第098話 渚さんとキカイジュージュートレイン
クマガヤエリアに存在する天遺物クマガヤタワー。
その巨大な支柱のような建物に辿り着いた渚たちはそこに人も機械獣もいないのを確認してから内部にビークルを止め、その中で夜を過ごすことにしていた。
「それで、どうですのクロ?」
『問題はありません。ふむ。装着するのは三つですか。まあ、動きに支障はないでしょうが』
そしてビークル内では、クロの宿ったソニックジャガーの胸元にミケが補助腕を使ってアドイン式グレネードランチャーを三つ並べた形で装着させていた。
『とりあえず捕縛弾2に対装甲弾頭が1で入れておいたよ。リンダに追従して、指示に従って戦うぐらいはできるだろう。まあ、正直に言うと機械獣というのはこちらで使用しても牽制と囮ぐらいにしか使えないシロモノだからね。あまり戦力として期待はしない方がいいけど』
ミケがそう口にする。
機械獣は敵としては厄介だが、それは数が多いことと人間の防御力の低さ故の脅威なのだ。一方で味方とした場合、ソニックジャガーに装甲を破壊するほどの攻撃力がなく、単体としての戦闘能力評価はあまり強くはなかった。装甲を貫通する銃を所持する人間の方が客観的に見れば強力ではあるのだ。
「んー、メテオライオスなんかを乗っ取ったら強力なんだけどなぁ。なんか大型のヤツでも捕獲するか?」
『そういう運用法もあるけど、ウチには他に強化装甲機がいるしね。それにメテオライオスは確保する方が難しいと思うよ』
「じゃあ、ソニックジャガーにあいつの牙を移植ってのはどうだ?」
メテオライオスから手に入れたメテオファングは今も渚のマシンアームの補助腕のふたつに装着されている。けれどもミケは首を横に振る。
『ソニックジャガーに近接戦をさせてもクロの操作じゃあすぐに破壊されてしまうよ。それにメテオファングはアイテールの消費量も多い。ソニックジャガーで使うには厳しい。まあ、他の候補がいれば乗り換えればいいんじゃないかな。スティールラットなんかが一体いれば、狭いところでの偵察には便利かも知れないしね』
「ああ、なるほど。そういう使い方もありますのね」
リンダがポンと手を叩いて頷いた。
『ソニックジャガーやスティールラットならスリープモードにしておけば保管もできますし、大型でなければ何体かは確保できますね』
「そうだなクロ。だったら、ガードマシンでもいいんじゃねえの?」
『うん。それも一案として考えておこうか』
渚たちがそんなことを話し続けていると、ビークルの運転席からミランダが声をかけてきた。
『マスター、外でルークから報告です。繋ぎますよ』
「おうミランダ。なんだよ。ルークどうした?」
現在ルークは外で見張り番をしており、交代まではまだ時間があるはずだった。それから渚の問いにルークからの返答がある。
『ふたりとも。ちょっと戦闘態勢で外に出てこい。急いで』
緊張感のある声がスピーカーから響き、渚が眉をひそめる。
「どうした? 機械獣か?」
『可能性はある。外の様子が何かおかしい。わずかだが光と銃声らしき音を拾った。近いぞ』
夜とはいえ、瘴気の霧の中だ。光も音も近くなければ拾えない。ルークの言葉が確かならば、戦闘はクマガヤタワーのすぐそばで行われており、そして現在進行形でこの場に近付いてきている可能性があった。
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『来たか。もう間近だぞ』
『たく。夜だってのによ。アレか、確かに光ってんな』
クマガヤタワーの入り口。見張りをしていたルークの元へと合流した渚が外へと視線を向けると、西の暗闇の中で何かが光っているのが見えた。
『狩猟者と機械獣か?』
『かもしれないが野盗かもしれない。野盗相手だと厄介なことになる』
『厄介?』
野盗の言葉に眉間にしわを寄せた渚にルークが頷く。
『戦って捕らえるか、互いにスルーするか。ここで捕らえても町に連行するなんて面倒はかけていられない。明確に敵対していない相手を全滅させるというのもな』
ルークの言葉にリンダが渋い顔をするが何も返さない。狩猟者は野盗と敵対しているようであって、実体は微妙な関係にあった。捕らえた野盗を取引に使うこともあるし、彼らとは事実上の交易が存在している。
『まあ、仕掛けてくるなら返り討ちには当然するが……敵対してないのであれば、互いにスルーしておくのが一般的だ。けれど……いや、あれは違うな』
ルークが何かに気付いて立ち上がった。そしてミケの方でもルークと同じものに気付いたようで『強化装甲機がいるね』と口にした。
そして、次の瞬間にマズルフラッシュの光の中で三メートルの巨人が緑の爆発をしたのが渚とリンダにも見えた。
『おいルーク、今のって!?』
『ああ、強化装甲機が破壊されたな。となるとありゃあ従騎士団か。クソッ、機械獣をたんまり引き連れながらこっちに向かって来てやがる。こっちに気付いてるワケじゃあないだろうが、籠城でもするつもりだな』
それはつまり、現在渚たちがいる場所へと機械獣がなだれ込んでくると言うことだった。
『マジかよ。あいつら、完全に劣勢じゃないか。ヤバいな、あれ。こっち来るまでに全滅しかねねえぞ。助けるでいいんだよな?』
渚の言葉にルークとリンダが頷き、それから彼らは慌ただしく動き出した。
一方でクマガヤタワーにビークルと少年少女が徐々に近付きつつあり、その背後からは続々と大型の機械獣の姿が……
【解説】
クマガヤタワー:
かつてはその場を中心に町ができていたが機械獣に殲滅されている。一方でこの場を巣にした機械獣も人間に殲滅されており、双方共にその場が狙われやすい場所であると判断し、現在では定住する存在はいない。