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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第3章 ドラゴンロード
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第095話 渚さんと沸騰しそうな脳

『スティールラットだ。数が多いぞ』

『お任せください』


 クロについての話し合いが行われた翌日。緑竜土探索のために渚たちが向かった先はリミナたちと遭遇したアサクサノリが取れる岩場であり、そこにはスティールラットの群れが道に立ちはだかっていたのである。その群れに対しミランダがビークルの補助腕サブアームを使ってライフル銃を撃ち続けるが、その攻撃をスティールラットたちは散開して避けていく。


『おや、狙いが定まりませんね』

『ミランダ。お前は攻撃はいいからビークルに接触しそうな相手だけを相手に仕掛けてくれ』

『承知しました』


 ルークの言葉にミランダは射撃を止めてスタンポールを持ったベアアームを起動させて構えた。ミケより狙撃プログラムを移植はされたミランダだが、元が戦闘用ではないためにやはり命中精度は高くはないようである。


『ま、ミランダでも牽制なら問題ないかもしれないけどな。おっと、ナギサが暴れてるな』


 少し離れた場所でスティールラットの残骸が散っていくのが瘴気の中でもわずかに見えた。渚はすでにビークルより離れ、一輪バイクで群れの本体へと仕掛けていた。


『あっちは問題ないだろう。リンダ、ミランダがこぼしたやつイケるか?』

『お任せを。クロ、お願いしますわ』

『じゃあセンスブースト行きますね』


 そしてクロの言葉の後に鈍くなった世界の中でリンダが弾道予測線に沿ってサブマシンガンを連射する。取りこぼしがなくはないが、それでも連射性能に優れたサブマシンガンならば、すぐさま追撃が可能であり、実時間にして数秒後にはリンダは迫る機械獣をすべて破壊していた。


『おいおい。やるなぁ、リンダ』

『いや、これも全部クロの力が……あら、頭が』

『おいリンダ!?』


 直後、リンダはその場でバタリと倒れて意識を失った。




 **********




「お、起きたかリンダ」


 次にリンダが目を開けたとき、その視界に映ったのは渚であった。


「あ……ら。わたくし、どうしてたんですの?」


 ぼんやりとした意識の中でリンダは今自分がいるのがビークルの中であることを察し、それから何故そうなったのかを疑問に感じた。そして、その問いに答えたのはミケであった。


『センスブーストの負荷のせいで意識が途切れたんだ。マシンレッグの演算だけでは意識を加速させ続けるのは厳しいから君の脳への負担が大きいんだ。クロ、宿主を殺す気かい』

『すみません。私の制御が甘いようでした。謝罪します』


 素直にクロが頭を下げた。どうやらリンダが倒れた状況はクロに取っても想定外のようだった。


『やはり演算能力の低さと君の認識の差が大きいし、それを修正するのも難しいようだね。クロ、戦闘データをこちらに渡してくれるかい。僕が解析して修正しておくよ』

『助かります。やはり私自身の情報のロストの影響が著しいようです』

「どういうことですの?」

『センスブーストなどの設定が恐らくは以前の宿主と住んでいた領域に合わせられたままなんだ。クロの方で調整はしているんだろうけど、誤差の修正が間に合っていない』


 その言葉にリンダが難しい顔をする。


「では、使えないということですの?」

『いや、僕が計算して制限を設けるから、なんとかはなると思うよ。まあ何にせよある程度は慣れないと危ないからね。訓練は必要だ』


 そう口にしたミケの言葉にリンダは頷きつつ、窓の外を見た。


「分かりましたわ。それで今はどこなんですの? ビークルは動いてはいないようですけど」

「ああ、アゲオ村の近くだよ。リンダの調子が悪いってんなら村に寄るけど?」

「いえ。ご心配をお掛けしてますわねナギサ。わたくしはもう大丈夫ですし、先に進みましょう」


 その言葉に渚が判断を仰ごうとミケとクロを見た。なお、ビークル内を通しての接触通信により渚とリンダはどちらもミケとクロの双方が見えていた。


『まあバイタルを確認した感じでは問題ないかな』

『正常に機能中です。作戦行動に支障はありません』

「了解。まあ、そうだとしてもリンダはちょっと休んでろよ。ルークに話してくる」

「はいですわ」


 シュンとなったリンダだが、渚も「気にすんな」と言ってヘルメットを被るとビークルの外に出ていった。




  **********




『ルーク。リンダ、起きたぜ』


 そして外でバイクに乗って待機していたルークに、渚がそう声をかけた。


『おう、そうか。心配したが杞憂だったか?』

『センスブーストってのは頭に来るからなあ』

『そうだな。脳に負荷をかけ過ぎると障害が残る場合もある。リンダにも今後、注意してもらわないとな。まあ、それはお前もだが』


 その言葉には渚も頷く。チップの力があるとはいえ、実際のところリンダよりも渚の方がよほどセンスブーストを使っているのだ。


『了解。ま、ミケと相談してやってくさ』

『僕が調整しているとはいえ、多用が良くないのは確かだからね。リンダと一緒に短期発動をうまく覚えていってもらわないと』

『へいへい。それはそれで勉強するさ。で、基地の候補地は決まったのかよ?』

『そうだな。これを見てくれ』


 ルークが自分の端末に表示している地図を渚に見せた。


『お前が通ったらしいルートと俺が狩猟者ハンター調査局で入手した情報、それにビークルに置いてあった教団の連中の端末に入っていた地図情報を総合すればコウノスかクマガヤか、或いはその先のフカヤエリア辺りが怪しい』


 アゲオ村の場所から左斜め上にルークが人差し指をスーッと動かしていく。


『ただ、この赤いラインのある圏境の可能性は薄いな』

『なんでだ?』


 ルークの説明に渚が首を傾げる。


『この辺りは群馬圏の森との境。言ってみれば機械獣との戦いの最前線だ。全部をカバーしているわけではないにせよアイテールの大爆発が起きたりしていれば、さすがにその辺りに点在させている探知機に反応があるはずなんだ』

『なるほど』

『それに圏境は機械獣が多いし、俺らだけで動くのは危険だからな。ひとまずはクマガヤエリアの南側を捜索する。で、どうだ。ミケ?』

『方針としてはいいんじゃないかな。まあ、僕から情報を漏らすことはないけどね』


 そのミケのつれない言葉にルークが少しだけ口をへの字にしてから『じゃあ動くか』と指示し、渚たちは移動を再開し始めた。

【解説】

探知機:

 圏境沿いに設置されている遺失技術ロストテックの装置。広域スキャナーをより強化したものだが、機械獣に破壊されないようにとアイテールではなく電力で動いている。

 埼玉圏内は瘴気によって通信ができないため、狩猟者ハンターは徒歩でデータのチェックとバッテリーの交換をしているのだが、機械獣の多い地域のため、探知機に向かった狩猟者ハンターが戻ってこないケースも少なくない。

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