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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第3章 ドラゴンロード
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第097話 渚さんと機獣使い

 リンダの取り出した装置。それは何かのグリップのような、注射器のような形をしたものであった。


『それって確か……』


 その装置を見て渚が首を捻る。それは以前にスパイダーロードのコクピット内で発見したものだ。ただし、ミケでもその使用法までは分からず、一旦放置されていたのを渚は覚えていた。


『あのとき、使い物にならないって言ってたヤツだよな?』

『そうだね。ただクロには扱えそうだったから、ちょっとデータ解析をお願いしていたんだ』


 渚の知らぬ間に、ミケとクロの交流が進んでいたようである。なお、ミケはルークともエロ動画の裏ルート販売ですでに話を進めていた。渚の頭の中にあるエロい動画は本人の知らぬ間に、すでに複製されて少しずつ世に出回り始めていたのである。


『パラサイトシリンジという遺失技術ロストテックらしいですわ』

『あのアゲオアンダーシティで教団の男がガードマシンを操っていたのはこれの力によるもの……の可能性が高いんだよね』


 リンダとミケの説明に渚が『へぇ』と少し驚いた顔でパラサイトシリンジを見た。


『で、それどうやって使うんだよ。ミケには使えなかったんだろ?』

『うん。これはAIの人格をコピーして、それを打ち込んで対象を操作する装置だからね。まあ、人格データの複製が許可されていない僕にはできないものだ』

『おそらくは私がやっていたのでしょう。コピーのロックがかかっていない私は人格データの複製が可能ですし』


 クロがそう口にする。その言葉になるほどと頷きつつも、渚は捕縛弾によって捕らえられている機械獣を見た。動きを止めてはいるが、機能が停止したわけではない。今も捕縛弾が解かれる時をジッと待っている状態のはずであった。


『けどさ。アンダーシティのガードマシンはともかく機械獣だぞ。使えんのかそんなもん?』

『問題ないよ。どちらも同じ規格だし』

『マジかよ?』

『そもそもソフトウェアもハードウェアも、もうほとんど進歩できないくらい進歩してしまっているからね。僕が製造された時の時点でも過去の技術を利用しているだけの状態だったんだ。だから黒雨も防げないんだよ。それでクロ、解析は済んだのかい?』

『はい。使用に関しましては特に問題はありません。もっとも処理能力の限界で直接打ち込む必要がありますが』


 そこまでクロが話したところで、ビークルと共にルークがやってくる。


『おい、お前ら。いったい何の悪巧みをしてるんだ?』

『ああ、ルーク。なんかクロが機械獣を操るんだと』


 その言葉にルークが目を細めて『ほぉ』と声をあげた。


『機獣使いか。珍しいことができるもんだな』

『なんだそれ?』

『俺も詳しくは知らないが機械獣を使って狩りをする連中がいるんだ。まあ遺失技術ロストテックを使ってるんだろうが、そういうことができるのは知っている』


 その言葉に渚とリンダが驚きと共に、他でもやっている人間がいるのか……と思うと安心が生まれた。例え根拠としては弱くとも前例があるというのは心に安心を生む。それからリンダが意を決しクロを見た。


『じゃあクロ、お願いしますわ』

『はい。それでは、パラサイトシリンジをソニックジャガーに挿してください』


 その言葉にリンダが捕縛弾で動きの止まっているソニックジャガーの前まで行き、それからパラサイトシリンジを機械獣の首の横に刺すような形で打ち込んだ。すると先にある緑色に輝く針から機械獣全体へと放電現象が起きて、ソニックジャガーがビクンビクンとしてからガックリと倒れた。その様子に全員が注視をしていたが、すぐさまソニックジャガーの瞳に光が戻り、リンダへと顔を向けて『どうでしょう?』と口にした。


『あらクロ。そっちに移動しましたの?』

『そういうわけではありませんが。ヘルメス内の人格は現在停止させていますので、似たような状態には見えるかもしれません』

『それはなぜですの?』


 クロの言葉に首を傾げたリンダに答えたのはミケであった。


『AIは繊細だからね。同時にふたつの意識が動いていると同期に問題が生じることがある。マトリクスはヘルメスの側にあるし、センスブーストも弾道予測線も問題なく使えるだろうけどね。さてクロ、調子はどうだい?』

