
「この病のこと、知っているのか?」
「はい。私もよくなったりしていたので」
ずっと立たせたままは身体に良くないと考えた碧生は、今しがた座っていたベッドに女性を寝かせ、代わりに近くにあった木の椅子に座った。
「何度も、これに罹っているなんて……」
「風邪はちゃんとした治療をすれば治りますよ。薬とかはありますか?」
「ゴホッゴホッ。……薬は、街に行かないと。それに、私たちには高価過ぎて買えないし、どれを買えばいいかも、分からない」
ずっと我慢していたせいか先程よりも青白くなっている。うっすらと額に汗も滲んできていた。
「薬がないのでしたら、代わりに出来る事をしましょうか」
「代わりに、出来る事?」
「はい。汗を拭いたり、着替えたりです。食事をするのも治療の一つですよ」
さきほどから漂ってくるスープの匂いを嗅ぐと、普段から知っている匂いだった。
「ここに置いてあるスープはカボチャですね」
「よく、わかったね」
「嗅ぎなれた匂いです」と言い、にっこりと笑う。
「身体今から起こしますね。それと、食欲はありますか?」
「少しなら」
女性の手を取り、背中に手を添えてゆっくりと起こす。
「少しあるなら良かったです。喉を通る分で構わないので食べてくださいね」
カボチャスープを掬い、女性の口元にゆっくりと近付けた。所謂あーん状態だ。女性は恥ずかしがっているが、碧生はにこやかに笑っている。小さい頃から、身体の弱かった碧生は弟達に何度もされたおかげか恥ずかしさが無くなり、慣れてしまっていた。
「食欲はあまりないですか?」
「そ、そうじゃ……ない」
介抱されることが初めてなのか、それとも男にしては中性的な顔をしている碧生に近づかれて顔を真っ赤にしているのかは本当のことは分からないが、顔を背けていた。
「もしかして、介抱されるのが私で初めてだったとかですか?」
「それも、ある」
「それは失礼しました」
「あ、後は自分でするから」
碧生が持っている皿を取ろうとぎこちない動きで近づいたが、遠ざけられてしまった。
「私のわがままですが、介抱をさせてください。一度してみたかったのです」
「わ、わかった」
その返事ににっこりと笑い、感謝するとまたスプーンを近づける。女性は未だに恥ずかしさが残って顔は背けないでくれたが、目は他所を向いていた。
薬がないながらも、その家にあるもので看病した一週間後、寝込んでいた女性が快復した。
「今まで忙しくて名前を聞く暇なかったですが、私は碧生と言います。改めてよろしくお願いします」
「私はマリ。こちらこそよろしくな。それにしてもあおいって変わった名前だな」
碧生と隣に並び、療養していた時に食べて気に入ったのか、カボチャスープを作りながら疑問に思ったことを聞いた。
「そうですか? 今まで気にしたことは無かったですが。そういえば看病する前に聞きそびれて今まで普通に会話していましたけど、ここはどこなのでしょう?」
「知らないのか? ここはアルテナ国のルビアって村だ」
「る、びあ? あるてな……? ここは日本じゃないんですか?」
「にほん? 聞いたことないな」
お互い知らない言葉が出てきて、頭の上にはてなマークが浮かび上がる。しばらく頭の中をこの二つの単語が回っていたが、一つずつ整理していき、ここで碧生は異世界に来てしまったのだと理解したのだった。
誤字脱字等があれば教えてください