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異世界よりも喧嘩に夢中

【前回のあらすじ】

ベッドで取り合いの喧嘩する次男の雄と末っ子の鷹。その二人を微笑ましく見ながら宥める長男の碧生。喧嘩をやめた二人は長男に引っ付くように寝たのだった。

 鳥のさえずりが聞こえ、緩やかな風がなびく森に次男の雄が仰向けになり空を見上げていた。まだ視界がぼやけているせいで今どこにいるかは理解していないようだった。


「……」


 ぼやけた目で周りを見渡すと、遠くで倒れているものがうっすらと見えている。ここからではそれが人なのか、それとも別の何かなのかは分からない。それを確認する為、頭を軽く振り、眠気を無くすとまた周りを見渡した。


「あ? んだここ…。つか奥で倒れてんの、相棒か?! それだったらやべぇ!!」


 知らない場所にいつの間にか居たが、それよりも兄が無事でいるかという事が今は大事だった雄は飛び上がり、何かがある方へと急いで向かっていった。もしかしたらという考えが一瞬、頭をよぎったのだ。


「相棒!!」


 走って近づく。誰かに攫われる前にこちらが救出しなければ大変なことになるのは、過去の経験から明らかだった。


「……てめぇかよ」


 走って近づいたものの、確認しなければよかったという顔で倒れている何かを見下ろしていた。そこには、末っ子の鷹が横たわった状態で雄を見上げている。


「……碧生兄さんかと思って期待したのが間違いだった」

「そりゃこっちのセリフだっての」


 見下ろされるのが嫌いな末っ子は起き上がり、ため息を吐きながら首を横に振る。その行動に青筋を立てた次男はさらに眉間に皺を寄せ、睨んでいた。

 お互いが睨み合っている所に、獣の唸り声が近くで聞こえる。


「大体何でてめぇがここにいんだよ」

「そんなこと僕が知るわけないでしょ。碧生兄さんの隣で気持ちよく寝ていただけなのに」


 身長5mほどもある熊が近づいてきていた。喧嘩している二人を餌にちょうどいいと見ているのだろう。普通ならば声がした時点で何かがいると判断し、怯えるか逃げるかの二つだが、この二人にとってはどうでもいい事だったようだ。それよりも目の前にいる人物をどう負かして長男の隣にいるかと思い立ち、臨戦態勢になっていた。


「ここでてめぇを倒して、相棒の隣に一生いてやる」

「そんなことはさせない。碧生兄さんの隣にいるのは僕だ」


 落ちている枝を誰かが踏んだ音を火蓋に、喧嘩が始まった。

 最初の一手は足に自信がある鷹が雄の顔めがけて蹴りを当てようとするが、慣れている雄にとっては予想できた動きだった。右腕で防ぐと仕返しと言わんばかりに左手で鷹の足首を掴んで振り回し、木に向かって投げ捨てた。強く叩き付けられ、ぐぐもった声を出しながらも受け身を取った鷹は、距離をとって睨み返した。


「は! そんなもんかよ」

「……面倒だなぁ」

「喧嘩ってのはな、こうすんだよ!」


 開けられた分の距離を詰め、右フックで鷹の顎を狙う。喧嘩を知らなくても、常に人を観察していた末っ子は、次男の筋肉の動き方で右フックが来ることが分かっていた。

 だが、喧嘩というのはそこまで優しいものではない。避けられることを予想していた雄は、左手を斜め下から突き上げるように顎を狙った。


「っ!」

「足に自信があるってのは、嘘みてぇだな」


 皮肉を発しながら末っ子を挑発する。かろうじて避ける事が出来た鷹だったが、顎を掠めて脳が揺れているせいか、足に力が入らず頭を押さえながらフラフラしていた。


「まだ、負けたわけじゃ、ない」

「よろめいてる奴が何言ってやがる」


 掠めた時に口を切ったのか、口の端から血が出ていた。その血を拭い、射貫くような目で睨み、殴られた痛みを返そうと末っ子は次男に向かって行く。

 雄が楽しそうに笑いながらその場から避けた背後にあった木は黒く腐食し、反撃の為にと鷹のお腹を前蹴りで蹴ろうとした足は空振り、後ろにあった木の中央に穴が開いていた。もし、この喧嘩に干渉しようものなら、どちらかの餌食になってしまうだろう。その例に先ほどまで二人を食べようとしていた熊が黒く腐食し、頭から胴体まで抉れて倒れていた。


「ちっ。いつまでもここで喧嘩している場合じゃねぇな。おい。てめぇに頼るのは癪だが、木に登って周りを見渡せ。この訳わからねぇ所に相棒がいるのは確かだからな」

「……碧生兄さんを捜すためであって、あんたの言葉を聞いたわけじゃない」


 喧嘩しながらも長男を探す為にしぶしぶといった感じで末っ子に頼り、不満な顔をしながらも木の幹や枝に足をかけ、天辺に近い所まで登っていく。


「んなこたぁ分かってんだよ。だが、この間にも相棒が攫われていたら、てめぇのせいにするからな」

「それはあんただって同じだね」


 文句を言いながらも長男の碧生が心配なのか、周りを見渡せる高さにまで行って探してみたが、この森にはいないことが分かった。となると別のところに移動しているか、すでに攫われてしまっているのかの二つだ。


「……」

「その様子だといねぇみてぇだな」

「……しばらくは休戦する。まずは森を出なきゃ」


 眉間に皺を寄せながら不満そうに降りてくる末っ子の顔を見た雄は、先程から隠れて二人を見ている何者かにイラついた顔でその人物の方へ乱暴に言い放った。


「おい! 出てこい。そこにいんのは判ってんだぞ」


 雄の指摘で慌てて出てきたのは、鉄の鎧を纏い長剣を背負う人物だった。

異世界ものって難しいけど楽しいですね!

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