『問題はないようです。捕縛弾を解いていただけますか?』


 その言葉にリンダが端末を出してボタンを押すと捕縛弾のネバネバとしたものが縮小して弾頭の形に戻っていく。渚は捕縛弾をマシンアームで戻しているのだが一般的には端末より形状変化の命令を出して戻しているのである。

 それから拘束を解かれたソニックジャガーが立ち上がって伸びをすると、少し歩いたり走ったり、背の小型ブースターの入り口を開閉させたり、補助腕サブアームを出したりして自らの体のチェックを始めた。


『ふむ。問題ありませんね』


 機械獣の乗っ取りに成功したと認識したクロが頷いた。

 その様子を見ながらルークがミケに尋ねる。


『それでミケ、戦力としてはどうなんだ?』

『うーん。機動力はあるんだけど、機械獣って戦闘用じゃあないしね。まあ一応補助腕サブアームが背に収納されてるし、銃でも取り付ければそれなりに使えるんじゃないかな?』

『であればライフル銃に付けていたアドイン式グレネードランチャーの余りをいただけますか。あまり大きいものは機動性にも難がでますし、さすがに命中率には不安がありますから』

『なるほど。じゃあ後で付けておこう』


 クロの要望をミケが快諾すると、それからクロが一通りの動作試験を行ってから、渚たちは再び移動を開始した。




  **********




『にしてもホントなんもないなあ。場所もクマガヤであってんだよな、ここ?』


 そして一行の探索は続いていく。とはいえ、瘴気に阻まれた中での地道な探索だ。

 ずっと同じ場所を移動しているようにしか思えない渚からそんな声があがるのも無理からぬことだった。


『位置はだいたい合ってるはずだ。移動距離を測定するムーブロガーと地図を照合して進めてはいるからな』


 ルークが腰に下げている四角い装置を見せた。

 それは自分たちの移動情報を記録することで現在座標を示すムーブロガーという機械であり、瘴気によって位置座標が朝以外分からぬ埼玉圏では数少ない座標の確認手段であった。


『正確な座標は明日の朝にRNSで確認するとしてクマガヤで間違いはないさ。ほら、右を見てみろ』

『んー、瘴気の先になんか影?』


 瘴気の中に空に伸びている影がわずかに見えた。


『天遺物だ。クマガヤタワーって言われてる。以前はあそこを中心に町があったんだが、機械獣の集団に蹂躙されて今はもう放棄されてるんだ』

『そこって確か、旅団が利用していた時期もありましたわよね?』


 リンダの言葉にルークが頷く。


『まあな。それもやられたらしいが。ここは群馬に近過ぎるからな。よほどの戦力がないと守りきれないんだ』


 そう言ってルークが北へと視線を向けた。その先にあるのは群馬圏だ。


『……群馬圏』


 渚がゴクリと唾を飲み込む。群馬圏が危険地帯であるとはここまでに渚も何度となく聞いている。決して足を踏み入れてはならない、恐るべき場所であると。


『ええ、緑溢れる森に包まれた機械獣の楽園、群馬圏。想像するだけで恐ろしいところですわ』

『ま、確かに群馬は危険だが、そんな危険地帯についてはひとまず置いておけ。名前を出すだけで機械獣が寄ってきそうだ』


 ひどい言われようであった。


『ともかくこれからあのクマガヤタワーに向かうぞ。もう夕方だ。今日はあそこで休むからな』


 そしてルークの指示にビークルが進路を変え、一向はクマガヤタワーへと向かい始めたのであった。

【解説】

ムーブロガー:

 移動の距離を計測し、地図と情報を連動して移動してきたルートを記録する計測器。計測データにズレは存在するが、埼玉圏内に設定されたポータルポイントや朝のみ動作するRNSリングナビゲーションシステムと連動することで場所の修正をしている。

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